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セイラの日常

☆2020/11/08 大幅に加筆しました。

「これはっ!?」


 リシャールは信じられない思いで自分の両手の平を見つめた。

 あかぎれやひび割れ、剣だこに至るまでキレイさっぱり治っているのだ!

 セイラお手製のハンドクリームをたったひと塗りしただけで!!

 しかも塗り終わってすぐに!!!


 (これは『当たり』かも知れない!!!!)


 リシャールは逸る気持ちを抑えながら努めて冷静にセイラへ問い掛けた。


「いやぁこりゃ凄いねぇ。あっという間に治っちゃうなんて」


「そうでしょう~皆さん、とても助かったって言ってくれるんですよ~なかなか治らなくてツライ思いしてたみたいで~」


 セイラはニコニコ笑いながら嬉しそうに言うが、それがどれ程異常なことか分かっていないようだ。

 あとなんだその花も恥じらうような眩しい笑顔は天使かっ!?


「ちなみにどうやって作ってるんだい?」


「ん~特に変わったことはやってないんですけどね。野草を和える時『みんな早く治るように』って祈りを込めるくらいですよ、アハハ」


「そ、そうなんだ」


 たったそれだけで、あり得ない効果を発揮している物を作り出したことには気付いていないようだ。


「ところでセイラ嬢、話変わるけど今日この後時間あるかい? もし良かったらこの町の教会まで一緒に足を運んで欲しいんだけど?」


「セイラでいいですよ。ええ、構いません。どうせこの後教会に行くつもりでしたから」


「じゃ行こうか、案内してくれるかな? セイラ」


「はい」


 セイラと連れ立って町を歩いていると、至る所から声が掛けられる。

 それら一つ一つに気さくに応じている彼女はかなりの人気者のようだ。

 まぁこの容姿ならそれも当然か、リシャールはちょっと彼女の身の上に興味が湧いたので色々聞いてみることにした。


「ずいぶんと人気があるようだね?」


「あぁ、私『何でも屋』やってるから結構顔が広いんですよ」


「何でも屋?」


 リシャールが首を捻る。


「えぇ、今日みたいな染物の流しや、販売の手伝い、農繁期には種蒔き、草取り、収穫の手伝い、商店の売り子や食堂の賄い、失せ物探しや空き家の清掃、一人暮らしのお年寄りの家の掃除や洗濯、食事の世話、雨漏りする屋根の修繕などなど、とにかく人手が足らない所や困っている人を手助けするお仕事ですね」


 リシャールは感心して、


「へぇ凄いね、そんなに多岐に渡るんだ?  だからみんなに好かれているんだね。しかし他はともかく女の子なのに屋根に昇ったりするの怖くない?」


「あぁ私、孤児院育ちだからそういうの慣れてるんですよ。孤児院では畑仕事から家事全般までをこなすのが当たり前で、更に簡単な大工仕事くらいなら自分達でやったりしてましたから」


 セイラはどこか得意げだ。


「そうだったのか、中々に逞しいね。ってことは、今日の教会に行く用事っていうのは?」


「はい、生まれ育った教会の孤児院へ差し入れに行くつもりでしたからちょうど良かったんです」


「偉いね~」


 と、リシャールが感心していると、そこでセイラが足を止めた。


「あ、すいません。ちょっと冒険者ギルドに寄ってもいいですか?」


「冒険者ギルド?」


「はい、私『何でも屋』の仕事が無い時は冒険者として活動してるんですよ」


 また彼女の新しい一面に触れたリシャールは、セイラの魅力にますます惹き付けられていた。

 本音を言えば一刻も早く教会に行きたいのだが、


「君が冒険者? そんな華奢な体つきで信じられないな。職種は?  ランクは?」


「Cランクの弓兵です。これでも弓の腕は中々だってパーティー組んだ人は誉めてくれたんですよ!」


 セイラはそう言いながら、右腕で力こぶを作ろうとするが筋肉は全く盛り上がらず。

 それでも得意げにしている顔はとても愛らしくその微笑ましいポーズも合わさってなんて尊くだから天使かっ!!


「Cランクか、女性にしては中々だね」


 冒険者のランクは、最初Fからスタートし、順調に行けばAまでは普通に昇格出来る。

 それ以上のSランクになると、昇格するには国が指定した高難易度のクエストを達成する必要があり、到達出来たのは過去数人しかいない。なので実質Aランクが最高位と言える。

 女性でしかもセイラの年齢でCランクというのは、かなり早い出世と言えよう。


「まぁでも最近は、どこのパーティーも入れてくれなくなって、専らソロで活動してるから、これ以上のランクアップは厳しいかもです・・・」


 セイラが寂しそうに呟く。


「なんでまたそんなことに?」


 弓兵としての仲間内の評価は悪くないみたいだし、戦力にならないからという理由ではなさそうだ。

 何よりこんな超絶美少女と一緒に居られるんだ、それだけでテンション上がりまくりだろう。

 自分なら絶対手放したりしないと断言出来る! とリシャールは思った。


「なんかここ最近になって急に、私がパーティーの一員として一緒に居ると、魔獣が寄って来なくなるみたいで、商売上がったりだと・・・」


 約500年前、初代聖女によって魔の者が消えた後も魔獣は残ったが、魔の者に使役されていた時より格段に弱くなったので、戦いに秀でた人間であれば討伐が可能になった。

 その結果、冒険者のように魔獣を倒すことを生業にする者達が増えた。


 魔獣を倒した後に手に入る魔石は、魔道具を作る材料として重宝された。

 魔道具とは魔法を使えない人でも、火や水の初級魔法(火を起こしたり、コップ一杯の水を出したり)が使えるようになる便利なアイテムである。


「は? それはたまたまじゃないの?」


「それが私が抜けると普通にエンカウントするみたいで、そういうのが何度も続いて気付いたら誰も誘ってくれなくなりました・・・」


「それはまた・・・なんて言ったらいいのやら・・・何か原因に心当たりとかは?」


 今度はセイラが首を捻る。


「全く検討もつきません」


「そうだよね、分かったら苦労しないよね・・・だからソロで?」


「はい、ソロなら誰にも迷惑かけませんし」


「でもソロだと危なくない?」


「そもそも魔獣に会いませんし」


 セイラが苦笑する。


「それもそうだね、あれ?  じゃ今はどうやって稼いでるの?」


「専ら薬草などの採取専門です」


「それなら危なくないかな」


「えぇ、それに私が採取に行くと、弟切草や曼珠沙華、マンドラゴラなどの貴重な薬草が良く獲れるんで、実は結構稼いでたりします」


「へ、へぇそれはまた・・・」


 リシャールが気の抜けた返事をしている内に、冒険者ギルドの建物が目前に迫っていた。













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