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教会にて

「あらまあ、シオンは本当にセイラの事が好きなのね~」


 アンジェラが慈愛に満ちた笑みを浮かべながら言うと、


「当然さっ!  ボクとセイラ姉は婚約してるんだからっ!」


 シオンが胸を張った。ちなみにもう涙は流していない。


「こ、婚約!?」


 リシャールが慌てると、セイラは困ったように頬をポリポリ掻きながら、


「あ~確かに『ボクが大きくなるまで待っててよ。セイラ姉を守れるくらい強くなるからさ。そしたら結婚しよう』とか言われたような? だから『期待しないで待ってるよ』って答えたような?」


「ほーら、みろっ!」


 シオンはドヤ顔してるが、それは断りの文句だと理解するには彼の年齢では難しいだろう。


「はあ、シオンの気持ちは良くわかりました。安心なさい、セイラはどこにも行かないから。セイラ、あなた今夜泊まっていくでしょ?」


「あ、はい」


「よろしい。ではシオン、戻りなさい」


 アンジェラにそう言われて、渋々といった感じで頷いたシオンは、最後にリシャールを一睨みしてから部屋を後にした。


「殿下、うちの子がご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ございません」


「いえいえ、子供のすることですからお気になさらず」


 リシャールは少し余裕を取り戻していた。

 気が付くと、そろそろ夕方に差し掛かってきたので、今日の所はお開きにすることにした。


「明日、神官様とお会いになられるのですよね?」


「はい、セイラと一緒に」


「神官様は今夜にはお戻りになられるはずなので、私の方からお知らせしておきましょう」


「助かります。ではセイラ、また明日」


「はい」



◆◆◆◆◆ 



 翌朝、セイラと教会前で待ち合わせしたリシャールは、扉を開けて中に入った。

 朝の光がステンドグラスを照らし、厳かというよりは神々しい雰囲気が漂う中、年の頃は50代くらいの神官が穏やかな笑みを浮かべながら2人を待っていた。


「ようこそいらっしゃいました。当教会の神官を務めております、ルクスと申します。話はシスター・アンジェラから伺っております」


「神官様、お目にかかれて光栄です。第2王子のリシャールと申します」


「神官様、お久しぶりです」


 挨拶を交わした後、3人はアフロディテを祀った女神像の祭壇の間に来ていた。


「清めの水を作るには、この女神像に祈りを捧げて神力を蓄えておいてから、女神像の頭の先にある穴に水を注ぎ、中を循環させます。足元をご覧下さい。循環し終わった水が少しずつ溜まっていきます」


 神力とは、真摯に女神へ祈りを捧げることによって授かる力で、神官になるためには厳しい修行を積み、この力を開眼させなければならない。

 2人は初めて見る光景に興味津々で見入っていた。

 足元のバケツのような容器には水がポタリポタリと滴り落ちている。


「時間が掛かりますので、お茶でも飲みましょうか。お話を伺いたいですし。どうぞこちらに」


 案内されたのは、神官の待機所だろうか。ルクス手ずからお茶を入れた後、徐に切り出した。


「それにしても驚きましたよ、まさかセイラが聖女候補とは」


「アハハ、私もビックリです」


「神官様はセイラの事を良くご存知で?」


 リシャールが聞くと、ルクスは大きく頷いた。


「えぇ、子供の頃から・・・ってまだ子供でしたね」


 3人は揃って苦笑した。


「セイラは昔から良く教会の仕事を手伝ってくれましてね、内部の清掃からミサの準備支度、参拝に訪れた方々へのお世話など色々と。大変助かりました」


 出会ってまだ2日だが、どこに行ってもセイラの評判が高いことに、リシャールは気付かされる。


「それになんといっても臨時治療院の手伝いには本当に感謝してます」


「臨時治療院?」


「えぇ、私は癒しの力『キュア』が使えますので、肩凝り、腰痛、神経痛、リウマチなどの治療が出来ます。なので隔週一、ここで無料の治療院を開いているんですが、セイラが手伝ってくれるようになってから、簡単な外傷の治療も可能になったんです。彼女、回復魔法の『ヒール』が使えますから」


 この世界、医療が発達していない。精々が民間療法くらいで、病気や怪我は魔法や薬草などで治すのが当然と思われている。

 外傷などの怪我を治す場合、細胞の活性化を促すヒールで良いが、病気の場合、病に冒された細胞を下手に活性化させると逆に症状が悪化することがある。

 なので病気の場合は異常な状態を元に戻すキュアが良いとされる。


「もっとも最近は隔週どころか、月一でも開くのが厳しい状況なんですが・・・」


「なにかあったんですか?」


「お聞きになっておりませんか? 大神官様のお加減が思わしくなく・・・」


「あぁ、そういえば・・・」


 大神官とは、初代聖女に仕えた最初の神官の末裔にあたる。

 聖女の力は一代限りで、代替わりする際、その子に血が引き継がれることは無い。

 子を成さなかった聖女も居た。


 対して大神官は世襲制を取り続けている。

 理由は代々、大神官の一族に連なる面々は、初代大神官の血が成せる業かズバ抜けて神力が高いから。

 王族がお飾りで賜る神官長という役職とは訳が違う。


「大神官様がご健在であれば、神殿での祈りも問題無いんですが・・・その分を穴埋めするために各地から神官が持ち回りで王都に行かなければならない状況でして・・・私も頻繁にここと王都を往復しているんです」


「そうだったんですね・・・」


 次代の大神官と目される人物は、歴代の大神官と比べて神力が低いと言われている。

 24時間体制で女神に祈りを捧げ続けても、神託を賜れない現状で、尚且つ神力までもが低下すれば、ますます女神のご不興を買うかも知れない。教会側も必死なのだろう。


 (これ以上、長引かせる訳にはいかないな・・・みんなの負担が増える一方だ・・・)


 リシャールは改めてそう思った。


「さて、そろそろ良いでしょうかね」


 ルクスが立ち上がったので、2人もそれに続く。


 女神像の足元にはバケツ一杯分の水が溜まっている。

 その水をルクスが、香水を入れるようなキレイで小さなガラス瓶に移し替えてセイラに渡す。


「それじゃあセイラ、この瓶を握って魔力を込めてご覧。それで魔力水が出来るはずだ」


「回復魔法を掛けるみたいな感じで良いんですか?」


「そうだね、それと神に祈るような感じで」


「やってみます」


 いよいよだ、リシャールは緊張した面持ちで見つめた。


 目を閉じたセイラが集中した瞬間、目映い光が教会全体を包み込み、リシャールは目を開けていられない程の光の奔流に飲み込まれたのだった。










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