生態
セイラは慌ててその生物をリシャールから引き離す。
「こらっ! そんなの食べちゃダメでしょ! ペッしなさいペッ!」
そんなのってなんだ!? リシャールは文句を言いたかったが痛さでそれ所じゃない。
幸い甘噛みだったのか出血はしていないが痛いもんは痛い。
リシャールが睨み付けると、セイラに叱られシュンとしている。
「リシャール様、申し訳ございません。お怪我はありませんでしたか?」
「いや、怪我は無いがセイラ、それは危険な生物なんじゃないか?」
「うーん、でも私達には噛んだりしないし大人しいんですよね。そうよね、マリア?」
「はいっ! とっても可愛いですっ!」
早々に女子二人は陥落したようだが、単にコイツが女好きなんじゃないのか!? あと断じて可愛くはないっ! とリシャールは思ったが口には出さなかった。
「ところでセイラ様、この子何なんですか?」
少し冷静さを取り戻したマリアにも事の経緯を説明すると、途端に目を輝かせて、
「えぇっ!? それってもしかしたら聖獣なんじゃないですか!?」
「聖獣って何?」
「聖女様に付き従う騎獣のことですよっ! 初代聖女様の時はそれはもう美しい白馬だったとかっ!」
マリアが興奮して捲し立てるのを聞きながらリシャールは、あぁやっぱりそれを連想するよねぇ、でもどっか違うような気がするんだよねぇって思った。
「そうなの? でもこの子ちっちゃいから乗れないよ?」
「きっとこれから大きくなるんですよっ!」
「そうなのかな、この子何食べるんだろ?」
いやいやいや、ちょっと待て! なんかもう既に飼うの前提に話してないか!?
「セイラ、コイツをここで飼うつもりか?」
「え? ダメですか?」
「ダメに決まってるだろう? そんな得体の知れないモン」
そんなキョトンとして首傾げてもダメなモンはダメっ! めっちゃ可愛いけどなっ!
「そんなぁ~」「殿下、聖獣様に対して失礼ですっ!」
女子二人から不満の声が上がるがここは譲れない。それと、いつの間に聖獣認定されたのかと小一時間ほど問い詰めたい。
まぁそうは思っても実際の所、コイツの正体が不明のまま放り出す訳にはいかないことも分かってはいるのだ。
「はぁ、しょうがないな。分かったよ。まずは鑑定して貰おう。シスター・マリア、鑑定スキル持ちの神官様は今日いらっしゃるかな?」
「はい、常にお一人は常駐されておりますので」
因みにスキルとは魔法ではないので、後天的に能力が目覚めるということはない。
この世に生を受けた時、神から授かった力のことでギフトと呼ばれる。
なお、万人がスキルを持って生まれて来るという訳ではないので、スキル持ちは持たない人に比べて優遇される傾向にある。
希少なスキルともなればその傾向は尚更顕著になる。
鑑定スキルは希少スキルに分類され、神官に採用される際、非常に有利に働く。
神殿には様々な鑑定依頼が舞い込むので、一人でも多くの鑑定スキル持ちを囲い込んでおきたいからだ。
「では神殿に戻ろうか。セイラ、抱えて行けるか? 重くないか?」
「大丈夫です。この子軽いんで」
◆◆◆
神殿に戻る途中、トマトやキュウリを育てているエリアの側を歩いていると、
「キュイ!」
「どうしたの?」
それまで大人しかった生物が急にセイラの腕の中でバタバタし始める。
その赤い瞳は真っ赤に熟したトマトに釘付けになっているようだ。
「もしかして食べたいの?」
「キュイッ!」
セイラが話し掛けると、とても良い返事が返って来た。
「食べさせても大丈夫でしょうか?」
聞かれてもリシャールだってこんな謎生物の食性なんぞワカラン。
「さあ? 本人? が食いたいっていうならいいんじゃないか?」
まさかこの見た目でベジタリアンってことはないだろう。
牙生えてるし爪も鋭いし、肉食にしか見えないが雑食なのかも知れない。
マリアがトマトを一個捥いで与えてみた所、
「うわぁ、美味しそうに食べてますね~」
口の周りをトマト汁だらけにしながら一心不乱に食べている。
トマトを食べ終わると今度はキュウリの方を向いて、
「キュイ!」
「キュウリも食べたいの?」
「キュイッ!」
キュウリも美味しそうにポリポリと食べている。
「ホント美味しそうに食べますよね~ 私、てっきりこの子肉食だとばかり思ってたんですけと、違うんですかね~?」
マリアもリシャールと同じように思ってたみたいだ。
「どーせならもっと色々食べさせてみよっか?」
セイラがまた面倒なことを言い出した。
「いやいや、コイツの鑑定が先だろ?」
「いーじゃないですか。神殿までの通り道だし」
確かに次は果物エリアで、リンゴ、梨、ブドウなどが撓に実ってる。
リシャールとしてはさっさと終わらせたいし、ぶっちゃけコイツの食性なんぞどーでも良かったのだが、
「仕方ないな。これで最後だぞ」
「はーい」
セイラが楽しそうなんで折れることにした。
結果、与えた果物も全て平らげた。
ただ食い意地が張ってるだけなんじゃないのか?
お腹が一杯になったのか、再びセイラの腕の中で目を閉じている姿を見ながら、リシャールはそう毒付いていた。
(ただこうやって寝てると可愛いと言えなくもないかな)
そう思ってリシャールが頭を撫でようと手を伸ばした時、ガブッ!
「いってぇぇぇっ!!!」
手に噛み付かれたリシャールの絶叫が再び響き渡った。
やっぱりコイツ可愛くねぇっ!!




