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令嬢は樽と共に  作者: 五十鈴 りく
続編

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〈14〉魔界の門番

 ラルフが言ったように、少し行った先にコテージがあった。ここが休憩所らしい。

 こぢんまりした――と感じたのは、コーベットの屋敷を始めとする貴族の暮らしに馴染んでしまったからか。以前のオーレリアなら小さいとは思わなかったはずだと苦笑する。


「あの人変なこと言ってたし、やめときましょうよ」


 コリンは不安そうにオーレリアの服の裾をつかんでいる。


「魔界の門番ってヤツ? うん、どんなかなぁ」

「なんでウキウキしてるんですか。気をつけてくださいよっ」


 そう言えばコリンは怪談とか怖い話は嫌いだった。ちょっと背が伸びたかと思ったけれど、まだまだ可愛い弟分だ。

 オーレリアはククク、と笑いを噛み殺しながらコテージに近づいた。

 そこにいたのは――。


 茶色の毛玉だった。本当にタワシのように毛が生えていて、目も埋もれている。なんて丸いんだろう。

 結構大きいから、抱きついたらきっといい具合に埋もれられる。

 オーレリアはその茶色の毛玉――多分、犬か熊――と目が合った。向こうの目は埋もれているからよくわからないけれど、多分。

 なんとなく、すでに気持ちが通じ合ったような気がして、遠慮なくその毛玉に抱きついて顔を埋めた。


「うわ~、ふかふかふかふか」


 これを誉め言葉として受け取ってくれたのだろう。その犬もまんざらではなさそうだった。

 オーレリアと犬との間にはこうして友情が芽生えた。


「よしよし、あたしはオーレリアっていうんだ。よろしくな」


 自己紹介をすると、犬はわふぅ、と答えた。

 丸い尻尾をふわんふわん振っている。可愛い。

 しかし、何故かコリンが遠い。


「コリン?」


 オーレリアが首をかしげていると、コリンは遠くで顔を引きつらせていた。


「あ、姉御、その犬……」

「可愛いよな」

「い、いや、でかい、し……」

「でかくて可愛いよな」

「えぇ?」


 コリンは何が言いたいのだろう。でかくて可愛いなんて最強なのに。


「ところでさ、魔界の門番ってなんだったんだろ? なんかの謎かけかな? わかんないし、もう中で待ってたらいいかな?」


 ここにいたのは、でっかくて可愛い毛玉だけだ。

 ラルフにからかわれただけかもしれない。


「姉御、多分、そのでかいヤツが……」


 ワウッ、と犬が急に吠えたから、コリンはびっくりして飛び上った。

 体が大きいだけあって声もでかい。怒っているわけではないようだが。


「コリン、中に入るよ」

「あ、姉御、その犬なんとかなりませんか?」


 コリンは真剣にこの犬が怖いらしい。ちょっとブサイクなところがかえって可愛いだけの犬なのに。

 しかし、この犬は自分がコリンよりも優位に立っていると直感的に受け取ったのかもしれない。わふぅっと吠えて、コリンがびっくりして飛び上るところを楽しんでいるように見えた。


「ほら、そう苛めないでやっておくれよ。あたしのツレなんだ」


 頭を撫でてやると、わぅ、と可愛く鳴いた。仕方ないなぁというところだろうか。

 オーレリアが休憩所の扉を開けると、犬も一緒に入ってきた。コリンは――入りたくなさそうだった。

 仕方がないので、コリンのことは置いてオーレリアだけ中で待つ。コリンはきっと、居心地が悪くなったら兄の馬車で待つだろう。


 休憩所は、多分作業の合間に休むだけのところで、木製の机と椅子が置いてあるだけだ。あと、戸棚と暖炉はある。

 他には何もないので退屈だから、とりあえず犬と戯れることにした。


 モフモフが楽しすぎる。

 オーレリアが撫でまわしても、犬は嫌がらなかった。それどころか腹まで見せて撫でてほしそうに転がっている。大きい図体の甘えん坊だ。


 アーヴァインと暮らし始めたら犬とか飼いたいなと思った。犬が苦手でないといいけれど。

 どれくらい戯れていたかよく覚えていないが、隙間風が入ってきたと思ったら、戸口にラルフが立っていた。


「…………」


 何故か無言で。


「いや、あんたが入って待ってろって言ったんだよ?」

「言ったけど」


 ラルフの視線が犬に向かう。

 犬は、わふぅ? と鳴いた。なんとなくとぼけているように見えた。


「この犬、なんて名前? 人懐っこくて可愛いな」


 オーレリアが褒めたら、犬は尻尾をモップのようにして床を掃いている。ラルフはうっすらと笑顔を浮かべたのに、目が笑っていない。


「ガルム。ついさっきまでは全然人懐っこくなかったのにな。知らない間に番犬にならなくなってたみてぇ」


 ガルムは小さめな耳をペコンと下げた。可愛い。


「まあ、人にも犬にも相性ってあるからな。あたしとガルムは相性がよかったんだよ」


 ラルフはふぅん、とつぶやいたかと思うと、椅子に座ってテーブルの角に足を載せた。ラングフォード夫人が見たら激怒しそうだ。

 オーレリアはガルムに合わせてしゃがんでいたが、立ち上がる。


「なあ、親父さんにも挨拶したいんだけど」


 父親の方なら、アドラムの親父に義理があるようだからもう少し話をしてくれるだろう。

 しかし、ラルフは首を振った。


「出かけてていねぇよ」

「えー」


 ジョージを待つ間アトウッドにいると針の筵かもしれない。かといって引くのもつまらないから、何かはしようと思うけれど。


「なあ、なんでここの人たちはそんなにコーベットを毛嫌いすんのさ? 前までは普通に取引してたじゃないか」


 直球をぶつけてみると、ラルフは目を眇めた。


「そんなの、自分たちの方がよっぽどよくわかってるんじゃねぇのか?」

「え? 全然。さっぱり。これっぽっちもわかんないね」


 とぼけたわけでもなんでもなく、本気でわからない。

 それでもラルフなりに勝手に納得したらしい。


「ああ、あんたは勤め出して日が浅いんだろ?」


 オーレリアは黙った。一日だって勤めたことはないのだから。

 それだけでラルフはまた勝手にアレコレ解釈した。足を机から下ろしてうなずく。


「それじゃあ、簡単に説明してやる」

「う、うん。ありがと」


 オーレリアは期待を込めてラルフの言葉を待った。


チャウチャウちゃうんちゃう?(´-ω-`)

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