聖女の片鱗?
「セイラちゃん、この方々があなたに用があるんですって。えーと・・・すいません、お名前を伺っていませんでしたね?」
「・・・」
「・・・あの?」
ここまで案内してくれた受付の女性(名をヘレンというらしい)に問い掛けられ、ハッとたっぷり10秒以上フリーズしてからリシャールは再起動した。
「す、すまない。僕はこの国の第2王子リシャールという。えっとセイラ嬢、話をしたいのだが少々時間を取らせて貰えないだろうか?」
「え、第2王子様!?」
その場に居た女性陣が俄に色めき立つ。
そんな中、1人平然としていたセイラは、
「はい、ちょうど終わった所なんで構いませんよ。皆さーん、お先に上がりますねー! さっき渡したハンドクリームちゃんと塗って下さいねー!」
そう告げると、騒ついていた女性陣から応との返事が返って来た。
「では行きましょうか」
「あ、あぁ」
ぎごちなく返事をしたリシャールだったが、さて、どこで話をするかという段になって、それなら役場の応接室はどうか? とヘレンが提案してくれたので、それに乗っかることにした。
応接室に着いてソファーの対面に座り、改めてセイラをじっと見つめる。
瞬きするたびに音がしそうな長い睫毛、低過ぎず高過ぎず絶妙に均整の整った鼻筋、赤いバラの蕾が綻んだように美しく開く口唇、まるで美の女神に愛されたかのような容貌だと、リシャールは改めて思った。
「それでお話しというのは?」
セイラの鈴を転がすような声音で問い掛けられて、リシャールはまたトリップしかけた思考を切り替えた。
「あ、あぁコホン、今現在国中を上げて聖女を探しているのは知ってるかな?」
「ええ、知ってます。まだ見つからないんですか?」
「残念ながらまだだ。ただ聖女関連の情報は国中から上がって来てて、我々が精査しつつ今回のように聖女の可能性が僅かでもある場合は直接現地に赴くこともある」
「その可能性っていうのが私ってことですか?」
「そういうことだ。何か心当たりはあるかい? ちなみに情報を寄せてくれたのは、ジェフさんっていう行商人の人らしい」
「ジェフさん・・・うーん、何だろう・・・」
セイラは首を傾げながら考えていたが、
「あっ! もしかして、あれかなあ?」
「何だい?」
「ほら、今真冬で寒いじゃないですか。さっきの冷たい川の水で生地を洗う染物の女の人達もそうだけど、ジェフさんも寒い中、馬の手綱を握るから手が荒れるんですよね。だからハンドクリームを渡してあげました。それかなあ?」
「あぁさっきも言ってたね。そのハンドクリームってのは?」
セイラはポケットから小さなビンを取り出す。
「これです。お肌に良いと言われる野草をすり鉢で和えて私が作りました」
「君の手作り?」
「はい、あかぎれやひび割れ、霜焼けにも効果があるって皆さんに好評なんですよ~」
と、セイラは嬉しそうに言った。
ふう・・・リシャールは思わずため息をつきそうになって慌てて平静を装おった。
(やっぱりこんなオチだったか・・・まあ、ある意味予想通りではあるんだが・・・こんな人外めいた規格外の美少女が聖女であって、しかも僕の婚約者になったら最高だな、なんて思ったりして・・・って、イカンイカンこの娘には何の責任も無いんだから。しかし惜しいなぁ・・・)
そんな内心をおくびにも出さず、リシャールは、
「へぇそうなんだ。実は僕も剣の鍛練で手が荒れてるから、少し貰ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ~」
リシャールは社交辞令のつもりで言っただけだった。素人のそれもこんな少女が作ったものだ。
大して効きゃしないだろう、気休め程度のものだろうと。
それが、ひと塗りしてみて驚愕することになるなんて・・・