ライバル登場!?
「セイラ曰く『困ってる人からお金取れない』だそうです」
「それはいくらなんでも・・・」
お人好しが過ぎるだろうとリシャールは思った。
中には困ってるフリを装って、ただ働きさせてやろうとする不届き者が居るかも知れないっていうか、確実に居るだろう。
「えぇ、頼んだ方々もさすがにそれでは申し訳ないと、お金がダメならせめて食べ物や衣類、日用品などを渡そうとすると、一旦は受け取るようですが、後でそのほとんどを差し入れとして、子供達に渡してるようです」
「あぁ、そういえば今日も差し入れを持って行くと言ってました・・・」
「そうでしたか・・・」
アンジェラは一旦言葉を切って、
「冒険者になった経緯はお聞きになりまして?」
「え、えぇ、孤児院の運営が苦しいからお金を稼いで少しでも恩を返したいと・・・」
孤児院の運営には教会への喜捨と国からの補助金と篤志家からの寄付金が充てられるが、それでも賄いきれず、常に資金が不足気味なのが現状だ。王族の一人として、リシャールは肩身が狭い。
「えぇ、危険だから止めなさいと何度も言ったんですが『私なら大丈夫』の1点張りで・・・言い出したら聞かない子なんで仕方なく認めたんです。ギルドの方にはなるべく、報酬は少なくとも安心して稼げるような仕事を世話して欲しいと、報酬が高くて危険な仕事はさせないようにと、それとなくお願いしておきましたが」
あぁ、だからレナがあれだけ親身になって世話を焼いていたのかと、リシャールは納得する思いだった。
「最初の頃は、それこそ子供のお小遣いのような金額を渡してくるだけだったので、あぁ、ちゃんと身の丈にあった仕事を選んでいるんだなと安心してたんですが・・・その内、尋常じゃない金額を渡してくるようになりまして・・・」
「あぁ、急激にランクアップしていた頃ですね?」
「えぇ、いくらなんでもこんな大金は受け取れない、あなたが稼いだお金なんだから自分のために使いなさいと言ったんですが、今度は『私欲しい物無いから』とガンとして引っ込めず・・・更に『稼いでるんだから次の子のためにも出ないとね』と言って出て行こうとするから流石に慌てて止めたんですが、やはり言い出したら聞かず・・・」
アンジェラはため息をついて、すっかり冷めてしまった紅茶を飲み干してから言った。
「あれ程、私欲が無い人を私は他に知りません。それだけでもセイラには聖女の資格があると思いますわ・・・ちなみにセイラが渡してくるお金は『セイラ基金』として運用しています。本人には内緒ですが。どうしても資金繰りが苦しい時だけ使わせて貰って、それ以外は全て貯蓄してます。いつかセイラが困った時に力になれれば良いと思ってますわ」
リシャールはもう言葉が出なかった。ギルドである程度聞いてはいたが、ここまで無欲だとは。
(これもう聖女確定で良いだろ! ってか天使に違いないって! あとこの院長も良い人だなっ!)
「因みに殿下、第2王子様ということは、セイラが聖女であったとしたら、婚約者にするおつもりで?」
「あぁ、ご存知でしたか。えぇ、そのつもりで自分の目で確かめに来ました」
リシャールが居住いを正して答えると、アンジェラは訝しげな目付きで、
「セイラの年齢はご存知でしょうか?」
「はい、あの見た目からとても信じられませんが10歳だそうで」
「えぇ、失礼ですが、殿下のお年をお聞きしても?」
「・・・今年25歳になります」
院長室に微妙な空気が流れた・・・
(い、いや、分かってるんだよ!? このままじゃ確実にロ○って言われることは! でも仕方ないじゃん、聖女が中々見つからなかったんだから! そりゃ歳も食うって! そ、それにさ、セイラは見た目15、6なんだからさ、合法に見えなくない!? えっ? なに? 今度は合法ロ○だって!? うるさいわっ!)
リシャールが悶々としていると、アンジェラはため息をつきながら、
「それ、セイラに仰いまして?」
「・・・まだです」
「まぁ、聖女と確定した訳じゃないですし、言わない方が良いでしょうね」
「はい・・・」
リシャールが力無く頷くと、コンコンっとノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼しまーす」
セイラが入って来た。何故か歩き辛そうにしている。
「セイラ、どうしたの?」
「そろそろお話終わったかなぁと思いまして。あとこの子が離れてくれなくて」
見ると、後ろからセイラの腰の辺りに手を回して、しがみ付いてる子供が居る。
「こら、シオン! セイラが困ってるでしょ! 手を離しなさい!」
「ヤダっ! 離したらセイラ姉、どっか行っちゃいそうなんだもん!」
「さっきからこの調子なんです。どこにも行かないって言ってるのに」
苦笑しながらセイラが言う。リシャールの位置からは顔が見えないが、髪が短いので男の子なのだろう。
「我が儘言ってるとオヤツ抜きよ?」
アンジェラに言われてサっと離れた。オヤツの魅力には勝てなかったらしい。
改めて少年を観察する。
年の頃は7、8歳くらいだろうか。
金色のフワフワした髪は癖毛なのか毛先で軽くカールしていて、海を思わせるコバルトブルーの瞳は泣いていたせいか、少し涙目になっている。
幼いながら鼻筋はスッキリ通っていて、紅を差したような真っ赤な唇をキュっと結んでいる。
まるで天使のように可愛らしい少年だとリシャールは思った。
(なんか天使が多過ぎないか!?)
「・・・」
(なんかその天使・・・もといシオン君にめっちゃ睨まれてんですけど!? 僕、なんかしたっけ!?)
「シオン、一体どうしたの!? あなたこんな聞き分けのない子じゃなかったでしょ!?」
「・・・」
シオンは答えない。するとセイラがおずおずと答えた。
「え~と、なんか私がリシャール様を連れて来たから、リシャール様がそのまま私を連れ去るんじゃないかと思ったみたいですよ?」
(す、鋭いっ! この子凄いな、良く分かったよね!? 確かに連れ去る気マンマンだし! 聖女であろうか無かろうがっ! たとえロ○と呼ばれようがっ!)
リシャールが戦慄していると、
「お前なんかにセイラ姉は渡さないぞ! セイラ姉はボクのお嫁さんになるんだからな!」
そう叫んだシオンは、涙を流しながらリシャールを睨み付けた。
(あ~あるよね~少年期に歳上のキレイなお姉さんに憧れるのって。うんうん、お兄さんその気持ち良く分かるよ~誰しも大人になるために通る道だからね~)
リシャールは、自分にも経験があるので達観していたが、
(まぁ、夢から醒めれば自ずと年相応の相手を好きになるように・・・ってちょっと待てよ!? シオン君の年齢は知らんけど、仮にに8歳だとしたら、セイラは十分恋愛対象ってことにならないか!?)
その事実に気付いて余裕がなくなった。
(まさかシオン君が僕のライバル!?)
リシャールは悄然となるのだった。