第2話 姉さん先輩とチーズケーキ
カフェに着くと、寧々さんが一番奥の席を選んでくれた。
周りの目を気にしなくて済む場所。さすが姉さん先輩だ。気遣いがハンパない。
席に着くなり、寧々さんがメニューを渡してくれる。
どれにしようかと悩んでいると、寧々さんがふわっと笑って言った。
「ここ、チーズケーキが美味しいんだよ。甘いもの、今は必要でしょ?」
おいおい、先輩、なんで俺の心の中まで読んでるんだよ!
確かに今は甘いものでも食べて、少しでも気持ちを落ち着けたい。彼女は分かってしまうのだ。
悩むのも面倒になって、そのまま俺は寧々さんにお任せすることにした。
「じゃあ、それで……あと、コーヒーをお願いします。」
注文が済むと、寧々さんは俺の顔をじっと見つめてきた。
その目が、まるで「話してごらん」って言ってるみたいで、何か話さないといけない気がしてきた。
それも無理やり話そうとする訳でもなく、自然と話そう、ってなるようなそんな雰囲気だった。
「……なんか、昨日までは普通だったのに、急にあんなメール送られてきて……なんでって思ってるんだけど、何もできなかったんです……すごいショックで……」
自分で話しているうちに、言葉が詰まっていく。
──いや、これ以上はダメだ。
今話したら、また涙が出てきてしまう……!
俺は、顔を手で覆って視線を落とした。
こんなみっともない姿、寧々さんに見せたくないのに、どうにも止まらない。
そんな俺の手を、寧々さんがそっと握ってくれた。
驚いて顔を上げると、寧々さんは静かに微笑んでいた。その笑顔に、不思議と心が少しずつ落ち着いてくるのを感じた。
「大丈夫だよ、啓太くん。無理に話さなくていいし、泣きたい時は泣いてもいいんだよ。誰だって、辛い時はあるんだから……ね?」
そんな優しいこと言われたら、本当に泣いてしまうだろ。
寧々さん、反則だって……。
でも、その言葉が、その気遣いが嬉しくて、俺はただ無言で頷いた。
そんな俺を見て、寧々さんは何も言わずにそばにいてくれる。
ただ、それだけで十分だった。今は、寧々さんの温もりが俺の心に染み渡っていく。
やがて注文したチーズケーキとコーヒーが運ばれてきた。
甘い香りが漂って、少しだけ気持ちが楽になる。
ケーキを一口食べると、予想以上に美味しくて、心の疲れがふわっと和らいだ気がした。
「どう? 美味しいでしょ?」
寧々さんがニコッと笑って尋ねてくる。
その笑顔が本当に優しくて、心が癒される。
こんな風に美人で優しい先輩に気遣ってもらえて、俺は本当に幸運だなって、思わず思う。
「うん……すごく美味しいです。ありがとう、寧々さん」
そう言うと寧々さんはクスりと、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、よかった。啓太くんが元気になるまで、私がちゃんとそばにいるからね。これからも、頼っていいんだよ」
頼っていいのだろうか。しかしあちらが頼っていいって言ってるんだ。ここは素直に寧々さんの言葉に甘えさせてもらうことにした。
そして、寧々さんのその言葉が、胸にじんわりと染み渡った。
なんだか、少しだけ前向きになれそうな気がしてきた。
失恋は辛いけど、寧々さんがいてくれるなら、俺はきっと大丈夫だ。
「……ありがとう、寧々さん。これからも、よろしくお願いします」
そう言って頭を下げると、寧々さんはふわりと微笑んで、俺の手をもう一度軽く握り返してくれた。
その瞬間、俺の心に小さな光が灯った気がした。これからの新しい日常が、少しだけ楽しみになってきた。
この瞬間から、俺の失恋は少しずつ癒されていくのかもしれない。
そして、寧々さんとの新しい日々が、これから始まる。そう思うと、不思議と未来が明るく見えてきた。