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冒険者ギルドにて

 冒険者ギルドの中は雑然としていた。入ってすぐの中央部分が受付カウンターで、依頼を受ける人達で混み合っている。

 右側に依頼ボードがあり依頼を物色している人達が居る。

 左側にバーカウンターが併設されていて、昼間から酒を呷る人達が屯している。


 セイラとリシャール達が中に入った瞬間、酒を呷っていた冒険者達数名にあっという間にセイラが囲まれてしまった。

 慌ててリシャールが助け出そうとするが、セイラは平気な顔で、


「また昼間から飲んでるんですか~?  しょうがないですね~」


「わはは、そういうなよセイラ、ほら飴ちゃん食うか?」


「セイラ、まぁ一杯やれ!  ジュースだから心配すんな!」


「バカ、おめーそれ酒じゃねーか!  そんなもん飲ますんじゃねぇ!  セイラ、腹減ってねーか?  焼き鳥食うか?」


 まるで自分の娘に対するような世話の焼き方を見て、リシャールがあっけに取られていると、ギルドの制服を着た、女性にしては大柄で筋肉質な、いかにも元冒険者といった風情の職員が呆れて一喝した。


「あんたら、いい加減にしなっ!  セイラが困ってるだろっ!  ったく、昼間っからグダまいてないでとっとと仕事しなっ!」


 セイラを囲っていた酔漢共が蜘蛛の子を散らすように去って行った。


「レナさんっ!」


 セイラが親しみを込めて呼ぶと、


「あんまりアイツらに愛想振り撒くんじゃないよ、付け上がるからさ」


 レナと呼ばれた職員はうって変わって優しげな口調で言った。セイラが何とも言えない顔で苦笑していると、


「で?  アンタらは何者だい?  冒険者には見えないけど?」


 リシャール達に気付いて聞いてきた。リシャールはちょっと迷ったが、セイラの冒険者としての活動に関しても少し興味が湧いたので、セイラと親しいらしいこの職員に聞いてみようと思った。


「セイラに確認したいことがあってね、どこか落ち着いて話せる所はないかな?」


「ふーん、どうやら訳有りみたいだね。良いだろ、ついて来な」


 レナについて行った先は、どうやらちょっとした会議室のような所だった。

 席に着いたリシャールは、自分の身の上含め、ここに至るまでの経緯を説明した。黙ってそれを聞いていたレナは、


「セイラが聖女候補ねぇ・・・アタシにはどうにも信じられない話だが、わざわざ王子様が来たってことは可能性があるってことかい?」


「まだ何とも言えない。なのでまずはこの町の教会に行き、清めの水から聖水を作れるかどうか、セイラに試して欲しいと思ってる」


「聖水ってのは確か聖女の奇跡って呼ばれてる代物だっけ?」


「そうだ、神官が清めた水に聖女が光の魔力を注ぎ込んで作られる。魔の者を退け、病や傷を癒す、正に神の神業だ」


「それをセイラが作れるかも知れないと・・・セイラ、正直どうなんだい?」


 振られたセイラは困ったように笑いながら言った。


「いやぁ、私なんかに無理なんじゃないですかね~」


「アタシもそう思うよ」


「えっ!? なんでそう言い切れるんだ!?」


 リシャールが慌てて言った。


「だってこの娘、魔法が使えるからね」


 レナが事も無げに言った。


「なんだって!?」


リシャールが思わず叫ぶと、


「セイラ、見せてあげな」


「はーい、『ウォーター』」


 セイラが呪文を唱えると、彼女の掌の上に水の固まりがボール状になって現れた。


「なんてことだ・・・」


 リシャールは頭を抱えてしまった。


「確か聖女は魔力は高いけど魔法は使えないんだったね?」


「・・・あぁ、その通りだ・・・」


 目に見えて落ち込んでしまったリシャールを、セイラは困り顔で見つめていた。


「あの、なんかすいません・・・」


「いや、君のせいじゃないから・・・」


 リシャールは力なく呟いた。


 (今度こそはと思ってたのに、なんてことだ・・・いやでもこんな美少女を見逃してしまうのは惜しい!  男として悔しい!  聖女じゃないのは仕方ないとして、せめて妾にでも!  いや待て、聖女が見つかってないのに先に妾にだなんて許されるのか!?  聖女を見つける方が先じゃないのか!? あぁ、でもその間に他の男に取られたりしたら・・・)


 リシャールが悶々としてる間に、


「まあダメ元で試してみたらどうだい?  セイラもそれで良いだろ?」


 と、レナが提案した。


「はい、私は別に構いません」


「もっとも、神官は今出張に出てて、明日にならないと戻らないけど、王子様もそれで良いかい?」


 ぼんやりとしていたリシャールは、


「え?  あぁ、それで構わない」


 と反射的に答えたが、すかさず護衛の1人が囁いた。


 (殿下、よろしいのですか?  予定が詰まっているのでは?)

 (まぁ1日くらい大丈夫だろう、すまないが宿の手配を頼む)

 (畏まりました)


「あ、そうだ、レナさん、私に用事ってなんですか?」


 セイラはギルドに寄った本来の目的を思い出した。


「あぁ、そうだった、ちょっと待ってな」


 そう言うとレナは席を外し、すぐ紙袋を持って戻って来た。


「ほれ、頼まれた物入荷したから持って行きな」


「あ、ありがとうございます!」


 セイラは喜んで中の物を取り出そうとしたが、レナが慌てて止める。


「こら、こんな所で出すんじゃないよ!」


「え?  ダメなんですか?」


「ダメって言うかその、あぁもう、あんたって娘は!」


 レナが頭を抱えている。リシャールは見えてしまった袋の中身を赤面しながら思い出していた。

『ナイト用』と書かれたナプキンを。


「コホン、ま、まぁそのなんだ、生理現象だし、なんら恥ずかしいことではないと思うぞ、うんうん」


「ですよね~レナさんが大袈裟なんですよ~まぁ最も私は先月初めて来たからビックリしちゃったんですけどね~なんて言うんでしたっけ?  社長?」


「初潮だよ・・・」


 レナが疲れた顔で呟いた。それにリシャールが反応した。


「うん?  先月が初めて?  それは遅過ぎではないのか?」


 リシャールの認識では、女子の初潮は早い娘は10歳前後、平均でも12~3歳くらいで迎えるものと思っていた。

 対するセイラはどう見ても15歳前後に見える。


「ん?  セイラ、あんた王子様に自分の歳を言ってなかったのかい?」


「はい、聞かれなかったので」


「あぁ、それでか・・・」


「え?  どういうことだ?」


 リシャールは困惑して尋ねる。


「この娘はまだ10歳だよ、とてもそう見えないけどね」


 レナの言葉が頭の中に届いて理解した瞬間、


「なんだってぇー!!!」


 リシャールはこの日一番の衝撃に見舞われたのだった。





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