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箱崎と彼女の出会いは珈琲から始まった。
店で食事をしていた箱崎は、当時その店でアルバイトをしていた彼女に食後の珈琲をこぼされ服をビタビタに濡らした。
「申し訳ございません」と謝る彼女に対し、「外に気を取られていたこちらにも非があるのでおきになさらず」と少し格好つけて返したが、どうしてもお詫びがしたいと言われたので、後日、珈琲を奢ってもらうことになった。
喫茶店で話すうちに、
「本好きであること」
「珈琲にこだわりを持っていること」
「犬より猫派であること」
「同郷出身であること」
「ピーマンが食べられないこと」
と共通点の多いことを知った2人は、友だちという関係性になり、そこからは自然と恋人同士となった。
恋人同士になって2年、2人は同棲を始めた。
珈琲好きの2人は、毎朝決まって同じ珈琲を飲む。これが毎日のルーティンであり、2人の愛を確かめ合う儀式のようなものだったから。
お気に入りの店の新作が出たり、新規出店の店ができても、抜け駆けはしない。片方が気になったものは、持ち帰り、毎朝2人で確かめ合う。おもしろいのは、まるで兄妹のように、毎回意見が同じなこと。彼女が美味しくないと首をかしげると箱崎も美味しくないと首をかしげる。箱崎がおいしいと叫ぶと、彼女もおいしいと言って笑う。
それが、お互いに楽しく、嬉しかった。恋人でもあり友だちでもあり、趣味仲間のような関係だったから。
それがずっと続くと思っていた。箱崎も彼女も。
しかし、徐々に2人は互いの嫌なところ、合わない部分などが見えてきた。当たり前だ。育ってきた環境も違う、
ロボットでもない限り、全く同じ考えにはならない。
それは分かっていても、惹かれた理由が「共通点の多いこと」だったため、自分と合わない……相手が合わせられない人間だったことが、お互いに気に入らなかったのだ。
端から見ればくだらない理由ばかり。だが、本人たちはそんな1つ1つだけでも気になるし気に入らなかった。
「大切なものは、なくなってから気付く」
彼女という存在が箱崎にとってどれだけ大切な存在だったか……
今さら後悔したところでもう遅い。