第10話 姉さん先輩とこれから
寧々さんと手をつないで帰った日のことが、頭から離れない。
あの日のあの手の感触を何度も思い出しながら、俺はますます彼女のことを意識するようになっていた。
寧々さんも同じように感じてくれているのだろうか。
そんな思いを抱えたまま、俺は今日も大学に向かう。
サークル室に入ると、すでに数人のメンバーが集まっていて、談笑していた。
ふと、奥の方を見ると、寧々さんが誰かと話しているのが目に入る。彼女の柔らかな笑顔を見た瞬間、胸がじんわりと温かくなった。
あの手の温もりを、俺はもう忘れられない。
「おはよう、啓太くん!」
相手との話にキリが着くと寧々さんが俺に気づいて、近づいてきてから明るく声をかけてくれる。
その笑顔にまた心がドキリとする。俺は少し照れくさそうに「おはようございます」と返した。
「……昨日の手の感触まだ覚えてる?」
彼女が小声で囁くように言う。
俺の心臓は一気に跳ね上がった。そう言われると、俺だって忘れられるわけがない。
そんな驚いた反応を見て寧々さんはニヤッと笑った。してやったりの顔だ。
「え、ええ、もちろんです……忘れるわけないじゃないですか。」
思わず目を逸らしてしまう俺に、寧々さんはクスクスと笑う。どうやら俺の反応を楽しんでいるようだ。
その無邪気な笑顔に、俺の緊張も少しだけ解けていく。
「それなら、今日はもっと一緒にいろいろ話しましょうね。」
彼女のその言葉に、俺は自然と頷いた。
もっと一緒にいたい、もっと彼女を知りたい。そんな気持ちが、俺の中で強くなっていくのを感じる。
サークルのミーティングが終わった後、寧々さんが俺に声をかけてきた。
「啓太くん、今日の午後、少しだけ時間ある? 話したいことがあって。」
「もちろん、大丈夫です。」
即答した俺に、寧々さんは少しだけ嬉しそうに笑って、「じゃあ、またあの公園に行こうか」と言った。
前回の公園での出来事を思い出し、胸が高鳴る。
もしかしたら、もっと大切な話をしてくれるのかもしれない。そんな期待を胸に、俺たちは再び公園へと向かった。
公園に着くと、俺たちは前回と同じベンチに腰を下ろした。
少し肌寒い風が吹いていたけれど、寧々さんの隣にいると不思議と暖かく感じる。
「啓太くん、実は……」
彼女が何かを言いかけたとき、突然の強風が吹いてきて、彼女の髪がふわりと舞い上がった。
思わずその髪を押さえる仕草をする彼女が可愛らしくて、俺は思わず微笑んでしまった。
「ごめんね、話そうと思ったら風が強くなっちゃった。」
「いえ、大丈夫です。何の話ですか?」
俺がそう尋ねると、寧々さんは少しだけ顔を赤らめながら、また口を開いた。
「この前の話の続きなんだけど……啓太くんともっと一緒にいる時間を増やしたいなって、思ってて。」
彼女のその言葉に、俺は思わず息を呑んだ。心臓がバクバクと鳴り響き、まるで鼓動が聞こえるんじゃないかと思うほどだった。
寧々さんも同じ気持ちでいてくれているのだろうか? その確信を得るために、俺は勇気を出して言葉を紡いだ。
「僕も……寧々さんともっと一緒にいたいです。もっといろんなことを知りたいし、たくさん話したいです。」
俺の言葉に、寧々さんはほっとしたように笑った。
その笑顔が、まるで俺の心を溶かすようで、俺は何度でもこの笑顔を見ていたいと思った。
「ありがとう、啓太くん。そう言ってもらえると嬉しいな。これからも、もっとたくさん思い出を作っていこうね。」
寧々さんがそう言った瞬間、俺は思わず彼女の手を握った。あの時と同じ、優しくて温かい感触が伝わってくる。
彼女も驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべて、俺の手をぎゅっと握り返してくれた。
その後、俺たちは夕暮れまで一緒に公園を散歩した。秋の涼しい風が吹く中、彼女と手をつないで歩くこの瞬間が、俺にとって何よりも大切な時間になっていた。
お互いの気持ちを確かめ合いながら、少しずつ距離を縮めていく。この瞬間が、永遠に続けばいいのにと心から思った。
「ねぇ、啓太くん。」
寧々さんが立ち止まり、俺の方をじっと見つめてくる。
夕焼けが彼女の顔を優しく照らし、その瞳はいつもよりも少しだけ潤んでいるように見えた。
「私、啓太くんと一緒にいると、本当に楽しくて、心が温かくなるの。だから、これからもずっと一緒にいたいなって思ってる。」
その言葉に、俺は何も考えずに「僕も同じ気持ちです」と答えた。
すると、彼女はさらに一歩近づいてきて、俺の肩に軽く寄りかかるようにした。
「ありがとう、啓太くん。これからも、よろしくね。」
俺はその瞬間、彼女とのこれからをもっと真剣に考えようと決めた。
彼女がこうして自分の気持ちを伝えてくれたのだから、俺もいつか必ず、自分の気持ちをきちんと伝えよう。
そんな決意を胸に、俺は彼女の手をしっかりと握り続けた。
その日の夜、家に帰ってからも、俺の心はずっと温かかった。彼女と過ごす時間が、こんなにも心地よくて、安心できるなんて。
これからもっと、彼女との時間を大切にしていきたい。そんな思いを胸に、俺はゆっくりと眠りについた。