139話
「・・・」
「おはようございまーす・・・あれ?コウ様。今日はお早いんですね」
「・・・」
「・・・コウ様?」
「・・・あ、キイナさん?」
「はい。どうかなさったんですか?」
「あーいや・・・ちょいと寝不足でして」
「もーダメですね夜更かしは。ののかちゃん達にも悪影響ですよ!」
「あははは・・・すいません」
「寝むかったらすぐに寝てくださいね?私朝ご飯作ってきちゃいますから」
「はーい」
とりあえず、アルは部屋に戻した。
そして一人自室で、アルに言われたことを考え続けた。
まぁ結果は見ての通り、良い答えなんて出て来やしない。
そもそもアルが俺の体を思ってくれて提案してくれたのは良く分かっている。
だけどその上で、俺が躊躇っているのだ。
ただの治療行為・・・だがアルと関係を持つことになるのは変わらない。
アルも俺に対してそういう感情が存在しているわけではないから、気にしすぎていると言われたらそれまでだ。
だけど・・・それでもやっぱり躊躇ってしまうのだ。
何となく、視線がキイナさんを追う。
俺は一体、どうしたいのだろうか。
『視線がセクシャルハラスメントに触れる可能性があります』
「そんな変なところ見てないと思うけど」
『思考レベルの問題です』
「・・・そら今はどうしようもねぇよ」
アルからは、悩むのは良いが時間制限を設けられた。
モルトン王国の海魔を倒す・・・その後に答えを出してほしいと。
彼女自身、出来るだけ早い所俺の体の安定化をしておきたいのだろう。
戦いを繰り返せば繰り返す程、ランナーの体は消耗していく。
完全に消耗しきり、かつてのレギアスの二の舞を踏んでほしくないだろう。
アルも言ってたが、俺に何かあったら悲しむ人はいるのだ。
確かに何も言わずに、ただ磨耗し死んでいくのはひどい裏切り行為だ。
俺もそれはそう思っている。
だがそれでも、結果的にアルと関係を持つことになるのが・・・どうも俺は納得できないのだ。
そもそもアルがやろうとしている体の安定化は、俺の体内の水の流れを整えることで行う治療行為だ。
体の殆どが水分である俺達人間は、ランナーになっても変わらない。
むしろ調整された水分が多いからこそ、俺達の体は強くいられるのだ。
この流れに干渉出来れば、確かに安定化は出来ると思う。足りない成分だってアルなら補えるだろう。
その為には、俺に直接触れる必要がある。
アルの力なら、生物の血液に干渉して操作する程度は出来るらしい。
しかしランナーの・・・特に俺の体に干渉する場合はそれが使えないそうだ。
元々調整され弄られた設定の俺たちの体。だからこそ、治療には最新の注意を払わないといけない。
正確性と緻密さ、それに集中力が必要になる。
それに俺の魔力に対する抵抗力を下げないといけない。その為には、やはり直接深く俺と触れ合ってないといけない。
結果、行われる行為はそういうことだ。
「・・・はぁ」
やるべきなのは分かっている。
関係を持ったとして、問題があるわけではないことも。
だがそれでも・・・何か嫌なのだ。
「普通アルみたいなやつ相手なら喜ぶんだろうな。普通なら」
『思考レベルが落ちています』
「・・・甘いもんでも飲むか」
どうにも頭が回らない。こういう時は甘い物でも飲むのが良い。
ジャムたっぷりのお茶とか、今まさにそう言うのが飲みたい。
「あれ?コウ様何かお飲みになるんですか?」
「ええまぁ。ちょっと甘い物でもと」
「じゃあすぐにお茶だけお持ちしますから、テーブルで待っててください」
「いやいや。これくらい大丈夫ですよ」
「ダメですよ。コウ様は寝てないんですから」
「関係ありますそれ?」
「うっかりコップ落としちゃったら大変じゃないですか」
「いや流石にそんなうっかりは」
「いいですから。それにちょっと試したいこともあるんです」
「・・・じゃあお任せします」
「はい!楽しみにしててくださいね」
「・・・あの、キイナさん」
「はい?あ、ちょっとだけお菓子もお持ちしましょうか?」
「・・・いや。何でもないです」
コップを取り上げられる時、ちょっとだけ手が触れた。
その瞬間に・・・腕を取って抱きしめたくなった。
駄目だ。完全に思考がダメになってる。
大人しくテーブルまで戻る。
すると珍しく早起きしたらしい、我が家の精霊達が全員そこでくつろいでいた。
「おはようでっす!」
「おはー」
「おはよ!」
「・・・おはよ」
『アウ』
「おはよう皆」
割と皆寝起きがいいらしい。
それぞれちゃんと挨拶してきて。ノーツは若干元気がないが、多分クロウにくっ付いてないからだな。
そのクロウは今ましろに乗られている。相変わらず人気物だ。
「んー・・・マスター?」
「どうした?」
「何か悩み事です?」
「・・・俺、そんな顔に出てるか?」
「浮かない顔してるです」
「どこで覚えたんだその言葉」
「ノーツちゃんが教えてくれたです」
「もしや今までのもお前が犯人か」
「き、聞かれただけだから・・・」
割と知らん間にいろんな言葉を覚えているなと思ったらこいつが犯人だったか。
まぁ実際ノーツはこの中だとお姉さんになる。
それぞれ一桁台なのにノーツだけ二桁だしな。
あまり成長こそしてないみたいだが、魔力量は全然上だ。
クロウとの契約のおかげで、さらに強くなってもいるようだが。
「でも、確かに変な音してる」
「音?」
「悩んでる音。魔力の波長が変」
波長、そして音。ノーツの名前がノーツになった理由だ。
彼女の魔力と音の感知力は群を抜いている。
機械でもまともに拾えない様な音を正確に捉えることの出来る耳。
そして魔力の流れを見逃さない目。五感の中でも、この二つの優れているのだ。
精霊が魔素の塊と言える存在でも、ノーツより上の存在はなかなかいないだろう。
「それ、どんな悩みなのかは分かるのか?」
「全然分かんない」
「なんだそら」
「でも悩んでること自体は分かるから、結構重宝するよ」
「まぁだろうな」
「クロウは昨日釣りが出来なくて不貞腐れてたよ」
『ガウ!?』
「違うって訴えてるけど」
「クロウは分かりやすいからすぐばれるよ!」
「魔力抜きだと?」
「え?分かるけど??」
こいつやべぇわ。
しかし魔力にも出てしまう程、今の俺は悩んでいるらしい。
「それだけコウにとって、それが大事だってことでしょ?」
「・・・大事ねぇ」
「うん。それだけ悩めるのは貴重なことだよ」
「はぁ・・・お前いくつだよ」
「今年で16年くらいだったはず」
「お姉ちゃんです!」
「そうだよ」
『ワン』
「だからクロウももっと甘えていいんだよ!!!」
『アウ・・・』
「あははは」
こいつら見てると少しだけ頭が軽くなる気がする。
・・・俺もノーツみたいにオープンなら、悩まないで良かったのだろうか。
「お待たせしましたー。あ、皆おはよう」
「おはようです!ののかもお茶飲む!」
「はいはーい。皆のも淹れるから、ちょっと待っててね」
「「「はーい」」」
『・・・アウ』
「うん。そうだね。わかりやすいね」
「それ俺に言ってる?」
「うん」
『ガウ』
キイナさんが来た瞬間の魔力の波長の変化と、俺からでる音。
そしてクロウは・・・多分俺の微細な動作とバイタルで判断したのか。
俺の悩みが、キイナさんに関係していることだと。
そこまで来れば、大体内容も想像出来るだろう
「何かあった?」
「いや・・・何もないから悩んでるんだな」
「じゃあ言えばいいのに」
「そう簡単に言えたら苦労しないっての」
「私はクロウには苦労せずに気持ちを伝えられるよ?」
「クロウだけに?」
『ウ~』
「寒いって」
「お前が言ったんだよな?」
「コウ様~私の特製のお茶です。飲んでみてください!」
「ありがとうございます」
お茶は琥珀色に輝いている。中にあるのは何かの果実のようだ
「お好みで蜂蜜も淹れてください。甘みが増して美味しいですよ」
「へぇ。この果物は?」
「昔から村で食べられてるんです。皆幸せの果実って呼んでるんでちゃんとした名前は知らないんですけど」
「幸せの果実?」
「はい!時々二つの果実がくっ付いて生ることがあるんです。
それを見て誰かがそう呼び始めたそうなんです」
「・・・へぇ」
お茶に入っている果実は、ちょうど丸くて赤い果実が二つあるように見える。
まさにこれが『幸せの果実』ということらしい。
摘まみ上げて、何となく食べてみる
「・・・すっぱ」
「あ、これもうちょっとお茶を染み込ませないと駄目なんですよね」
「そうなんです?」
「お茶が染み込むと酸味が抑えられて甘酸っぱい感じになるんです。
後で私の一個あげますね!」
「いただきますね」
「・・・ねぇねぇクロウ」
『ウ?』
「あの二人って、ずっとああだよね?」
『アウ』
「ふーん・・・変なの」
ノーツは目もいいが、それ以上に耳が良い。
だから彼女の耳には、先ほど増え、同じ音がずっと聞こえている。
それが誰の物なのか、容易に想像がつく音だった。
ずっと、この幸せが続けばいいのに。
そう願うこの音があるのなら、何を悩む必要があるのか。
ノーツには、コウの悩みは分からない。
でも幸せを願うのなら・・・やるべきことは一つなのは分かっている。
「面倒だね。人間って」
『アウアウ』
「そうだね・・・でもクロウのご主人様だから、何かあったら手伝ってあげようかなー」
『ワン♪』
「その代わりにご褒美頂戴ね!!!」
『・・・アオーン』
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