40話
二日働いて休みになる分今週はまだマシだと気が付く
精霊と共に戦う時。もっとも重要なのは精霊との意思疎通の能力だ。
これは前から言われていることだ。
「ぶっちゃけ精霊魔法を使う時に詠唱って要らないんです」
「え」
「私達がやってるのは、精霊達に何をしてほしいかを伝えているだけなんです」
「じゃあ最悪、あれを狙え!とかでも?」
「その言葉でどんな魔法を使ってもらうか決めてたら大丈夫です」
しかし、精霊とお喋りなんて滅多にできない。
その時点でそういったことは難しいらしい。
俺みたいに直接会話が出来るのなら、直接頼むことで出来るようになるそうだ。
「じゃああの詠唱って何なんだ・・・?」
「あれはダイジュナ様の様な高位の精霊が教えてくださったものなんです」
「あれが?」
「はい。精霊の達にとって、意味のある音なんだそうです」
「音?」
はて音・・・おかしいな。
キイナさんの詠唱は完全に言葉だった。
あれで精霊達に伝わるのなら、普通に会話が通じることになる。
一体どういうことだ?
「ちょっとこれに書いてもらってもいいですか?」
「いいですよ」
発音を紙に書いてもらう。
すると、面白いことが判明した。
「・・・擬音ですね」
「あははは・・・まぁ言葉ではないので」
ふむ。これは非常に面白い現象が俺に起きているのな?
俺はキイナさんの詠唱を聞いた時。完全に意味のある言葉として認識していた。
だが実際にはキイナさんはそんな言葉を直接は言っていない。
精霊達に伝わる音で発音していたって認識が正しいだろう。
「キクヒメ。前にキイナさんの詠唱を録画してたよな」
『再生いたしますか?』
「頼む」
キクヒメに前に録画した物を再生してもらう。
必要なのは映像じゃなくて音なのだが。
良く耳を澄ませて聞いてみる。
すると。間違いなくキイナさんは言葉を発してはいなかった。
聞こえるのは擬音の様な声だけ。これはつまり。
「俺が精霊の言葉が分かる状態になってる?」
「え?本当ですか?」
「少なくともキイナさんの詠唱は普通に喋ってるように聞こえたんだよなぁ」
「一応言葉を覚えれば意味を理解することは出来ますけど・・・」
そうではなく、完全に言葉が聞こえていた。
うーむ。これはどう捉えるべきか。
俺が精霊の言葉だけ分かるようになってるか。
それとも異世界転移ものではあるあるの、どんな言葉でも分かるようになっているのか。
前者だったら、精霊に特化しているという点で他にもいい点があるかもしれない。
後者でも意思疎通に困らないって長所があるから、どちらでも困ることはないか。
「あ。でも精霊って言葉はないんでしたっけ?」
「そうですね。精霊達の会話は魔力の動きとも言われてます」
ダイジュナ達が教えてくれたのは、人間用の物だったりするのかもな。
非常に気になるところだが、この考察は後回しだな。時間が出来た時にでも考えよう。
「じゃあまずは・・・みんなが使える魔法のことですかね」
「精霊達の魔法ってどうやって判断するんですか?」
「実の所精霊達の魔法って具体的に何かってのはないんですよね」
「えぇ・・・」
前から思ってたけど精霊って適当すぎないか?
だがこれにはちゃんと訳があるらしい。
「私達が使う魔法の場合は、学問としての側面が強いんです」
「それはそういう風に纏めないと使えないからってことであってます?」
「その通りです。火の魔法でも風の魔法でも。ちゃんとそうなる理由があるんです」
詠唱でも魔法陣を画くでも良い。とにかくどの魔法をどういった形で発動するかを決めておかないと駄目らしい。
刃なら刃の意味を。火の玉ならその意味を籠める。
人間と精霊達の魔法にはこの点で大きな差がある。
精霊達は、この意味を籠める作業が要らないのだ。
「精霊達は魔力そのものと言っても過言ではありませんから」
「人間より自由に魔力を扱えると」
人間は銃に弾を込めて撃つ。
精霊は弾自体をそのまま扱えるという差だな。
この差が魔法の差らしい。
精霊達の意思一つで自由に形状や範囲。その効果を替えられる為に具体的に何かをという説明が出来ないそうだ。
言うならば、彼らは何でも出来ると言うことに等しい。
だがしかし、実態はそうでもない。
言葉による意思疎通が出来ない為に、精霊達に自由に魔法を使ってもらうことが出来ない。
精霊達の自由にやらせた場合はそうではないが、その場合咄嗟の状況に対応出来ない。
これは無人機と俺の関係に似ているかもしれんな。
無人機をオートで動かした方が動き的には色々出来るが、その代わり融通が効かない。
「となるとやっぱり人間が弱点では?」
「そうなんですよ・・・そういう点でも、私達エルフは精霊と共にあるのに向いているって言われてます」
寿命が長い分、精霊達と仲が深くなるってことだな。
「まぁコウ様はこのあたりは気にしないでいいと思います」
「ん?・・・あ、そうか。俺喋れるわ」
ましろすらお喋りが出来る。
てか、そういう点を見込んで俺は今回あの子達と戦うことを決めたのだ。
ふむ。まだまだ聞いていないことは多いのだろうが、今の時点では無人機運用と変わらないのかもしれないな。
無人機を専門で運用するって発想は俺にはない物だが。
「精霊の魔法を使いながら、自分も戦うっていうのはあります?」
「私のおじいちゃんがそうです。魔法を使いながら自分は剣でって方式です」
これは精霊に対して殆ど命令しないでいいからこそ出来ることらしい。
普通精霊に指示を出しながら魔法を詠唱してってので手一杯になる。
その手間が省けるのなら、確かに出来るのかもしれない。
ちなみに人間の魔法使いでもそういった戦い方をする人たちはいるそうだ。
彼ら王国の中でも精鋭達で、騎士を目指す者たちの憧れなんだとか。
「俺の場合はののか達に魔法を使わせる気は今回はないんですけど」
「えっと。何かに憑依させて、指示だけ出すんでしたよね?」
「そうですね。主に俺の武器を運んでもらいます」
「でしたら、かなり楽になると思います。精霊達の指示は考えるだけでいいですから」
「考えるだけ?」
「契約した精霊達は、私達の意思をくみ取ってくれるんです。曖昧にですけど」
「少なくともどこの場所に移動くらいは問題ないと」
「はい。ののかちゃん達なら、危ない場所から避難するくらいは自分達で判断してくれるとは思いますけど」
そのあたりは精霊の年齢や能力によると。
キイナさんの精霊であるミナは基本的にキイナさんから離れることはないそうだ。
これはキイナさん自身が魔法を使うことに専念していることから来る戦闘スタイルだな。
自分自身から離れると魔力を送りにくくなるらしいし。
「魔力って少ないとどうなるんですか?」
「魔法の威力が下がるくらいですかね?」
「なるほど」
「基本的に感覚で魔力を与えてるので・・・具体的にどれくらいかはちょっと」
「多くても少なくてもって感じですか」
「大体少ないと駄目って言うのは教えられているので、多めに上げるのが基本ですね」
そのあたりの無駄を減らせるのも、精霊使いとしての腕の見せ所だとか何とか。
魔力の量に関しては、普通の人間用の魔法を使って覚える。
今の俺はそれをやってないから、いずれにせよののか達に魔法を使わせられないわけだ。
「上げすぎるとどうなんです?」
「精霊達がお腹いっぱいになって動かなくなります」
「仕事放棄」
まぁお腹いっぱいだと働きたくなくなるよな。分かるわ。
「大体知っておかないといけないのはこれくらいですね」
「思ったより少ない?」
「そうですね。後は実際に戦ってみないと分からないことも多いですし」
「ふーむ・・・やっぱり一回はやらないと駄目か」
「精霊毎で差も大きいですから・・・
ミナで身に着けたことがののかちゃん達で通用するとは限りませんし」
どこかで一回は訓練は必要か。
ラックに憑依させて動かすだけでは足りなさそうだ。
必要な訓練は、実戦での位置取りだけとは言え・・・これはなかなかに難解かもしれん。
それに俺が戦う相手はバイオティラノ。この世界の存在ではない。
どこで訓練しても、それがバイオティラノ相手に通用するとは限らない。
せめてそれに近しい敵がどこかに居れば、前哨戦として申し分ないのだが。
「・・・いないですよね?」
「封印されるレベルの魔物がそう要られたら・・・ちょっと・・・」
「それもそうですよねー」
忘れてた。この世界ではバイオティラノは物凄い強敵だったわ。
ゲームの中だと雑魚とまでは行かないけどそれなりに手軽に倒せるやつだからなぁ。
うーん・・・一体どうしたら・・・
「えっと・・・いいでしょうか?」
「あ。何か案があります?」
「あの・・・しゅみれーたー?でしたっけ。あれは使えないんですか?」
「あー」
キイナさんには一通り設備を説明してるからシュミレーターも知っている。
だがあれはちょっと難しいだろう。そもそもの規格が違う。
これがもし、精霊達がそのままラックを操縦しているというのなら話は違うのだが。
「憑依しているってのは流石に状況がなぁ」
どういう風にデータを打ち込めばいいのか見当もつかない。
何せ精霊。ファンタジーの存在だ。
それが兵器に憑依した時の挙動を再現って・・・
いや、動きだけなら出来るだろう。
だがそれではののか達自身が動きの練習が出来ない。
動かす感覚が全然違っちゃうしな。
「せめて操縦桿握ってるとかなら何とか」
「難しいんですね。すいませんお役に建てなくて・・・」
「いやいや。キイナさんがいなきゃ全然知らない事ばっかりですから」
「そうですか?」
「ええ。そらもちろん」
確かに村長やダイジュナに聞けばいいってのはあるかもしれない。
だがしかし、俺のやる気って意味でもキイナさんは非常に重要。
年齢も近い・・・いや、エルフだから実年齢は全然違うんだけどな?精神年齢的に近いから、質問もしやすい。
気になったことをすぐに聞けると言うのは非常にいいことだ。
「かるーい感じで聞けるならいいんですけどねー」
村長は俺にかしこまってくるからダメだし、ダイジュナはそもそも精霊だから人間との違いを説明できない可能性が高い。
うん。やはりこう考えてもキイナさんが俺の先生として最適解だろう。
「なのでこれからも末永くよろしくしていただけると」
「・・・」(ボンッ
「あ」
これは俺がいけないわな。
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