56話
「おっすお疲れー」
「いやこちらの言葉だが・・・大丈夫なのか?」
「何が?」
「明らかに正気ではなかったが・・・」
「あー」
まぁ傍から見たらそらそうですよね。
ののか達は猫玉ラックから伝わる情報で俺が何も問題ないのは分かっていた。
だがダイジュナ達には流石にそれは見えない。
何も知らない状態で見たら、いきなり体が変化して狂ったように敵に襲い掛かる狂人だ。
「あれはああいう戦い方が効率の良い状態ってだけだから」
「む。なら良いのだが」
「てか、お前もいつまでその恰好なんだ?」
「ん?」
ダイジュナは、ずっとズレてない状態・・・強い状態のダイジュナのままなのだ。
もう戦いは終わったし、問題なく勝てたんだから戻ってもいいと思うんだが。
そう思っての発言だったのだが、どうも俺の考えが違ったらしい。
「いや。戻るも何もこれが本来の状態なのだよ」
「え」
「普段は力の殆どを別の所に置いていてな、今は魔力を溜める器を利用して戻っているだけなのだ」
なるほど逆だったのか。
そら確かに戻るってのはおかしなことになってしまうな。
今の状態も、普段の状態も、ダイジュナ的にはあまり感覚は変わらないそうだ。
でも強いままだと、周囲への影響が大きいのであえて弱くしているそうだ。
精霊の力は、それだけで大きな影響を与えてしまうのは俺も実感したからな。
「あの、ダイジュナ。そろそろ」
「ん?おお。すまんすまん。お互いに自己紹介も出来取らんかったな」
俺も気になっていた。
ダイジュナの背後に立っていた、透き通るようなという表現が相応しいその女性。
ののかの様に完全に人間の形をした精霊。
「水の精霊。アルディーン・・・様?」
「ふふ。様などと呼ばないでください、勇者様」
「勇者もやめた方がいいと思うがの」
「よくわかってるなダイジュナ」
その通りですやめてください。
「そうなのですか?今代の勇者では・・・」
「ああ違う違う。こやつは我と偶然知り合った流れ人よ」
「まぁ!そうだったのですね」
「・・・サトハさんサトハさん」
「はい。どうされましたか?」
「あの人・・・本当に精霊か?」
「はい?」
「いや・・・何て言うか・・・違和感がすごいんだが」
存在自体がダイジュナと似たような存在なのは分かるのだ。
『アビスキュイラス』のレーダーもそうだと示している。
だが何と言うか・・・ダイジュナと比べて些か浮いている感じがある。
存在自体がと言うよりは、彼女自身の立ち位置が変な位置にあるというかなんというか。
むぅ。言語化しずらいな。
だが、なんとなくサトハさんは分かってくれたようだ。
「アルディーン様は、他の精霊の方とは少し違う存在ですので」
「あ、そうなのか」
「はい。あの方が封印魔法を使うことになったのも、それが原因でもあります・・・すいませんここからは」
「ああ。本人からそのうち聞くよ」
どうやらあまり踏み込むべきではない話題のようだ。
封印魔法が関わってくるのなら、少し気になるところではあるが。
そして、サトハさんから少しだけ話を聞けたところで、あちらの話も終わったようだ。
「すまん。今説明を終えたぞ」
「いやまぁいいんだけどさ」
「そう言うな。では改めて、こちらは水の精霊アルディーンだ」
「アルとお呼びください」
「そしてこっちが、流れ人のコウだ」
「一応それ愛称なんだけど?」
「ん?・・・まぁいいだろう。どうせ誰も呼んどらんし」
「・・・そういやそうだな」
言われてみれば、俺自分で自己紹介する時ですら本名名乗った記憶が薄いんだが。
別にそれで困ったことは起きたことないんだけど。
軽い自己紹介も済ませたところで移動することになった。
確かにここで立ちながら話すってのも何かな。
バイオティラノはもういないけど、封印の名残である氷は健在なわけだし。
途中で、アルがダイジュナに乗りながら移動することになった。
多分まだ本調子じゃないんだろう。
「それでも思ってたより元気だな」
「ダイジュナに魔力を分けてもらいましたので」
「同じ精霊だからこそだがな。それでも出来る者は少ないが」
そんなことも出来るのかと、また一つ学びを得た。
移動した先は神殿の間。
サトハさんが先に向かい準備をしてくれたので、既に椅子とテーブルが並べられている。
「こちらにどうぞ」
「ありがとうサトハ」
「いえ。我ら一同、アルディーン様のご帰還をお待ちしておりました」
「貴方達にも、迷惑をかけてしまいましたね」
「そんな!あなた様がいたからこそ、我らがいるのです!」
「あっちはあっちで嬉しそうだな」
「それもそうだろう。なにせ何世代も積み重なって来た願いが叶ったのだからな」
「サトハさんの声だけは、聞こえてたんだっけか」
「ああ。だがサトハはアルの声を聴いたことが無かった」
「感動も一入ってわけだ」
サトハさんだけでない。
ここに来る道中で、様々な人がアルの帰りを待っていた。
それぞれ 複雑な感情があるのだろう。
皆涙を浮かべてはいたが、その顔には笑顔があった。
「もう少し見ておくか」
「そうするか。ののか達はどうした?」
「寝てるよ。緊張と疲れが一気に来たみたい。ほれ」
「おや・・・確かに、頑張っていたな」
「本当にな」
勝ちの一手こそ、『アビスキュイラス』の切り札だったが、ののか達は本当に良く頑張ってくれた。
俺の指示を聞いて武装を変えたり、俺に渡したり、直接撃ってもらったり。
何か一つでも失敗すれば、俺が怪我をしたりするかもしれない。
最悪、全部がダメになってしまうかもしれない。
そんな重圧は、間違いなく合ったはずだ。
その中で戦い抜いたのだ。始めての戦闘だったが、十分すぎる働きをしてくれた。
「後で良いおやつもでも上げるかな」
「そうしてやれ」
「おやつですか?」
「おお!?」
「お、もうよいのか?」
「はい。後でゆっくりと語ることは出来ますから」
「うむ。まぁ千年近くもあるのだ、話すことなど山のようにあろうな」
「・・・は?千年?」
「ん?教えたと思ったが・・・言っとらんかったか?」
「聞いてないねぇ」
千年・・・千年か。
その間ずっと封印を掛け続けてたんだろ?精霊ってのはマジで精神面では人間とは比べ物にならないな。
だって、ずっとそれ以外使えずに、会話も出来ない。
人間じゃ無くたって、心のある者なら発狂してもおかしくないぞ。
「そもそも寿命がないからなぁ」
「はい。確かに永い間、氷の中にいるのは苦痛でしたが・・・孤独ではなかったですから」
「サトハさん達か」
「はい。彼女だけではありません。彼女の子供達が、私と共にいてくれましたから」
封印の守り人であり、管理者でもあるサトハさんの一族。
彼らは、一体どんな思いでここに居続けたのだろうか。
親のそのまた親、もっと遡り続けた人間の思い。
その思いから始まった彼ら。だが、その思いは、無下にしても良かったはずだ。
だが、どうしてそれをしなかったのか。誰一人投げ出さなかったのか。
(俺には・・・到底分からないことだろうな)
何せ、自分の親の願いですら理解出来なかったのだから。
いや、分かってはいたが・・・その方向性を間違えてしまったから。
だからきっと、俺は彼らの思いは分からない。
だがどうしてか・・・少しだけ羨ましくも思う。
「なんて、ガラでもないな」
「何か言ったか?」
「何でもないよ。てか、俺は俺で聞きたいことがあるんだけど」
「はい。何なりとお聞きください」
「そうさせてもらうよ」
バイオティラノも倒して、アルも無事だった。
だったら、俺の好奇心を優先しても良かろう。
そもそも初めに封国に興味を持ったのは、封印魔法なのだから。
「ダイジュナからは、あの封印は時間を止めた物だって聞いた」
「はい。その通りでございます」
「それに関して色々聞きたくってな」
「なるほど。それでしたら、私よりサトハの方が良いかと」
「ん?そうなのか?」
アルは完全体の精霊だし、そっちの方が人間より知識を持ってそうだから出来るならそちらから聞きたかったのだが。
いや、詳しいとは言ってないのか。サトハさんの方が良いって言ったか。
「どういうことだ?」
「私の使う魔法は、彼女の先祖・・・私の契約者が使っていた物を真似しただけですので」
「ん?・・・でも、使えるんだよな?」
「はい。私の精霊として力を使って強引にですが」
「・・・ああ。なるほど」
理解した。アルはその魔法が実際にどういう物かを理解しているわけではないのだろう。
その封印魔法を見て、自分の出来る範囲で真似して、それでも足りない部分を力技で補ったのだ。
なるほどなるほど。それでは確かに教えられないな。
何せ教える為の土台が存在しないのだから。
「サトハは、きちんと彼女の魔法を受け継いでいますので」
「教えるなら、そっちの方がいいわけか・・・お願いできます?」
「はい!私などでお力になれるのでしたら!」
サトハさんに快諾してもらった。
これで俺の最初の目的は果たせそうだな。
後はこの国にある面白そうな魔法道具を見せて貰ったり、ワンチャンもらえたら最高なんだが。
「おお。そうだった。サトハ、あれをコウに」
「今お持ちしていますので、少々お待ちを」
「ん?何かくれんの?」
「お主、確か魔法道具に関心を寄せていただろう?先に来た時に頼んで纏めてもらっていたのだ」
「お!それはありがたい」
「道具程度では、我々が受けた恩を返せませんが、せめてもと思いまして」
「いやいや~」
ヘタに金とか貰うよりずっと嬉しいぞ。
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