表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

14 おばあちゃん

 ぼくはリエドと満天の星の空を見上げていた。きらめく星の間を、光の線がシュッと流れる。

 雪がチラチラ降っているのに、ぼくはちっとも寒いと思わなかった。

 周りには建物もなく、どこにも灯りらしいものもなかった。あるのは風に揺れる木の葉と墓石くらいのものだ。

「墓飛び遊びしよう」

 リエドが急に、墓石の上に立った。そして、墓石を次から次へと飛んで行く。

 リエドは黒い服をきているから、暗闇では見にくいはずなのに、ぼくにはその動きがはっきりと見えた。

 ぼくもリエドと同じように、墓石の上に飛び乗った。

 体が軽かった。墓石の上に立っているのに、墓石の上に浮かんでいるような感じだった。

 隣りの墓石からまた隣りの墓石へ。

 まるで、飛んでいるようだった。足には何も触れていない。

 ぼくたちはしばらく墓飛び遊びをした。

「パパ、ママ」

 リエドが墓石から降りて、かけだした。

 パパとママはお互いの腰に手をまわして、ニコニコと笑いながらこっちに向かって歩いてきた。

 ぼくもリエドの後を追ってかけだした。

「おかえり」

 声を合わせて、ぼくたちは言った。

「ただいま」

 パパとママは返事をした。


 眩しくて目が覚めた。

 カーテンのすき間から、太陽の光がさしている。

 また、リエドの夢を見た。

 リエドと並んで星を見て、墓飛び遊びをした。墓石を飛んだ時の浮いている感じを、まだ体が覚えている。

 そこへ、パパとママが帰ってきて・・・。

 あの二人はリエドのパパとママだ。なのに、ぼくは自分のパパとママだと思っていた。

見たこともない人たちだったのに、パパとママだと疑わなかった。どうしてだろう。

 あの墓地はママのお墓がある墓地ではなかった。せまかったし、木々が生い茂っていたし、古い墓石ばかりで、手入れもされていなかった。

 前に見た夢みたいに、ぼくはリエドの後を追いかけていた。

 夢の中でぼくはリエドの弟になっていた。


 リビングから、パパとおばあちゃんの声が聞こえる。

 ぼくはノロノロ起き上がって、部屋のドアを開けた。

「ブルア」

 ぼくがリビングにいくと、おばあちゃんが両手を広げた。

 おばあちゃんがぼくを抱きしめる。おばあちゃんの温かくて、ぷくぷくした体が気持ちいい。

「おねぼうさんね。もう、お昼過ぎよ」

 おばあちゃんは、ぼくから体を離すと、両手でぼくの頬を包んで言った。

「おばあちゃん」

 ぼくはまたおばあちゃんに抱きつく。

「あらあら」

 おばあちゃんとぼくは抱き合ったまま、体を揺らした。

 横で、パパがクスクス笑っている。

「さあ早く着替えて。おばあちゃん、お腹ペコペコよ」

 おばあちゃんは笑って、自分のお腹をクルクルとなでた。


「おいしい」

 ハムと野菜のサンドイッチをぱくついて、ぼくは言った。

 パパも口をもぐもぐさせ、親指を立ててぼくにウインクをした。

「同じ材料で、同じものを作っていうのに、どうしてこうもおいしさが違うんだろう」

パパがオレンジジュースを飲みながら言った。

「そうね。ちょっとしたことでおいしくなるの。パンに具をはさんだら、ラップできっちり包んでしばらく冷蔵庫でねかせるの。パンが具となじんで、ぱさぱさにならないから。

「なるほど。そのひと手間が大事なんだ」

 パパが言って、二切れ目のサンドイッチに手を伸ばした。

 ぼくはジャガイモとタマネギのスープを、スプーンですくって口に入れた。

「スープもすごくおいしい」

「でしょ」

 おばあちゃんはニコニコ笑った。

 ぼくはおばあちゃんの笑った顔をみて、おばあちゃんと食べるから、こんなにおいしいんだろうなと思った、

「エレオノーラさんとアリシアさんは元気? それと、おもしろい太っちょの、ええと、名前はなんていったかな」

 パパが考えるように、上を向いた。

「マチルダね。フフフ。みんな元気にしているわ」

 おばあちゃんがワインを一口飲んで言った。

 おばあちゃんはワインが大好きで、朝、昼、晩食事の時は欠かさず飲んでいる。

「今年は、お友達とクリスマスパーティができなくて、すまなかったね」

 パパが言った。

「あら、そんなのいいのよ。私がいなくても別に変らないわ。クリスマスパーティといっても、毎月の集まりに、少しクリスマスらしくするだけだもの」

 おばあちゃんは笑った。

 ぼくは、去年の夏休み、おばあちゃんの家に遊びに行った時、おばあちゃんの三人の友達に会った。近所に住む、にぎやかな人たちで、ぼくがおばあちゃんの家にいる間、三人のうちのだれかが、しょっちゅう遊びにきていた。

 友達二人は離婚していて、もう一人は未亡人でみんな一人暮らしだった。

 当のおばあちゃんも、おじいちゃんを十年ぐらい前に亡くしている。

 その時、ぼくは赤ん坊だったから、おじいちゃんの顔は写真でしか知らない。

「そうか、それならよかった」

 パパがほっとしたように言った。

「ブルア、スープのおかわりはどう? まだいっぱいあるわよ」

 おばあちゃんが言った。

「ほんと? じゃあ、おかわりしよう」

 ぼくはお皿に残っているジャガイモを急いで食べた。


 食後はみんなで、紅茶を飲んでクッキーを食べたり、ぼくが遠足に行った時の写真なんかを見て過ごした。

 パパが仕事に出かけ、夕方になり、ぼくとおばあちゃんが夕飯の支度をしようと、キッチンにたった時、玄関のチャイムが鳴った。

 おばあちゃんが対応に出ると、警察です、と声が聞こえた。

 ぼくはドキっとした。そして、急にリエドのことを思い出した。おばあちゃんといて楽しくて、少しの間リエドのことを忘れていた。

 事件のことを調べにきたんだと、ぼくは思った。

 おばあちゃんがここに住んでいないことを説明したり、警察官が事件について話している。

 ぼくは耳をそばだてて聞く。

 警官は、事件に黒い服を着た女の子が、何か関わっているのかもしれないことと、ぼくが黒い服の女の子と歩いているのを、見たという人がいると言った。

「今日はブルアくんに、話しを聞きにきたのです」

 警官はいった。

「ブルアくん、いますか?」

「はい。ブルア、ちょっと来て」

 おばあちゃんがぼくを呼んだ。

 ぼくが玄関に行くと、ぼくの顔を見た警官がやっぱり、と言った。

「きみはこの前、夜に公園であった子だね。黒い服を着た女の子と一緒だった。あの女の子のことをききたいんだけど」

 ぼくはあの時に会った警官の顔は覚えていなかったけれど、声は覚えていたから、あの時の警官だろうと思う。

 ぼくは無言でうなずいて、おばあちゃんの顔をちらっと見た。

「ブルア、ちゃんと答えるのよ」

 おばあちゃんが言った。

 警官が事件の夜、女の子に会わなかったかと聞いたので、ぼくはドキドキした。だれか、ぼくの家にリエドが出入りしていたのを、見た人がいるかもしれないと思った。

 ぼくは警官から目をそらし、会っていないと答えた。警官はちょっといぶかしげにぼくを見たけれど、それ以上そのことはきかなかった。リエドの姿は、だれにも見られてはいないようだった。

 リエドのことは、何度か一緒に遊んだだけで、名前も住所も知らないといった。

 だって、本当のことなんて言えない。本当のことを言ったら、リエドが捕まってしまうかもしれない。それに、本当のことを言ったって、だれも信じないってわかっている。

「そうか、知らないか」

 警官はため息まじりに言った。

「でも、どうして、公園で会った時、逃げたの?」

 警官がやさしくきいた。

「だって、夜に遊んでいたことが、パパにばれて怒られると思ったから」

「そうか」

 警官は納得した様子で言った。

 警官の質問はそれで終わった。

 まさか、黒い服を着た女の子が、犯人だとは考えていないようだった。

「もう、夜は外で遊ばないように」

 警官はぼくにそう言って、ニッコリ笑った。

 戸締りを忘れないように、と最後におばあちゃんに言って帰っていった。 


 ドアが閉まると、おばあちゃんは小さくため息をついた。

「ブルア、今、警察の人に言ったことは、本当なのね」

 おばあちゃんはぼくの肩に手を置いて、やさしく言った。おばあちゃんの小さくて青いひとみが、僕をじっと見る。

「うん」

 ぼくはうつむいて言った。ぼくがうそをついたのが、わかったのかも。ぼくはちょっとハラハラした。

「夜に外で遊んでいたの?」

「うん、ごめんなさい」

 おばあちゃんはぼくの頭をなでた。

「一人で、退屈だったり、さみしかったりするのね。かわいそうに。でも、夜は、もう外で遊ばないようにしましょうね。おばあちゃんは心配よ。こんな事件も起こるんだから」

「うん」

 ぼくはうなずいて言った。

 おばあちゃんはいつも、やさしい。ぼくのことを、大事に思ってくれているのがわかる。ぼくが困っていたら、必ず助けてくれるって知っている。ぼくはおばあちゃんが大好きで、おばあちゃんのことを、すごく信頼している。

 だから、おばあちゃんにはリエドのことを、話しても大丈夫かなと思う。

 おばあちゃんにリエドのことを話して、リエドに会ってもらおう。おばあちゃんはリエドと友達になってくれるだろう。そうしたら、リエドがどんなにやさしい子だっていうのがわかるし、事件を起こしたことだって、しかたがなかったことだと、わかってくれる。

 おばあちゃんならきっと。


「おばあちゃん、あのね・・」

 と、ぼくがいいかけた時、突然、頭の中にリエドの姿が、映像になって現れた。男の人も二人いて、リエドと向き合って立っている。リエドが何か言ったあと、一人の男の人を持ち上げて地面にたたきつけた。そして、もう一人の逃げようとする男の人を追いかけ、押し倒して、馬乗りになって頬をなぐった。悲鳴をあげる男の人を尻目にリエドは暗闇に消えっていった。

 何もかも、ほんの一瞬のようなできごとだった。恐ろしかった。いつものかわいいリエドの顔じゃなかった。あれはバンパイアの顔だ。

 ぼくは動けなくなって、その場に立ちすくんだ。

「どうしたの? ブルア」

 おばあちゃんがぼくの顔を覗き込む。

 ぼくは目をつぶって頭をふった。

「だいじょうぶ?」

 おばあちゃんがぼくの背中をさする。

 ぼくは目をつぶったまま、胸に手を当てた。心臓がどきどきして、頭がクラクラする。

「ブルア、どうしたのかしら。どうしましょう」

 ぼくの様子がおかしいので、おばあちゃんがおろおろしている。

 おばあちゃんに心配をかけちゃいけない、ぼくは思った。

「じょうだんだよ」

 ぼくは舌をだして、元気に歩き出した。

「まあ、ブルアったら、びっくりしたわ。本当に驚かさないでよ」

 おばあちゃんはほっとして、笑った。

 もう、心臓のドキドキも、頭のクラクラもしなかった。

 だけど、今のなんだったのだろう。どうしてあんなものが見えたのだろう。

 本当に恐ろしかった。

 リエドのことは、おばあちゃんには言ってはいけないんだ。そう、だれにもいってはいけないんだ。ぼくはそう感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ