13 事件
昨夜九時ごろ、男性二人が倒れているのを、近くの住人が見つけ、消防に通報しました。
発見された時、一人は足に怪我を負って動けない状態で、もう一人は意識がありませんでしたが、病院で意識を取り戻しました。二人とも命には別条ないようです。警察は二人に詳しく事情をきくそうです」
リビングのテレビから、朝のニュースが流れてきた。
ぼくは立ったままテレビをみていた。
「おはよう」
パパがやってきた。
「おはよう」
ぼくは小さな声で言った。
「まだ、着替えてないのか。もう、九時すぎだぞ。冬休みは九時にはちゃんと着替えて、朝ごはんを食べ終わるって約束だっただろう」
パジャマ姿のぼくを見て、パパが笑いながら言った。
「うん。わかっているよ。ごめんなさい」
ぼくは目をこすって言った。
「昨日、あまり眠れなかったのか? 夜は騒がしかったからね。でも、おどろいた。すぐ近くでこんな事件がおこるなんて」
パパがぼくの横に立った。
テレビで女の人がインタビューされていた。
「外で叫び声が聞こえて、二階の窓から下を見たんです。そうしたら、男の人が座り込んでいて、夫と二人で近くにいってみると、道の脇にもう一人倒れていたんです。もう、びっくりしましたよ」
「怪我をしていたんですか?」
「はい、足が痛そうでした。頬に引っかかれたような傷がありました」
「何か言っていましたか?」
「よく聞き取れなかったのですが、ばけものとか、殺されるとか女の子とか言っていました」
「ばけもの?」
「はい、そう聞こえました」
「もう一人の方は?」
「倒れたまま動きませんでした」
パパがチャンネルを変えて、ぼくの頭をくしゃりとやった。
「さっき、おばあちゃんから電話があって、おばあちゃん明日、来ることになったよ」
「えっ?」
ぼくはパパの顔を見上げた。
「しばらくいてくれるって。そうしたら、おまえも怖くないだろう?」
パパは腕を組んで言った。
「ぼく、一人でも怖くないし、大丈夫だよ」
「わかっているよ。おまえは一人でも大丈夫だってこと。でも、おばあちゃんはおまえのことが心配なんだよ。おまえと一緒にいたいって。今年はおばあちゃんとクリスマスだ。たまにはいいだろう」
パパがぼくの朝ごはんのシリアルを、お皿に入れながら言った。
「うん」
普段なら、飛び上がって喜ぶところだけど、ぼくはリエドの事ばかり考えていて、喜ぶ気になれなかった。
パパが会社に行くのを見届けてから、ぼくは家を出た。
パパには、今日は家を出ないように言われていたけれど、明日おばあちゃんが家にくれば、一人で外を出歩けなくなるから。
アパートの前の道で、うわさ好きのおばさんたちが、集まってしゃべっている。
通りには、警察の車や、テレビの車が数台とまっている。ワイドナショーの中継もしていた。
ぼくはそんなざわついたところを抜けて、この前、スノードームを買った店に、やってきた。
店にどんなスノードームがあるか知っていたので、買う物は決まっている。赤いマフラーをした雪だるまの一番小さなスノードームだ。
今持っているおこずかいに見合う物は、この、スノードームしかなかった。
リエドはあのスノードームが、すごく気に入っていたみたいだけど、雪だるまのスノードームが、あれの代わりになるだろうか。
ぼくは、小さなスノードームが入った袋を見ながら思った。
事件のあった道は、人が何人かうろうろしていたので、ぼくは、その道を通らないように遠回りをして、墓地にやってきた。
曇った空は、もうほとんど暗く、この前きた時よりもいっそう寒く感じた。
ぼくは震えながら、ママのお墓の前に立って、リエドを待っていた。
リエドが登ってぼくのアパートを見る、と言っていた木を見上げる。月も出ていない暗い墓地に立っている木は、木のシルエットがぼんやりとわかるだけで、もし、リエドがあの木に登っていたとしても見えない。
でも、ぼくはあの木のてっぺんにリエドがいて、ぼくを見ているような気がしていた。
「リエド」
ぼくはその木に向かって小さな声で言った。
返事は帰ってこない。
しばらく待っていたけれど、リエドが現れる気配はなかった。
あんなことをした後だから、ぼくに会いにくいのだろうと思う。
ぼくはポケットからカードを取り出して、読み返した。
リエドへ
われたスノードームのかわりです。
あいたいです。
こんや、うちへきてください。
ブルアより
リエドに会えなかった時のために、書いてきたカードだ。リエドはあまり字が読めないといっていたので、簡単なメッセージにした。
それを、ママのお墓の前にスノードームと一緒に置いた。
リエドがスノードームに気づきますように。ぼくはその場を離れた。
その夜、リエドはこなかった。もう、十時をまわってしまった。こんなおそい時間にリエドはぜったいにこない。
一緒に遊ぼうと思って、用意していたボードゲームを片付けながら、ぼくはため息をついた。
ぼくが帰った後、お墓に置いた、スノードームとカードを、ちゃんと見つけてくれたのだろうか。
あのスノードームは気に入ってくれたのだろうか。ちっこいって言って笑っただろうか。
もしかして、カードの字が読めなかったのかもしれない。
ぼくは、ずっと、そんなことばかり考えて、夜をすごした。
テレビでやっている、ぼくの好きなバラエティ番組も、頭に入ってこなかった。
ぼくはカーテンを開けて外を見た。外は、真っ暗で、ガラスに反射した部屋の明かりが、ぼくのぼんやりした顔を映していた。
リエドが木に登って、こっちを見ているかもしれない。ぼくは両手を上げて、大きく手をふった。




