暴力聖女
「――早く帰って酒飲みてぇ」
盗賊の根城の中で聖女アリアはそうぼやく。ちなみに彼女、絶賛戦闘中である。盗賊どもをメリケンサックで沈めていく。
「ば、化け物……」
「化け物たぁ、随分だな。お前らが弱すぎるだけだよ」
メリケンサックが唸りをあげまた一人が床に倒れ伏す。うめき声が聞こえる中を歩く紺の修道服は闇夜の暗さも相まってさながら死神の装束のように盗賊達には見えた。
「テメェら! 女一人に何をてこずってやがる!」
「そう思うんならお前が掛かってくればいいだろ? ハゲ」
気にしていたことなのか盗賊の頭はこめかみを引くつかせ顔が怒りで真っ赤になっている。そして彼は言ってしまう。言ってはならない言葉を……
「――なんだと、この行き遅れ聖女が!」
――グサリ!
という音が聞こえた気がした。これは聖女アリアの裏のあだ名である。魔王討伐を果たしたが恋い焦がれていた勇者に見事に振られたのはいつのことだったか……
最近は勇者と彼の幼馴染との結婚式に呼ばれ、断るわけにもいかず、勇者の両親の感動の涙に勝るほどの悔し涙を流し、そのショックで酒に溺れる生活が続いていた。今年で28歳になる。
「……は、ははは、はははははは」
彼女の乾いた笑い声は次第に大きさを増しそれに比例して殺気と魔力が増していく。
お頭は自分のしでかした事の重大さに気がついたのか、今度は青くなっていた。
「お前だけは絶対に殺す!」
地を蹴った衝撃波が彼女の周りの盗賊をまとめて吹き飛ばした。そのまま彼女は真っ直ぐ砲弾のように御頭の元へ。
「――うごぁ!?」
飛び蹴りが顔面にクリーンヒットした。壁に叩きつけられ一瞬で意識を刈り取られた盗賊のお頭だがすぐに意識を取り戻す。アリアが回復魔法を掛けていた。意識が回復すると一番最初に見えたのは壁から自分を引き剥がしたアリアの手と、爛々と光るアリアの目であった。
「ラウンド2……」
「ひ、ひぃ!?――ぎゃあああ!?」
この後ラウンドは10まで続いたが最終ラウンドまでお頭を一発KOしていた。
盗賊たちを壊滅させ一人帰路につくアリア。勝利したのにその足取りは重い。アリアはため息を一つつくと顔をあげてこう呟く。
「――いつか私にも王子様が来てくれるんだもん……」
夜に吐いたその願いは修道服のその姿とともに闇に溶けて消えた……急募、聖女のお婿さん。