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128話

カメラに映しだされた敵機体に狙いを定めて引き金を引く。

アカリにとっての狙撃とは、究極的にはこれだ。

敵が大したことない存在なら猶更。故にその程度なら集中するまでもない。


自分の体の調子を確かめつつ、射撃を繰り返す。


(・・・感覚7割)


コウの予想は当たっていた。

アカリは今自分の体の感覚を確かめながら戦っていた。

それだけの余裕があるということでもある。


これはシュミレーションではあるが、実際に動くのと遜色ないレベルの感覚でもある。

その上で確かめた結果は全開時の7割程と判断した。

修復されている点で見れば8割。しかし実際に戦うのならその程度だと判断した。


それは間違っていない。

体の動きは問題ないが、動かすこと自体が久しぶりなのだから。

アカリが自分の体・・・それも良好な状態の体を動かすのは数年ぶりになる。

だからだろう。先ほどからやや動きにキレがない。

それが射撃までのタイムラグとなっている。


「やっぱり動かないと駄目」


本来ならば『マザーモスキート』ももっと早く撃てた。

それがタイムラグのせいで射線上に他の『モスキート』が入ってきてしまっている。

そのせいで威力が減衰して撃墜までの時間が無駄にかかった。


「あと重い」

『文句いうなー』

「重い」

『お?言うなって言ったのに言う?』

「だって重い」

『『紅月』と比べんなや』


そもそもアカリの不調の理由は他にもある。

機体の性能差だ。今まで『紅月』という高性能狙撃機しか乗ってこなかったアカリからしたら『ソキウス』は重いのだ。

機体の重量という話ではなくて、動きがもっさりしているということだ。


『紅月』はアカリの作ったストレングスギアではないが、それなりに手間とお金が掛かっている。

反応速度も何もかもが『ソキウス』の上を行く。

『ソキウス』だって悪い機体ではないのだ。だがそれとは比べ物にならない程度には、『紅月』が優れている。


「データ入れていいから」

『そもそも元のシステムがダメになってるって言ったよな?』

「これの流用でいい」

『えぇー。それ下手したらずれるぞ』

「大丈夫」


ズレると言うのは全てにおいてのことだ。

機体のバランスから火器管制から何まで。ありとあらゆる点でズレる。

そもそもストレングスギアに使われている基盤となるシステムは、機体毎で当然違う。

量産汎用機である『ソキウス』と狙撃機である『紅月』では必要とされている物が違って当たり前。

それを無理矢理『紅月』に搭載することは出来る。

だがそれでは最悪まともに動けなくなる可能性が非常に高い。


出力が違えば、一歩動くすら出来ない場合だってあるのだ。


『それでもやると?』

「これよりマシ」

『はぁー・・・分かった分かった。5分待て』

「うい」


うきうきで残りの敵を全て仕留める。


そもそもアカリは『ソキウス』に不満があるわけではない。

ただどうしても『紅月』と比べた時に足りないなぁと思うだけで。


仮にこれをコウが聞いた場合それは不満って言うんだわと強くツッコミをいれられるのは間違いない。


だが本人はいたって真面目に不満はないと思っているのだ。

ないったらないのだ。


コウが一度シュミレーションと止めたのだろう。

敵を全滅し終えたら湧かなくなった。

さっきまでは自動で次のステージに進んでいた。


『あーあー・・・これで聞こえているのか?』

「アルカナ?」

『アカリ。良かった聞こえているのか』

「どうしたの?」

『いや。彼が暇な時間話しといてくれというから』

「なる」

『あー・・・あれだな。アカリの本気は初めてみるが、あんなことが出来たんだな』

「ぶい」

『私といた時はもっと短い物を使っていたが、あれはないのか?』

「あるけど使いたくない」

『どうしてだい?』

「感覚が弱いから」

『感覚?』

「撃った時の反動がちっちゃい」


アカリが狙撃を始めたのはそれが理由なのだ。

そもそも初めの頃は、アカリは中距離戦の機体と装備で戦っていた。

ライフルなどの汎用性の高い銃で弾をばらまくのが楽しかったのだ。


それがある時、偶々狙撃銃を手に入れたことで一気に変わる。

本来は別の物が欲しかったのだが、間違えで入手してしまった狙撃銃。

アカリにとって思い出となっているその品は性能だけみたら大したことのない一品だった。

だがそれでも、アカリの中では衝撃的な一本だったのだ。


引き金を引くと同時に、自分に襲い掛かってくる大きな衝撃。

それがアカリを変えた。

一発の銃弾が、未来の最強狙撃手を生み出したのだ。


そこからアカリは憑りつかれたように行動を開始した。

機体の性能も狙撃特化。集める武器もそれに合わせた物を。

その果てに手に入れたのが『紅月』であり、オーパーツである『オービス』なのだ。

思い入れが強くて当然だ。


「撃った感覚がないと銃は駄目」

『うーん・・・私も撃たせてもらったことはあるが、あれなら反動は無い方がいいんじゃないかい?』

「・・・はぁ」

『溜息つかれるほどかい?』

「なにも分かっていない」


アカリから言わせてもらうと、反動のない銃など邪道なのだ。

火力、反動、使いにくい!

・・・それらがあって初めて満足のいく銃なのだ。


「大きければ大きい程可」

『普通ああいうのは小さい方が有利なのでは・・・?』

『その通りだぞアルカナ。こいつがおかしいだけだから』

「心外」

『何がと言いたいが・・・まぁ言いたいことは俺も分かる』

『え?』

『銃はデカい方が楽しいのは俺も分かるからなぁ』


勿論コウは小さい使い勝手のより物もいくつか持っている。

だが好んで使うのが大型の武器が多い。

それは強大な敵に対して一気に戦果を挙げられるのがそういう武器だからという理由があるからだ。

単純な好みだけで選んでいるわけではない。


『まぁマシンガンばら撒いてるのが楽しいってのはあるがな』

「狙え」

『黙れ狙撃フリークス・・・ヨシ。ダウンロード完了。そっちで切り替えできるぞ』

「分かった」


アカリがメニューを操作して『ソキウス』から『紅月』に切り替わる。

その『紅月』は、現実のそれとは全然違う姿をしている。

装甲は美しい紅色を輝かせ、頭部のカメラはどこまでも見通しそうな深淵な光を帯びている。

何より背部に備え付けられた二丁の狙撃銃。

『オービス』『アルガン』

ビームと実弾の二つの弾丸を放つ最強格の狙撃銃だ。


「・・・ん?」

『とりあえず今取れてるデータは反映してある』

「だから」


想像してたより動きやすいわけだと内心で納得する。

『ソキウス』が狙撃タイプに調整してあったおかげもあるのだろう。違和感は思っていたより少ない。

強いて言うならパワーアシストが強すぎるのが問題か。

ミリ単位の動きを要求される狙撃機においては大きな問題だが・・・


「出して」

『マジで言ってるよこの子・・・怖いわぁ』


アカリは敵を出現させることを要求してくる。

それはつまり、その程度なら問題にならないという自信の表れ。

コウすら見たことのない領域になる。


「ステージは続きから」

『はいはい』


ステージ10。

狙撃機のシュミレーションとしては事実上の最高難易度。

それを機体のズレありで行う。


そのステージは今までの総まとめ。

今まで出てきた敵機体がすべて現れる。

倒す順番。速度を意識しないとあっという間に飲み込まれる。


『マザーモスキート』が10機同時に現れる。

それを見るや否や、禄にスコープものぞかずに『オービス』の光線が『マザーモスキート』を二機纏めて撃ち抜いた。


『うわぁ・・・』

「・・・」


コウも思わずドン引きする神業。

まずスコープを覗かないで銃を撃つという行為自体がおかしい。

それが許されるのは近距離戦だけだ。

それを超遠距離からの狙撃で行うのはどれだけオブラートに包んでも変態的だ。


さらにその狙撃が二体纏めて撃墜。

確かに射線上では重なっていたが、何故そんなことが出来るのか。


それは機体の性能とかではなく・・・アカリ自身の天性の才能のお陰だ。

アカリが狙撃を好むようになったのは偶然ではない。

決められた必然。そうなる運命だったのだ。














「そうとしか言えない程の技量・・・ありゃ真似できないなぁ」


汎用性と変化においてはずば抜けている『アビスキュイラス』

これは他のランナーの戦闘方法を疑似的に真似することも出来る機体だ。

だがアカリのあれだけは絶対に無理。


そもそも機体の動きさえ本人に合せてあり、銃の間合いが届くなら何でも構わないと言う時点で無理。


「俺が比較的近い距離での戦いが得意ってのはあるけど、それにしたって差がありすぎるんだわ」

「なるほど・・・それほどの実力者だったのか」

「この世界だと俺より厄介だぞ。何せ自分達じゃ感知できない範囲から一方的に確実に殺してくるんだから」

「・・・よくアカリ様は、国を出られましたね」

「ああ。お前もそう思う?」

「はい。恐らくは自らの真価を見せてこなかったのでしょう」

「俺もそう思う。あれは抜けてるやつだが・・・バカじゃない」

「私の家にいた時は手を抜いていたのか?」

「いいや。本気を出すまでもないって思ったんだろ」


その結果が機体の損傷と自身の体の消耗なのだが・・・これは想定外なことがあったのだろう。


「まぁ俺を手伝ってもらう時は本気を出してもらうけどな」

「それは・・・恐ろしいな」


仮に、その力が自分の国に向いた場合を考えたアルカナは顔を真っ青にした。

何せどうしても、何をしても勝てるビジョンが浮かばなかったのだから。

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