15 スノードーム
夜になり、寝る時間になって、ぼくは自分の部屋で一人になった。ベットに腰をかけて、自分の足元をながめる。
どうしてあんなものが見えたのだろう。ぼくはまた考えた。あのまぼろしを見てから、ずっと、考えている。
一人になって考えたいと思ったけれど、ぼくのためにきてくれている、おばあちゃんを一人にするのは悪いと思って一緒にいた。
「何かおばあちゃんに言いかけていたわね」
後になって、おばあちゃんにきかれたけれど、忘れたと答えた。
リエドのことは、もう、だれにも言わないと決めたのだ。
ぼくが考えていたように、おばあちゃんにリエドと友達になってもらおうなんて、到底できない。
リエドはやさしくて、思いやりのある女の子だって、ぼくは知っている。平気で人を傷つけたりするような子じゃないってわかっている。
ぼくはリエドを信じている。
そのはずだけど・・・。
もし、おばあちゃんに、何かあったらと考えてしまう。信じているなんて言っているくせに、おばあちゃんに何かあったらと考えるのは変だと思う。
変だってわかっているけれど、どうしてもその考えを変えることはできなかった。
リエドはかわいい人間の女の子じゃなくて、恐ろしいバンパイアなんだと、心の底で思ってしまう。
あの見たものが夢だったらいいのに。でも、夢じゃない。ぼくは眠ってなんかいなかったもの。
ぼくの空想が見えただけかも、と考えてみたけれど、あの見たものは、ぼくの想像をこえて、とても現実的だった。
ぼくは立ち上がって、窓の方へ行った。昨日みたいにカーテンを開けて、墓地に向かって手をふる気にならなかった。
ぼくは布団に頭までもぐり込んで、硬く目をつむった。
朝になって目が覚めた。
ぼくはベッドに起き上がり、両手を上げて伸びをした。すっきりした朝だった。
夜寝る前は、眠れないかもしれないとか、怖い夢を見るかもしれないなんて、思っていたけれど、ベッドに入ったらすぐに眠むれたし、夢も見ないで朝までぐっすりだった。
昨日のことがうそみたいにさわやかで、晴れ晴れとした気分だった。
リビングにいくと、パパとおばあちゃんが、ぼくが起きてくるのを知っていたように、声をそろえて、おはようと言った。
パパはぼくをいすに座らすと、昨日のことを質問した。
ぼくは、警察の人に言ったことと同じことをパパに言った。
夜に外に出て遊んでいたことを、パパに怒られると思っていたけれど、パパは怒らなかった。たぶん、おばあちゃんが、パパにうまく言ってくれたのだろうと思う。
パパはぼくに、夜に外で遊ばないことを約束させた。そうなるだろうと、わかっていたけれど。
「さあ、もうその話はやめて、朝ごはんをお食べ。食べ終わったら、ママのお墓に行くのよ」
おばあちゃんが言った。
ぼくはドキリとした。
ママのお墓に置いてきたスノードームとカードが、そのまま置いてあったらどうしようと思った。
でも、あのままなんてことはないはずだ。あの時、木の上からリエドはぼくを見ていたと感じたから。きっと、リエドはスノードームとカードを持って帰ったと思う。
おばあちゃんが、コーンスープとサラダとパンを、トレーに乗せて運んできた。
スープの甘い香りが部屋に広がる。
普段は朝に弱いぼくだけど、時間も遅いこともあって、今朝は何だかお腹が減っていた。
「いただきます」
ぼくはパンにかじりついた。
もし、ママのお墓に、スノードームとカードがあったら、ママへのプレゼントをぼくが置いたと言えばいいんだ。ぼくはそう考えていた。
「何だ、ブルア、キョロキョロして」
パパがぼくの方を向いて言った。
おばあちゃんが、ママのお墓に花をたむけて三人で並んだ時だった。
「別に、キョロキョロなんてしていないよ」
ぼくはムッとして言った。
ママのお墓にスノードームがないのを見て、周りを見ていたのは事実だけれど、パパはぼくのことをいちいち気にし過ぎだと思う。
でも、よかった。リエドが持って帰ってくれたんだ。ぼくは安心した。
その後、ぼくとおばあちゃんは夕食の買い物に行って、家に帰って、ホットチョコを飲んでのんびり過ごした。
昼食は軽くサンドイッチで済まして、夕食はぼくも手伝ってごちそうを作った。
デザートのプティングを食べながら、おばあちゃんとおしゃべりをした。パパの子供ころのしっぱい談を、いっぱいしてくれたのがすごくおもしろかった。おばあちゃんと一緒にいると、おもしろいことばかりで、笑ってばかりだ。
それで、ぼくはリエドのことをすっかり忘れてしまっていた。
でも、夜に自分の部屋に一人になると、リエドのことを思い出した。暗くて、寒くて、寂しい墓場に、一人きりでいるリエドのことを。
ぼくはおばあちゃんと、こんなに楽しく過ごしているのに、リエドはひとりぼっちだ。
リエドもここで一緒に過ごせたらどんなに、いいだろうと思う。
だけど、それは無理なんだ。
ぼくは閉じられたカーテンの前に立った。けれど、ぼくはカーテンを開けなかった。
なんだかリエドに申し訳なくて、ぼくはベッドに飛び込むと、布団を頭から被って、眠った。




