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セイラという名の少女

 ロッサムの町に入り、町役場までの道程を馬車に揺られながら、リシャールはぼんやりと町並を眺めていた。

 ここは『ロッサム染』と呼ばれる染物が盛んな町で、それらを扱う商人達が町中を行きかい、なかなかに賑わっている。


 (さて今回も『ハズレ』かそれとも・・・)


 リシャールはこの町の者から送られて来た、聖女に関するかも知れない情報を思い出していた。

 曰く『回復の効果を付与したアイテムを作ることが出来る』と。

 これが本当なら俄然、聖女候補の筆頭に挙がるのだが、リシャールは正直眉唾物だと思っていた。


 この世界、魔法の効果をアイテムに付与出来る存在は、基本聖女以外には居ない。

 その昔、大賢者と呼ばれた者が付与出来たなどという逸話もあるが、伝説の域を出ないので現実的ではないだろう。


 聖女は膨大な魔力を有するが魔法を扱うことが出来ない。

 これは光の魔力を持つ者の特長とも言われているが詳しいことはわかっていない。


 その代わり光の魔力を込めた『聖水』を生み出すことが出来る。

 聖水には魔を払う力があり、特にアンデッドに向かって振りかければ効果覿面である。


 また、治癒の効果も付与されており、外傷を負った箇所に振りかければ傷を塞いでくれる。

 病人に飲ませれば症状が改善するなど、神の神業としか思えないような効果を発揮する。

 このような聖水を生み出せる聖女が、どれだけ重要な存在か推して知るべしである。


 (まあ恐らく今回も薬草などをただ煎じた物なんだろうな・・・)


 今までの経験上、リシャールは達観していたが、それでもこうして現地まで足を運んでいるのは「もしかしたら」という思いが、期待が、願望があるからで、


「殿下、着きました」


 護衛騎士に声を掛けられ、リシャールはハッと現実に戻された。

 馬車を降り、町役場の受付カウンターに尋ねる。


「聖女関連の情報を聞いてやって来た。ジェフさんという人にお会いしたい」


 リシャールがそう言うと、受付の女性は困ったような表情を浮かべながら、


「ジェフさんですか・・・あの方は行商人ですので、この町と王都を行き来しています。確か昨日発ちましたので、今頃は多分王都に居るかと・・・」


「なんと、行き違いか・・・」


 リシャールはガックリと肩を落とした。

 受付の女性は気の毒に思いながらも、


「あの、ジェフさん、この町に居る誰の情報を提供したんでしょうか? それだけでもわかればお力になれるかと思うのですが・・・」


「おぉ、そうだ!  ちょっと待ってくれ・・・」


 リシャールはゴソゴソとメモ書きを取り出し、


「セイラという女性だそうだ」


「あぁ、セイラちゃんですか、居ますよ」


「そうか、良かった!  早速会いたい、どこに行けば会える?」


 受付の女性が思案顔になる。


「えーと確か今日は・・・」


 すると横に居た同僚の女性が、


「セイラちゃんなら川に居ましたよ」


「川?」


「はい、今日は染物を川で流す日なので、そのお手伝いをしてます」


「案内を頼んで良いか?」


「わかりました」


 受付の女性に案内してもらいリシャール達が川に着くと、沢山の女性達が川で生地についている糊や余分な染料を洗い流している光景が目に入って来た。


 晴れているとはいえ、今は真冬でかなり気温も下がっている。風も冷たい。

 川の水は刺すように冷たいだろうに、大変な仕事だなとリシャールは思った。


 案内してくれた女性が叫ぶ。


「セイラちゃーん!」


「はーい!」


 1人の少女がこちらを振り向いた。

 その瞬間、リシャールは思わず目を見張った。


 年の頃は15、6歳くらいだろうか、この国では珍しい腰まで伸びた艶やかな黒髪を後ろで一つに束ね、こちらを見上げる大きな瞳は太陽の光を閉じ込めたように金色に輝き、手はスラリと伸びてたおやかで、足もカモシカのようにスラっとしていてとても綺麗で・・・


 

 要するに類い稀なる美少女がそこに佇んでいた。









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