12 クリスマスプレゼント2
トランプの他のも、おもしろいボードゲームがあるから、一緒に遊ぼうと思っていた。
それにリエドは、遅く帰っても、パパやママに怒られることもない。バンパイアなんだから、どんなに遅い時間に外を歩いていても怖くないはず。
リエドだってもっと遊びたいと思っていると思う。墓地でぼくが帰るっていったら、いつもつまんなそうな顔をしていた。
「もう少し遊ぼう」
ぼくは言った。
「ううん」
リエドは首をふった。
何をいってもリエドは気持ちを変えないだろう。リエドはそういう女の子なんだ。
だけど、リエドは人間のぼくの生活にあわせてくれているのだと思う。だから、もう何も言えない。
「そうかあ」
ぼくは残念そうに言った。
「プレゼントがあるんだ」
ぼくは立ち上がって、ソファーのかげに隠しておいた、つつみをだした。
「プレゼント?」
リエドが目を大きくして言った。
「クリスマスプレゼントだよ。ちょっと早いけど」
ぼくはリエドにつつみを、手渡した。
リエドの顔がパッと明るくなった。
「あたしに? うれしい! あたしがクリスマスプレゼントをもらうなんて、おもいもよらないことだわ」
リエドは、つつみを自分の胸に抱きしめた。
「開けてみて」
「うん」
つつみにかかっているリボンを、リエドは注意ぶかくはずして、そっと、包装紙をめくった。
「うわあー、スノードーム」
リエドが大きな声で言った。
「パパのより、大分小さいけれど。気に入った?」
ぼくは、なぜか顔が赤くなるのを感じた。
「もちろんよ」
リエドはスノードームを逆さにして、ドームに雪を降らせた。
「すてき」
ドームの中に降る雪を、うっとりと見つめるリエドを、ぼくはかわいいと思った。
「じゃあね」
ドアの前でリエドはスノードームを、片手に持って手をふった。スノードームを見ながら帰ると言って、リエドはリボンやつつみを部屋に残した。
よっぽどプレゼントが気に入ったらしく、リエドは何度もぼくにお礼を言った。ぼくは恐縮してしまう。だって、どこにでも売っている安物のスノードームなのに。
だけど、リエドがうれしいのなら、ぼくもうれしい。
「気をつけてね」
ぼくは手をふった。
アパートの窓から、道路を歩くリエドを見送った。お墓から、ぼくをアパートまで送ってきたリエドを、いつもこの窓から見送る。
今夜のリエドの手の振り方は大げさだなあ。ぼくはクスクスと笑った。
ぼくは、熱いココアを入れて飲んだ。リエドも一緒にあついココアが飲めると、いいのに。と思う。
シャワーをあびるため、タオルを手に取った時、外からサイレンの音が聞こえてきた。
その音は、だんだん近づいてきて、すぐ近くで止まった。
ぼくは窓から下をのぞいた。ななめ前に建っているアパートの陰で、車は見えないけれど、救急車かパトカーの青い光が、グルグルまわっているのが見える。
急病人かな、交通事故かな、ぼくは思った。
しばらく見ていると、救急車がやってきた。その後ろにパトカーもついてきている。何台も、緊急車両がくるなんて、何かの事件が起きたのかもしれない。
窓に顔を引っ付けて、ぼくは下の様子を見た。何人かのやじ馬らしき人が道をはさんだところで話している。アパートからも人が出て来て、そちらに向かって歩いている。
ぼくは急にドキドキしてきた。まさか、リエドに何かあったんじゃないだろうか。あの道は墓地の方へ行く道だ。リエドはあの道を通って墓地に帰ったはずだ。
リエドに何かあったなんて、考えられない。何かあってもうまくかわす力を持っているのだから。
でも、不可抗力か何かで、どうすることもできないことに、まきこまれたとしたら、リエドだって。
ぼくは上着をはおった。
パパだったらこんな時間に、ぼくが一人で外へ出るなんて、絶対に許さないだろう。特に何かトラブルがあったかもしれない場所に行くなんて。
だけど、そんなこと気にしていられない。リエドに何かあったかもしれないのだから。
ぼくはエレベーターを使わずに階段を下りた。アパートのエントランスに出ると、
「ブルア」
と後ろから、だれかぼくの名前を呼んだ。ぼくは振り向いた。エスカレーターからおりてこっちにきたのは、となりの部屋のラウラさんだ。
「あんたも、見にいくの? 一緒に行こう」
ぼくは何も言わなかったけど、ラウラさんはぼくの横にぴったりとくっついた。
「ねえ、何があったと思う?殺人事件とか? 怖いわあー」
ラウラさんは震えてみせたけど、ちっとも怖がっているようには見えなかった。
ぼくはラウラさんとはや足で歩いた。現場まで行くのにすごく時間がかかったように思えた。
人だかりの前まで行くと、救急車の後ろのドアが閉められたところだった。四人の警官が電話で話したり、やじ馬の対応をしていた。
「あっ、ダニエラ」
ラウラさんが知り合いを見つけて、声をかけた。ラウラさんと同じ五十歳ぐらいの女性だ。
「ねえ、何があったの?」
ラウラさんがきいた。
「男の人が倒れていたのよ。足をけがしていたみたいよ」
「へえー、交通事故かしら?」
「わからないけれど、その男の人、何か変なことを叫んでいたらしいわ」
「変なこと? 何て言っていたの?」
ラウラさんが体を乗り出してきいた。
「ばけものとか、女の子がとか」
「ばけもの? 何それ。ただの酔っぱらいじゃないの?」
「さあねえ。でも、あたし見たの。男の人が運ばれる時、男の人の頬に三本、引っかかれたような痕があったのを」
「つめ痕?」
ラウラさんが肩をあげた。
「ばけもののつめ跡なの? 奥さんのつめ痕じゃない?」
ラウラさんがクスッと笑った。
「うん。だけど、今引っかかれたって感じ。血が流れていたもの」
ぼくは二人の話しを、横できいていた。
ばけもの? 女の子だって! まさか、リエドの事?
いや、そんなことはあるはずはない。だって、リエドがそんなことをするはずないんだ。
リエドはやさしい女の子なんだから。
でも、リエドが怒るくらい、よっぽどのことがあったのなら。だけど・・・。
もう一人、男の人が担架で運ばれてきた。
「あっ、まだ、運ばれる人がいるわ」
ラウラさんが言った。
「あの人は静かね。死んでいるのかしら」
運ばれた男の人が車に乗せられると、車のサイレンが鳴りだした。
ぼくは、前の方へ行って、男の人が倒れていただろうところを見た。
アスファルトが濡れて、黒くなっているところがあった。ガラスの破片と、小さな家と、スノードームの土台が転がっていた。




