89話
解析開始から凡そ5時間
「大体分かった。『ハイドラ』のダメージ経過の推測を記録開始」
『了解いたしました』
「まず第一前提として。リアとの戦闘の前に『ハイドラ』は謎の近接特攻型ストレングスギアと戦闘を行っている」
『機体予測としては、恐らく撃墜を目的にした機体ではありません』
「だな。多分だけど・・・デカいダメージを与えることだけを考えている機体だ」
推進剤や機体のエネルギー。それら全てが後の事を考えていない。
文字通り一瞬の最大火力のみを追求した特化機体。
「現存している装甲部分から、最も火力の高い武装はパイルバンカー」
『次点でバーストバリア。そして近接ミサイル』
「そしてここがポイント。最も効果的だった一撃は・・・恐らく、リアの攻撃で消し飛んでいる」
リアの何かしらの攻撃で『ハイドラ』は中心部であるジェネレーターごと装甲が吹き飛んでいる。
その周辺部の装甲を調べたところ、何かの力によって無理やり開かれたかの様な状態になっていた。
つまり、リアの攻撃は別の何かの攻撃によって出来た穴をこじ開けていたのだ。
そしてその穴を開けたのは・・・
「近接特攻型ストレングスギアのパイルバンカー・・・それも、かなり性能の良い物だな」
『被弾部分の様子から、現在ランナーが所有しているレイドボス用汎用武装以上の火力があります』
「つまり、あれ以上はバズーカとかを持ちださないといけないわけだ。それも至近距離で当てるとなると・・・」
『現状の機体では難しいかと」
「だな。俺では無理だろうな」
これが俺とキクヒメの出した結論。
『ハイドラ』を撃墜するきっかけを作った一撃を叩き込んだストレングスギア。
それの持ち主は、最低でも近接戦なら俺より強い。
俺が同じ機体同じ武装で戦えと言われても、ハイドラ相手に戦う場合は同じ戦果は出せないだろう。
「俺以上の腕のランナーとなると限られるんだがな・・・あいつか?」
『知り合いとは限りません』
「分かってるよ。だけどもしかしたら『過去に俺と同じ存在がいた』っていう可能性は否定できないだろ」
そこがデカい。
そいつがハイドラと戦った後にどうなったかは分からない。
だが間違いなく、俺と同じ存在がこの世界の過去にいたのだ。
「ん~・・・ワンチャン。そいつの遺産とか残ってないかな」
『基地に類する物が残っていれば、かつてのデータを得られる可能性はあります』
「ストレングスギアの方もそうだけど。俺の知らないこの世界の事とかも残してあるといいんだけど・・・」
まぁ今は後回しだろうな。
今はリアの頼みを終わらせてしまおう。
つっても、後は報告するだけなんだけどさ。
早速リアから貰った水晶玉を使おうか。
水晶に触れて、リアの顔を思い浮かべる・・・少し待つと、水晶にリアの顔が映し出された。
『お。ちゃんと使えているようだな』
「まぁ説明は聞いたしな。ハイドラのダメージ分析だけど、終わったぞ」
『なんと。もう終わったのか』
「構造解析とかは全く進んでないけどな」
そっちに関しては多分後何か月とかかかりそうで笑ったよネ。
「まぁそれはいいわ。んで、早速結果報告でいいか?」
『しばし待て。メモを取りたいのでな』
「あいよ」
『誰かいるか―?』
リアの声が一瞬遠くなった。こんなことまで聞こえるのか。
大体3分ほどで、リアの方で複数人の足音が聞こえた。メモのために纏めて呼んだみたいだな。
『すまんすまん。頼めるか?』
「OKOK。じゃあまずは・・・」
始めにリアの与えたダメージに関する報告を行う。
リアが行ってであろう攻撃の中で、有効打と言えるような一撃はやはりジェネレーター部分の装甲のみ。
他にも細かいダメージはあったが、あれは恐らく牽制のための攻撃だろう。
ここは俺の推測でしかないが、止めを確実に決める為にその一撃にだけ賭けたのではないだろうか。
「大体お前のはこんな物だな」
『ふむ。凡そお主の推測も合っているな』
「やっぱりそうだったか。んじゃ、次はお前と戦う前のダメージについてだ」
『・・・』
リアの様子が少し変わった気もするが、気にせず報告を続ける。
調査の結果、リアとの戦闘の前に何者かと戦っているということ。
それが、ハイドラを倒すのではなくとにかく後に続くように大きなダメージを与えることのみを考えられた機体であるということ。
そして・・・恐らくその機体のランナーはその時に死んでいる可能性が高いということも。
「機体の特色は、近接特攻型。右腕にデカい釘打ち機が付いてる」
『・・・とっつきというやつか?』
「ん?知ってるのか」
まぁ似たような物はあるのかもな。
「後は単純に、バーストバリアって言う近い敵をバリアで吹き飛ばすやつ。
もう一個は近距離の敵に当てる為のミサイルだな」
『・・・コウ』
「ん?何か質問か?」
『その機体・・・私と戦う前に戦っていた誰かの機体の色は分かるか?』
「は?色?」
色か・・・まぁ難しい。
今回は調べてないから何とも言えないが、まず分からないと言った方がいい。
何せ機体の色はその装甲に付随しているもので、武器のダメージで分かる物ではないから。
分かる場合としては、敵機体の一部にその機体の装甲が付着している時のみ。
だが俺が調べている間も、キクヒメからそういった報告はなかった。
「まぁそんなわけで、先ず分からないな」
『・・・そうか』
「・・・色が重要ってんなら、俺の知り合いの機体の色なら答えられる』
『知り合い?』
「俺の知り合いの中で、唯一同じコンセプトのストレングスギアを持っていたやつ」
近接特攻型というのは、非常に扱いが難しい機体であるから使用者が少ない傾向になる。
それでもロマンを求める為にと、支持は結構厚かったりする。
俺の知り合いにも当然そういうやつはいた。
そいつ一人だけだったが、腕前はピカイチ。ここぞという時の踏み込みでは、間違いなく俺より上だった。
「機体の名前は『オールド』・・・赤茶色の機体だった」
『・・・そやつの名前は?』
「本名じゃないが、俺の知ってる名前は・・・」
リアは俺の知り合いの名前を聞いた後は、殆ど上の空で報告を聞いていた。
多分周りの人がメモは取っただろうから、後で確認は出来るだろう。
「だがあの反応だと・・・」
『恐らく、該当人物だと推測されます』
「だろうな・・・はぁ。そうか。あのバカここに来てたのか」
前の世界での俺の最後の記憶では、まだそいつは普通にゲームで遊んでいたはずだ。
だがそいつは俺より前にこの世界に来ていた。それは間違いないだろう。
「ってことは、あいつの遺産が残ってる可能性がある」
『推測ですが、リア様がお持ちかと』
「だろうな。てか、よく考えてみればおかしいんだよな」
ハイドラの置いてあったあの地下。
あそこの光景を今思い出すと、俺の基地の倉庫にそっくりなのだ。
暗くてあの時は何も思わなかったが、今思い出すとそうなのだ。
つまり、ハイドラがあったあの場所はゲーム内の基地の倉庫。
「それも『レギアス』のやつのだな。他の部屋が見れれば完璧に分かるんだが」
『難しいかと』
「だよなぁ。だってリアの反応が完全に無理なタイプの反応だったもんなぁ」
何と言うか・・・思い入れが強い人間の事を考えている顔をしていたのだ。
それは『レギアス』とリアが深い関係にあったことを伺わせるには十分。
「勝手に推測するから記録とれ」
『了解いたしました』
「あの街・・・『ノースアルラ』はレギアスの上、或いは基地そのものを改築して出来た街だ」
キイナさんも言っていた。あの街は、俺の基地に似ていると。
つまりはそういうことなのだろう。
「レギアスとリアの間に何かがあった。だけど、リアは恐らくレギアスの最後を知らなかった」
何故知らなかったのか。そこまでは分からないし、推測するのも野暮な事なのだろう。
「・・・はぁ。どうすっかなぁ」
レギアスは、ゲーム内だけとはいえ知り合いだった男だ。
だから、奴がこの世界でどう生きて、どう死んでいったかには興味がある。
それに残された遺産には、俺にも大きな価値がある物が多いだろう。
回収したいし、是非とも調べたい。
だがそれはリアの怒りを買いかねない。
折角この世界で手に入れた有力者との繋がりを失うというのもあるし、
単純にあの戦闘力のドラゴンと戦いのはちょっと勘弁願いたい。
それこそ『グランデス』を持ち出す必要が出てくる。
「フィアは何か知ってるかな」
『年齢とハイドラとの戦闘時期が合いません』
「でも長いこと仕えてたなら、色々聞いてる可能性はあるだろうよ」
フィアに聞く文には大丈夫だろう。リアが口止めしてなかったらの話だが。
「あーもう止め止め。答え出ないわこれも」
別の事を考えようか。
レギアスがこの世界にいたということから考えられる別の事を。
それは、俺以外のランナーが今の時代にもワンチャンいる可能性があるということだ。
「俺の知り合いとは限らないが・・・困ってる可能性は高いよな?」
『他のランナーが、我々より状態が良い確率はかなり低いです』
「だよなぁ・・・だって、他の連中ってまともな移動拠点持ってないんだもんなぁ・・・」
ランナーの中で当然持っている物がある。
一つは当然ストレングスギア。もう一つは拠点だ。
その拠点はNPCの街の中にこじんまりとある物でもいいし、基地でもいいし、俺の『サーベス』みたいな物でもいい。
だが人気だったのは断トツで基地だ。何せカスタマイズ性が他の二つとは全然違う。
『サーベス』みたいな移動拠点は金と労力と資材さえ豊富なら同じようにカスタマイズ出来るが割りには合ってない。
この世界に来た時には、俺はそもそも『サーベス』しか持っていなかった。
だから基地を元から持っていたプレイヤーがどういう風になるかは分からない。
だけどもし、基地はこちらの世界に転移してこなかったなら・・・
「身一つ。ストレングスギア一つで来ることになるな」
その状態だったら、俺は生き残れただろうか
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