16 クリスマスイブ
今日はクリスマスイブ。
パパはクリスマス休暇で仕事はお休み。それで、ぼくたちはモールに買い物にきている。
さっき、おばあちゃんにクリスマスプレゼントを、買ってもらった。黒のダウンジャケット。ぼくがずっとほしかったものだ。前にきていた赤いのが小さくなって、新しく買うのは黒がいいと思っていたから。
ものすごく温かくて、これを着ればどんなに寒いところでも大丈夫だ。あの、凍えそうに寒い墓地だって、へっちゃらだ。ぼくはこれを着て、墓地に平気でたたずむ自分を想像してうれしくなった。
夕方、パパがテレビのチャンネルを変えると、あの事件のことについて話しているのがきこえてきた。
「目撃者がいないことや、二人がお酒を飲んでいたこと、事件に関与するような女の子が見つからないことから、真相を究明するのは難しいでしょう」
真面目そうなコメンテーターが言っている。
ぼくとおばあちゃんは、キッチンでデザートを作っていた。
「女の子か」
パパが独り言のように言う。
「ブルアが、夜に遊んでいた女の子ではないんだろうな」
パパがソファー越しに振り返った。
ぼくはイチゴのムースを型に流し入れるところだった。
「うん、ちがうよ」
ぼくは作業の手を止めないでいった。
「そっか」
パパはまたテレビの方に向き直った。
「ばけものにやられたとか言っていたけれど、酔っ払いのたわごとだろう。ふらふら歩いていて、車にはねられたんだ」
パパはそう言って、チャンネルを変えた。
「ブルア、こぼれているわよ。気を付けて」
おばあちゃんがおたまを持つぼくの手をささえた。
「ああ、ごめん。もったいない」
ぼくは、型のふちにこぼれたムースを、指ですくって口に入れた。
フフフ。おばあちゃんが笑ったので、ぼくも笑った。
パパが言ったことが、本当ならいいのに、ぼくは思った。
パパのクリスマス休暇が終わり、今日、おばあちゃんは帰ってしまう。
もう少し、おばあちゃんにいてほしいけど、おばあちゃんは自分の家のことが気になるらしいから、しかたがない。
いつでも会えるんだからって、みんな言うけれど、いつでも会えないのはわかっている。
ぼくは、今までさみしいとか、あまり思ったことがなかったけれど、今日はすごくさみしい。少しの間、パパもおばあちゃんもいて、にぎやかで楽しかったのに、明日からはまた、ぼく一人で部屋にいるなんて。
一人になったら、リエドに会いに行かなければと思う。もちろん会いたいけれど、何から話せばいいのかわからないし、会うのがちょっと恐い気もする。
「さあ、ブルア、行くぞ」
部屋でモタモタするぼくに、パパがいった。
今から、おばあちゃんを駅まで送りにいくのだ。
「慌てなくていいのよ」
おばあちゃんが笑って言う。
ぼくはくつしたを、ちがう柄で互い違いにはいてしまったけれど、そのまま玄関に走った。
車の中でぼくは黙ったまま、おばあちゃんが話しかけてきても、首を横にふるか、うなずくかしか、しなかった。
電車を待つ間も、悲しくて話す気にはならなかった。
電車が線路を走ってくるのが見えると、おばあちゃんはぼくを抱きしめた。
しばらく、おばあちゃんに会えない、こんなふうに抱き合うことができないと思うと、ぼくの胸は苦しくなった。
ぼくの目から勝手に涙がこぼれた。
「またね、ブルア。元気でね」
おばあちゃんも涙声になって、ぼくから体を離した。
泣きながら、手をふるおばあちゃんを乗せた電車は、行ってしまった。
ぼくは黙ったまま、パパを待たないで、改札をぬけて車の方へ向かった。
助手席に座ったぼくの頭を、パパがポンポンとたたく。
「すぐに慣れるさ」
パパは車を発進させた。
ぼくは車の窓から、流れる景色をながめた。




