8 公園
ある夜、ぼくはリエドと公園にきていた。墓地からすぐ近くの公園だけど、リエドはき
たことがなかったらしい。
たまには、公園で遊ばない? 誘ったのはぼくだ。
だれもいない公園。街灯のあかりがまぶしい。
ジャングルジムのてっぺんまで、二人でのぼった。リエドはぼくに合わせて、ゆっくり
と登ってくれた。リエドならほんとうは、ひとっ飛びだけど。
ジャングルジムのてっぺんは寒かった。
「寒いね」
ぼくは白い息を吐きながら言った。
「うん」
リエドはうなずいた。でも、ちっとも寒そうじゃなかった。
ワンピースのすそからのぞく足は、素足だったし、上着もきていないのに。息もぼくみ
たいに白くなかった。
リエドが空を見上げている。
澄んだ夜空に、星がテンテンと輝く。
ぼくはリエドの横顔を見つめた。明るい街灯のせいで、リエドのはだが一段と白く見え
た。
ジャングルジムから降りて、次に、ぼくたちはブランコに乗った。
「気持ちいい」
リエドが、髪を風に吹かれながら言った。
「ブランコにのったことあるの?」
ぼくがきくと
「うん。ずっと前に」
リエドが答えた。
ぼくは、ブランコをこいだ。リエドのブランコと、高さとリズムが揃うように。
ブランコの動きが同じになると、ぼくは、リエドの方へ片手を差し出した。リエドもぼ
くの方に手をのばした。ぼくたちは手をつないだ。
てぶくろをしたぼくの手を通して、リエドの手の冷たさが伝わってくる。
「アハハハハ」
リエドが楽しそうに、笑った。
バネのついた、一人乗りの遊具にものった。小さいカバみたいに丸っこくて、座る所が
へこんでいる。リエドは赤色で、ぼくのは黄色。前、後ろ、横にぐねぐねと曲がる。
ぼくは小さい時からのっている、この遊具は好きだけど、リエドはお気にめさなかった
ようだ。
「あたし、ブランコがいい」
リエドはそう言って、ブランコにのりにいった。
ぼくはそのまま、遊具にのっていると、道路の方から、こっちに向かって人が歩いてく
るのが見えた。
道路には車が止まっていて、ブルーのライトが回っている。
警察の人だ。ぼくは思った。
帽子を深くかむった制服の警官が、ぼくに近づいた。
「きみたち、こんな時間に何をしているの?」
背の高い、若い警官はやさしい口調で、ぼくにたずねた。話し方が学校の校長先生に似
ていた。
ぼくは遊具から降りた。
「何ってべつに。遊んでいるだけだよ」
「二人だけで?」
ぼくはうなずいた。
ブランコにのっていた、リエドがぼくの隣りにもどってきた。
「名前は? どこに住んでいるの?」
ぼくはだまって、リエドの方を見た。リエドは肩をすくめて、首をかしげる。
その時、警官の携帯電話が鳴りだした。
警官は小さく舌打ちをした。面倒な連絡は、こういう時にくるものだ。
警官がポケットの携帯を取り出そうと、ぼくたちから目をそらした。
今だ。ぼくはリエドの手をつかんで走り出した。
「あっ、ちょっときみたち」
あせった警官は、先に電話に出ようか、電話に出ずに追いかけようか、一瞬、迷う。
すぐに、ぼくたちを追いかける方が、優先されると判断したらしい。電話に出ずに、ぼ
くたちを追いかけた。
ぼくたちは、公園を出ると、大通りの道を走った。
最初、ぼくがリエドの手を引っ張っていたけれど、いつの間にかぼくが、リエドに引っ
張られていた。
体がすごく軽かった。足が地面から浮いている感じがして、ぼくたちは、すごいスピー
ドで走った。
振り返らなくても、警官が追いかけてこないことは、わかっていた。
一流の陸上選手だって追いつけないし、もしかして、足の速いチーターだって追いつけ
ないかもしれない。
少しの時間しか走らなかったけれど、ずいぶん遠くまできたように思った。息もぜんぜ
ん苦しくない。
ぼくたちは、建物の陰で思いっきり笑った。めちゃめちゃおもしろかった。