63話
(チョイチョイ
「ん?クロウさんの精霊さんですよね?どうかしたんですか?」
(クレクレ
「えーっと・・・」
『ガウ?』
「あ、クロウさん。この子が何を言っているか分かりますか?」
『アウ』
(クレクレ
『・・・クゥーン』
「ど、どうかしたんですか・・・?」
『・・・アウ』
「・・・ええ?」
今日も今日とて日課の研究研究~と、家地下に拵えた開発室に籠ろうかとしたところ、キイナさんに呼び止められた。
「何かありました?」
「実は・・・」
今朝、俺が起きる前に家に来たところ、クロウの契約精霊に話し掛けられたらしい。
自分と契約していない精霊に呼ばれるなど、それこそののか達以外では滅多になく驚いたそうだ。
そしてその精霊がキイナさんを呼んだ案件で地下に行く俺を止めたらしい。
「ほう。名前が欲しいと」
「そうみたいなんです」
(クレクレ
「何その動作」
手をちょいちょいと動かして何かを要求しているようだ。
それにしても名前か。
契約した段階でも名前は無いのは知っていた。
そもそも精霊の名は、契約した際に契約者が名付けるのが基本だからだ。
当然、精霊としての名前は別にあるらしいが、俺達はそれを知ることはない。
「んで?急に欲しがった理由は?昨日までそんな素振りなかったじゃんか」
名前を付けた方が、愛着がわきやすいとか、コミュニケーションを取りやすいと色々理由はある。
だがクロウとこの精霊は、それ抜きで完璧な意思疎通を見せる。
会話無し、目配せ無し。何もしないでも文字通り完璧。
村長ですら感嘆したあの動きは、それこそ名前なんていらないレベルだと思うのだが。
理由を聞くと、どうにも可愛らしい理由ではあった。
「え?名前で呼ばれたい?」
「何と言うか・・・珍しい理由ですね」
「そうなんですか?」
「はい。そもそも精霊は、普段名前で呼び合わないので」
「なるほど」
精霊としての名前。これは生まれた時からと言うよりは、精霊としての力を示す名前らしい。
俺もつい最近まで知らなかったが、ダイジュナなんかもこれ以外に名前があるらしい。
ちなみにだが、アルディーンの場合は事情が異なる。
かつての契約者に付けられた名がアルで、力を示す名がディーンなんだそうだ。
彼女は特殊な例で、そのまま名乗っているらしい。これも彼女の契約者との間にあった出来事でそうなっているらしい。
ともかく、この精霊がクロウに名前を呼ばれたがっているのは分かった。
そしてそれが精霊にしては珍しいということも。
「だけど俺達が付けた名前でいいのか?」
「そう。そこなんですよ」
「あ、もしかして最初にキイナさんに言ってきたのって」
「はいぃ。私に代わりに付けてって言うんです・・・」
「なるほど。クロウも?」
「その通りで・・・」
何してんだあいつと言いたいが、まぁ流石にそれは無茶か。
流石にクロウとて、名前を付けるのは無理だろうな。
なにせその為の知識が無いのだから。キクヒメに頼んでいくつかピックアップしてもらった後で選んで貰えば・・・
「あ、そうすればいいのか」
「何かいい案があるんですか?」
「あるある。すごく楽な案があります」
「そ、それは一体・・・」
「キクヒメー」
『御用でしょうか』
「こいつの見た目に合いそうな名前、20個程ピックしておいて』
『了解いたしました』
「これで良し」
「・・・え?」
「いや、これで終了ではないですよ?」
この後が大事なのだ。
どうせクロウもキイナさんに任せたということは、俺でもいいというわけだ。
それはつまり、キクヒメでもいいと言うことだ(謎理論
ぶっちゃけると、俺が一々考えるよりセンスの良い名前を考えてくれるだろう。
ののか達は俺が決めたが、それは俺の精霊だからってのが大きい。
そしてキクヒメにいくつか選んでもらい、その後で一緒に決めればいいのだ
(???
「だから、クロウと一緒に自分の名前決めちゃいなってこと」
(パァ
「お前本当にクロウの事好きなんだな」
「そうみたいですね~」
クロウも悪い気はしてないと思うが。反応的には。
ふむ。それにしてもやはり分からない。
俺も人の事は言えないらしいが、クロウはこの精霊に驚くほどに気に入られている。
いや、そういうレベルではなく、愛されている。
俺やキイナさんだって、それぞれの精霊から好意を向けられているのは分かっている。
だがそれ以上に、この精霊はクロウのことが好きなのだ。
それこそ、契約出来ない時期からずっと背中に乗るくらいには。
・・・ちょいと忘れてた俺に対してジト目を向けてくるくらいにはな。
これもあのコンビネーションの良さに関係があるのだろうか。
興味は尽きないところだ・・・
『ピックアップが終了しました』
「お、流石の早さ。クロウ!」
『アウー』
キイナさんの足元で寝る体勢でいたクロウと呼ぶ。
当然頭には精霊がセット。もはやそういうおもちゃみたいだ。
キクヒメが表示したリストを見せて、これからやることを伝える。
「ほれ、こっから名前選びな」
『・・・ウ?』
「は?俺の意見。いらんいらん。お前の相棒だろうよ」
ああ。もしかしてこいつが自分で名前を付けなかったのはそれもあるのか?
自分は俺のロボペットだから、勝手にそう言うことをしていいのかと。
キイナさんなら、俺でも文句は言わないだろうし近くにいたし丁度いいかって感じか。
「私そんな理由で選ばれたんですか・・・?」
「まぁ俺が寝てたからってのが大きいのかもしれないですけど」
「どっちにしろ複雑なんですけど・・・」
真相はクロウのみしか知らないので闇の中だ。
あいつはこういう時は答えてくれない。
俺達からちょっと離れたところで、一緒に画面をのぞき込みながら名前を選んでいる二体。
ぱっと見だけなら、種族違いの恋人のようだ。
「・・・そういえば」
一緒になってそんな二体を見ていると、キイナさんが何やら思いついたように聞いてきた。
「コウ様は、あの子がどういう生物なのかご存じですか?」
「・・・あれ?いないんですああいうの」
「少なくとも、この森では見たことはないですね」
「へぇ~。まぁそういうこともあるか」
知ってはいるが、俺の世界にはいない生物だ。
要するに、現実的な動物ではないということ。
「てか、獣人ってあんな感じじゃないんですか?」
「え?コウ様の世界での獣人はこういう姿なんですか?」
「あらま」
どうやら違うらしい。
クロウ大好き精霊。その姿はまさに獣の人間と言った感じなのだ。
見た目は完全に犬・・・いや犬?犬なのかこいつは?
・・・まぁともかく、犬っぽい何かなのだ。
毛皮に覆われていて、立たない限りは普通に動物だろう。
だが特に違和感を感じさせずに、普通に立つのだ。二足で。
だから俺は、この世界の獣人はこれがデフォなのかと思ったのだ。
封国にはいなかったから、実物は見たことなかったし。
でもキイナさん曰く、全然違うらしい。
「獣人の方は、もっと私たちに似ていますよ?」
「例えば?」
「大きな違いと言うと、動物の耳や尻尾があるくらいですし」
なるほどそういうタイプだったか。
ケモ度が低い、ケモナーには受けがあまりよろしくないタイプらしい。
まぁそっちの方が万人受けはしそうだが。
何の話をしているんだ俺は?
「まぁともかく、俺的にはあれは獣人に見えましたね」
「全然違うんですね」
「まぁ俺の場合は話に聞いただけってのはありますけど」
「そうなんですか?」
「はい。そもそもエルフだっていませんでしたよ」
「・・・えぇ!?」
「そんな驚きます?」
めっちゃ驚くじゃん。
「だ、だって・・・コウ様が初めて見たエルフが私たちと言うことに!?」
「そ、そうなりますね・・・?」
「だ、大丈夫でしょうか。我々はご期待に沿えているのでしょうか!?」
一体何がキイナさんを悩ませているのだろうか。
あとエルフに対する期待って何。
その謎は、どうもこの世界のエルフに対する印象の話に繋がるらしい。
「えっと・・・コウ様の世界では、私たちエルフはどのように知られているのですか?」
「えーっと」
森の住人とか守り人とか。
精霊に関する話も多いな。それに合わせて魔法が得意ってのもあった。
うん。この村のエルフそのままな印象だな。
「あ、後は綺麗な人が多いですかね」
「うっ・・・やっぱりそれはあるんですね」
「え?そこ?」
要するに、この世界の住人はエルフに対する期待値が高いらしい。
キイナさんの祖父から聞かされた話・・・殆ど愚痴のようなものだったそうだが、、
その中にエルフがとった行動で、大したことじゃないのに驚かれたという話が多かったそうだ。
「例えばその・・・汚い物を嫌ったりですとか」
「ああ。でもそんなイメージあるかも」
「そんなこと無いんですけどね・・・」
血で服が汚れるの嫌うイメージはあるかもしれぬ。
何と言うか・・・そう、お高いイメージなのだ。そういうのから引っ張られているのかもしれない。
まぁこの村に住んでそろそろ二か月になる俺だから、そんなイメージは消えているが。
男衆とか普通に狩りで得た獣を捌くから血だらけになるとかザラだし。
女性陣も似たような物だ。俺の中のエルフ像は、そう言う意味では原型を留めてはいないのかもしれない。
「まぁその方が親しみやすいし、良いんじゃないですか?」
「そ、そういうものなのでしょうか・・・?」
「てか、キイナさん村の外出る予定とかあるんですか?」
「な、ないですけれど」
「じゃあ心配するだけ無駄なのでは?」
「う・・・それを知ってたらもっと頑張ったんですよ」
「いや、別にそれでがっかりとかはしないんで」
「期待されてなかったということですか?」
「違う」
やべぇちょっと面倒なスイッチが入った気がする。
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