55話
戦闘開始から20分。
アビスキュイラスの特性上、弾切れが起こることはない。
『カオスエッジ』に依る近接戦も挟んではいるので、機体のエネルギー切れが起こることもない。
それにこの程度の戦闘時間なら、俺自身も問題ない。
だが、ここまで膠着状態が続いているとやや参ってくる。
ののかが『サンダーバード』をときどき撃ってくれてはいるが、それも大きなダメージにはならない。
盾機銃も当然同じだ。ライチ達の方が若干疲れてきている。
「まずいか」
『猫玉ラックが戦線を離脱した場合、当機に掛かる負荷が増えます』
「分かってる。とは言ってもだろ」
状況を打開するための切り札は・・・あるにはあるのだ。
だが現状使えないのだ。正確には、『使えるには使えるが、使うわけにはいかないのだ』
神殿を壊してしまうとか、その程度ならためらうことはない。
こいつを倒す方が優先されることだからだ。
アビスキュイラスの切り札は・・・それ以上の被害をもたらす可能性が大きい。
「だけど使わないのも厄介か!」
『封鎖空間ではない為、戦闘区域の生命体に影響を及ぼす可能性があります』
それに今のアビスキュイラスは、精霊の力を蓄えることは出来る。
それはつまり、切り札を切った場合にはダイジュナ達も影響を受けるということだ。
あまりにも良くない。
これがゲームだったら容赦なく使うところだが、流石にためらわれる。
「ああっもう!!なんか俺達を閉じ込められる場所ってないのか!?」
『閉じ込めればよいのですね?』
「ああ?誰だ!!」
猫玉ラックにしか繋がっていないはずの通信から知らない声が聞こえた。
普通に考えれば、誰かは予想がつくかもしれないが、今の俺そこまでの余裕が無かった。
『落ち着けコウ。アルディーンだ』
「ああ?・・・ああ、意識を取り戻したのか」
『そういうことだ。だがその話は後だ。とにかく、その空間を隔離すればよいのだな?』
「空間だけ区切ってくれれば何でもいい!俺は動けるように!」
『分かりました。私の氷でこの場を隔離いたします』
「なるほっど!・・・それがあったか」
確かにそれなら隔離出来る。
あれの性質上、とにかく俺との間に壁があればいいのだ。
ののか達も下がるように命令して、万が一にも巻き込まれないようにする。
「そっちからこっちは見えるんだな?」
『問題ありません』
「じゃあこいつが倒れたら出してくれ」
それを最後に、通信が途絶える。
どうやら電波も完全にシャットアウト出来るらしい。これならなおありがたい。
正真正銘・・・『アビスキュイラス』の全開稼働を使える。
「『ドライブ』を切り離せ!」
『回収が困難になりますが』
「一向にかまわん!!」
『了解いたしました。『ドライブ』パージします』
背部から『ドライブ』を外し、手に持っていた『モンテーロ』も『フェイタル』もすべて投げ捨てる。
背後の氷の壁に、僅かな穴も無いことを確認する。
・・・よし、これでいい。
「久しぶりの全開だ!キクヒメ!!」
『『アビスキュイラス』リミッター解除。ナノマシン制御を30%放棄』
「食らい尽くせえ!『アビス・グラトニー』!!」
機体が『吼える』
全部位のナノマシンが急速に増殖と変化を繰り返す音が、まるで猛獣の咆哮の様に聞こえるのだ。
機体が、黒い液体をまき散らしながら変わっていく。
背中から翼が飛び出し、手足は鋭く、凶悪な形に変貌する。
そして、顎が開き。『アビスキュイラス』は本来の姿を現す。
『アビス・グラトニーモード』
アビスキュイラスを構成するナノマシンをわざと短期間だけ暴走させる。
エネルギーを大量に食わせることで、今の現在の限界を強制的に超える最終戦闘モード。
俺も、この世界でこれを使うのは初めてだ。
「・・・行くぞ」
『スラッシュネイル生成』
一歩踏み込む。その瞬間に、俺はバイオティラノの背後にいた。
その手に太い触手を複数持ちながら。
「ッ・・・ハハ。やっば」
『コントロール精度が落ちています』
「そらな。出力も何もかもが桁違いなんだぞ」
だからと言ってここまでとは思わなかったが。
本来なら、顔に近づいて爪で斬りつける予定だった。
だが機体のパワーが上がりすぎて、前に跳び込みすぎたのだ。
ゲーム内では、そこまで違いは感じなかった。単純に性能が上がった分、強くなるくらいのイメージだった。
だが・・・現実ではここまで違うか。
完全にとは言わないが、機体に振り回されている。
それでも、何とか体から生えていた触手数本を引きちぎることは出来たが。
「・・・まぁそれで十分か」
『ナノマシン、敵性存在の捕食を開始』
元々、『アビスキュイラス』のナノマシンを用いた武装の能力であるエネルギー吸収。
これは、ナノマシンが対象に取りついてその体を捕食。エネルギーに変化し、俺に送るという仕組みだった。
『アビス・グラトニーモード』では、その範囲と速度が爆発的に広がる。
より正確には、制御を手放させてナノマシンが近くの『アビスキュイラス』以外の存在を食らいつくすのだ。
これが、俺が使うのを渋った原因だ。
最大の攻撃であると同時に、最悪の被害をもたらす。
人間大のサイズの生命体なら、数分あれば骨も残らず食われる。
当然、レイドボスであるバイオティラノにはその効き目は薄いが・・・
「触手の再生速度は?」
『遅れております』
「じゃあ畳みかけるぞ」
ダメージこそ与えられないが、千切った触手を再生させない程度の効果はある。
これを深く、何度も繰り返せば。すぐにでも核まで俺の攻撃が届くようになる。
効果を確認した後、即座に攻撃を再開する。
どうしても振り回されるが、それでもこの巨体を相手取るには十分だ。
手足の剣爪で切り裂き、生やした尾で抉り、咬み千切る。
今の俺の戦いを、村の誰かが見ていたら。その姿に覚えがある人もいたかもしれない。
始めて俺がエルフ達に出会ったあの時・・・盗賊達を殺した時の姿とうり二つだからだ。
当然あの時はこのモードではなく、見た目だけ似せていただけなのだが。
『核位置予測完了』
「みぃつけたぁ・・・」
そして、何度も何度も繰り返しているうちに、ついに核が見つかった。
胴体の中心部・・・もっとも攻撃が届きにくい場所に大切にしまっていたようだ。
効率的で、実に素晴らしい・・・
「だが無意味だ」
『全斬撃武装生成完了。追加ブースターOK』
「ク・タ・バ・レ」
手、腕、肩、胴体、腰、膝、脛、足。
体中どこに触れても、何もかも切り裂く全身凶器状態。
それが合計4つのブースター全力で吹かして、バイオティラノに突撃する。
まさに刃の弾丸。
爆発的に前に進もうとする勢いと、強烈に回転を行うことで生み出される斬撃。
バイオティラノの肉体に刃が触れたその瞬間には・・・体を突き抜け、俺の左手の刃に核が突き刺さっていた。
「バァイ」
それを制御を残していたナノマシンで捕食する。
すると、バイオティラノの体が先の方から崩壊していく。
戦闘終了だ。
「・・・はぁ。終わった終わった」
『『アビスキュイラス』リミッター正常。ナノマシン回収開始』
「お疲れさん。戦闘評価は?」
『初見の個体です。正確な評価はございません』
「・・・ボス討伐評価的には?」
『B+。使用弾薬が多すぎます』
「手厳しいことで」
『ますたー』
「んお?ののか?来ちゃったのか?」
『だいじょうぶでした?』
『大丈夫大丈夫。まぁ面倒だっただけだよ』
『めっちゃかっこよかったよ!!』
「でしょ?」
『ぼくはこわかった(プルプル』
「あー・・・ましろの前では控えるかこれ」
どうやら一瞬だけ氷に穴を開けて彼女達だけ来たらしい。
ののかは単純に俺が心配で。
ライチは『グラトニーモード』で大興奮。
ましろは・・・まぁごめんって感じだ。見た目いかついしなこれ。
てか、ライチって女の子なのに感性が俺に似てるのか。
あの状態のをかっこいいって言ってくれたのはゲーム内の連中でも少なかったからなぁ・・・
『これでおわりですか?』
「おう。後はこいつの体が完全に崩れるのを待てばいいだけだな」
『捕食行動を推奨』
「は?・・・これを?」
『対象のバイオティラノは、精霊の力に対する適応を済ませています』
「・・・食って『アビスキュイラス』の変化を促進しろってか」
『変化の幅を持たせることも可能になります』
「ん~・・・そういうことならそうしますか」
『捕食口生成』
腕から生えた顎ががぶっとバイオティラノの残った体に食いつく。
それと同時に、一気に大量のデータが『アビスキュイラス』内に流れて来る。
「多い多い多い!!」
『複数の属性の精霊に対する、複数の効果を検知』
「捌けるかぁ!?」
『了解いたしました。属性データを破棄し、精霊と魔力に関するデータの蓄積を開始します』
阿保かと言うほどのデータが来た
視界が数字と文字で埋まるなんて初めての経験だったぞおい。
「あ、ののか。ダイジュナ達にもういいぞって伝えてきてくれ」
『わかりましたー!』
「お願いなー・・・今ふと思ったんだが」
『どうかなさいましたか?』
「いや、今のを目の前で見て何の反応もしないあの子達は割と肝が据わってるのではないかとふと思った」
『・・・』
相槌くらい返してくれても良くない?
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