104話
「ふむ。これはまた・・・」
「ん?どうかしました村長」
「おやコウ様。いや、私の精霊がおかしなものを見つけてきましてな」
「おかしなもの?」
「はい。何やら野営の後の様な物なのですが」
「・・・俺の方じゃ何も見つけてないな。かなり遠いところか?」
「はい。前のこともありますし、定期的に遠くを見ているのですよ」
村長が昼間に外で立っているのはそんなことをしていたからなのか。
精霊との距離が近ければが視界の共有が出来るとは知ってる。
俺はののか達がまだ子供だから出来ないが、村長やキイナさんは出来る。
そして村長の共有範囲距離はかなりの物らしい。まさか俺が用意したセンサー外まで出来るとは。
(大体千キロくらい撒いたよな確か)
『巡回させている偵察機にも異常は見られない為、恐らく森の外を見ていると思われます』
「ほっほっほ。森の中なら、という制限付きではございますよ」
「いやそれでも十分だと思うけどな」
「使わなければ、あの時の様になってしまうと学びました故に」
うんうん。俺に頼るだけじゃなくて自分でもってのがこの人の好感度が高い理由だよな。
「んで。野営跡でしたっけ」
「正確には野営跡の様な物なのですが」
「様な?」
「はい。見慣れない物がございましたので。暫くお待ちいただければ実物をお見せ出来ますが」
「じゃあちょっと待とうかな」
雑談しながら時間を潰すこと20分。
村長の精霊が何かを持って戻ってきた。
「こちらです。どうやら捨てられていたようでして」
「ふむ・・・まぁこら捨てるわな」
そこに穴が開いた水筒だ。
それもただの水筒じゃない。ステンレス製の水筒だ。
当然だがこの世界にステンレス製の物なんて無い。俺の持ち物以外は。
「俺が捨ててないとすると・・・」
「コウ様と同じ世界の方がいらっしゃると?」
「同じかどうかは分からんが、近い世界かもな」
俺と同じ流れ人。それも比較的技術力が近い世界の住人だ。
驚いたと言えば驚いた。レギアスの事もあるからいるかもしれないとは思っていたが、こんなに早く近く痕跡を見つけるとは。
「他に痕跡は?」
「かなりの大人数で来ているということしか分かりませんな。
後、数人は引き返しております」
「引き返して?なんで分かるんだ?」
「足跡が残っておりますので。森の近くは痕跡を見つけやすいのですよ」
エルフ的な感覚もあるのかもな。
だが大人数なのも分かってるのか。
大人数・・・ってことはだ。
「また賊かな」
「まだ確証はございませんが・・・」
「ふむ・・・このことはまだ誰にも言ってないですね?」
「はい。コウ様が初めてございます」
「OK。そろそろ必要だと思ってたし、ここらで試せるかもな」
「はい?」
「『ソルキス』を用いての集団戦・・・ここらで一発試そうじゃないか」
まぁもちろん、相手が賊だと確定したらだけどな。
さて、忙しくなりそうだ。
「キクヒメ!警戒レベルを上げるぞ」
『了解いたしました』
「まずはその大人数を探す。帰ったって言う二人の方も追跡を始めろ」
「では、私は村の者たちを呼んでまいります」
「ああ。頼んだ」
俺も久しぶりに対人戦といこうかね。
実に・・・実に楽しみだ。
「ハァ」
「ため息ばかりでは幸せが逃げるよ?仕事も終わったのだから」
「・・・受けたくなかった」
「仕方ないさ。お金が無かったんだから」
大きいローブに身を包んだ少女と、鎧を纏っている騎士の少女の二人組。
彼女達の背後には森がある。
森の手前で引き返した二人とは、彼女達の事だった。
彼女達は『冒険者』と呼ばれる職業に就く、所謂何でも屋に近い存在だ。
彼女達は、森の手前まである集団の護衛を引き受けていた。
その集団は、彼女達の周りでもあまり良い噂を聞かない人間の集まりで、中には人を攫って奴隷として売っているという噂もある。
本来ならば、そんな集団の仕事は受けない。だが今回に限っては理由があったのだ。
お金が無いと言う、非常に切実な理由が。
噂は噂だと割り切って、今回の仕事を受けた。
だが護衛の道中。あからさまに向けられる視線や彼らの持ち物が、噂を確信づけていた。
お陰でフードの少女の機嫌はみるみる悪くなる。
どうやらそちらの方が分かりやすい性格らしい。
集団が背後の森に何をしにきたのかは知らない。
恐らくは貴重な動物でも捕まえに来たのだろうと予想はしている。
それに巻き込まれてはたまらないと、早々に護衛を切り上げて帰ることにしたのだ。
「それに水筒壊れた」
「あれはまぁ・・・仕方ないんじゃないかな。かなり長いこと使ってたじゃないか」
「替えが効かない」
「他の魔道具の方が便利だって、君も言ってただろう?お金が溜まったら買いに行こうじゃないか」
「・・・だからお金なくなる」
「うっ・・・いや、これは先行投資なだけだよ」
「限度がある」
どうやらお金が無くなった理由は騎士の少女の方に理由があるようだ。
「い、いやまぁ。今回の仕事は美味しかったじゃないか」
「金払いは良かった」
「そうだろ?だからほら。今日くらいは・・・」
「どっちにしろここから街まで七日以上かかる」
「・・・そういえばそうだったね。はぁ」
「これでお金貰えないなら私やってた」
「あははは。後形付けが大変そうだ」
「大丈夫。塵も残さな・・・え?」
「ん?何か感じたかい?」
フードの少女が、森の方を振り向く。
正確には、少女の視界に現れたある情報が彼女を振り向かせたのだ。
「これ・・・ストレングスギア?」
「なっ!?その名は君の!」
「うん。私の『紅月』と同じ」
フードの下には、赤い装甲が見える。
彼女もまた、ランナーであったのだ。
ストレングスギア『紅月』のセンサーが、この世界で初めて自分以外のストレングスギアの反応を捉えたのだ。
数は何と30以上。そのうちの一機は、飛びぬけて高いエネルギー反応を持っている。
「・・・もしかして、これ目当て?」
「彼らはストレングスギアを捕らえに来たと?何とも・・・それはまぁ・・・」
「あの装備じゃ無謀」
少女の顔に緑のバイザーが現れる。
狙撃用の望遠バイザーで、かなり遠くの距離を見ることが出来る。
その距離何と100キロ。攻撃こそ出来ないが、見るだけと考えても破格の距離だ。
最大まで倍率を上げ、森を見る。
中の様子は木々で遮られて見えないが、所々フラッシュが見える。
それに精霊の魔法と思われる何かも見える。
どうやら彼女達が護衛してきた集団と、森の中にいるストレングスギアの部隊が戦っているようだ。
その時点で、フードの少女はすぐにその場から離脱することを決めた。
恐らく自分達の動きはもう見つかっている。
彼らの仲間と思われるのは非常にマズイ。
「アルカナ」
「ああ。すまんが頼むよ」
アルカナと呼ばれた少女が、フードの少女の体にしがみつくように掴まる。
それを確認すると、フードの中から大きなアームが現れる。
アルカナをそのアームで固定し、脚部にも装甲を展開しホバーで高速移動を始めた。
「早く逃げる」
「ちなみに君の予想だとどれくらいの戦力差なんだい?」
「・・・センサーだけでも100倍以上」
「ひゃ・・・なるほど。君が即離脱を決めるわけだ」
「数が多いし。森の中じゃ私戦えない」
彼女のストレングスギアは後衛型で、それも広い空間で真価を発揮するタイプのようだ。
ホバーの移動で急速に森から離れていく。
どんどん遠くなってはいくが、フードの少女はまだ全く油断していない。
彼女の知るストレングスギアの中には、この程度の距離なら簡単に爆撃できる機体が何機もいる。
「そもそも君の射程内でもあるのにか?」
「無理。弾切れ」
「あー・・・そういえばそうだったね」
「だから100倍。絶対に戦えない」
「はぁ。まぁ依頼金を貰えて巻き込まれないならまだマシか」
「戦うのはアルカナでも無理」
「分かっているよ。だが騎士としてはやはり興味が」
「口閉じて!」
「もぐ!?」
上空からロックオン反応を感知。
即座にブースターを横に吹かしてその場から離脱する。
次の瞬間、彼女達のいた空間はビームによって薙ぎ払われた。
「・・・ははは。昔見た君の攻撃みたいだ」
「・・・捕まった」
「え?・・・なるほど」
『驚いたな。避けられるとは思わなかったが』
巨大な白い翼を持つストレングスギアが、彼女たちを空から見下していた。
何故か翼からは魔法の雷が出ており、手に持つ武器は恐らく粒子砲。それもかなり高性能の物だ。
この時点で、フードの少女は覚悟を決めた。
逃げられないことを悟ったのだ。
そして相手も、こちらを逃すつもりがないと。
「じゃあ戦わないとね。ここで死ぬつもりはないんだ私は」
「私も」
「というか。君と同じ世界の出身だろう?交渉出来たりしないのかい?」
「無理。初撃であれ撃ってくるのは話を聞かない人」
「だろうね」
『当然だな。俺も人さらいのお仲間逃がしてやるほど甘ちゃんじゃねぇ』
ストレングスギア越しに聞こえてくるのは男性の声だ。
誰かまでは分からない。そもそも知り合いかすら不明だ。
「というか。戦うならそのフード脱いだらどうだい?」
「・・・そうする」
『いいね。俺も久しぶりに俺以外のランナーと・・・は?』
フードの中は、少し見えていたように赤い装甲のストレングスギアだった。
一部のパーツは塗装も剥げ、破損部位も見える。
どうにか修復を試みた跡も見える。その有様で動けるのだから、設計がかなり優秀なのが分かる。
背後には銃身を短く切られたライフルを背負う。
腰には二振りのナイフが。
それだけがこのストレングスギアの武装だ。
それがこの機体。
アウトサイダー型狙撃特化機体の『紅月』だ。
「久しぶりにちゃんと見られるね」
「最後かも」
「じゃあ何とかこの窮地を切り抜けないとね」
「ん・・・」
『・・・』
背負うライフルは。元々はスナイパーライフルだった物を、銃身を切って運用している物だ。
お陰で取り回しは良くなったが、本来の射程は失われてしまった。
それでも火力はある。残段数は心許ないし、切り札は仕えない。
だがそれでも、ここで諦めるということだけは無かった。
アルカナも剣と盾を構え、白いストレングスギアに向き直る。
その目には同じように闘志に溢れていた。
「さぁ・・・来い!」
「・・・」
『・・・』
「・・・」
「・・・」
『・・・』
「・・・おや?」
「何」
『・・・お前、アカリか?』
「・・・え?」
『その反応は当たりか。はぁマジか。久しぶりに会う知り合いがお前とは・・・』
「・・・知り合いかい?」
「あんな機体知らない」
『まぁお前とはこれで戦ってないしな。ああでも』
「???」
『後ろのワンちゃんは、見覚えあるだろ』
『ワン』
「え?」
「いつのまに!?」
騎士の少女は背後を取られたと思い即座に横に跳んで挟まれない立ち位置に動く。
だがランナーの少女は動けなかった。
その後ろにいた、ワンちゃんと言われたロボペットには見覚えがあったからだ。
そして、そのペットの持ち主の持つ機体の中にあるコンセプトの機体がいたことも思い出した。
『空中戦特化の高機動機体』
そんなストレングスギアを持っているのは、ランナーの中でも数少ない。
「・・・コウ?」
『思い出したか。てか『エアロード』は見たことあるはずなんだがな』
「忘れた」
「なんだ。やっぱり知り合いだったのか」
「みたい」
『はぁぁ・・・ランナーでも問答無用で殺してやる気だったけど・・・』
「見逃してくれる?」
『は?無理なんだが?』
「じゃあ投降する」
「ちょ・・・いいのかい?」
「大丈夫。変な事はされない・・・はず」
『そこ自信もって言い切ってくれれば満点だったな』
奇妙だが、ランナー同士が異世界で出会った瞬間だった。
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