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第2王子の帰還

☆後半(主人公なのに初めてのw)セイラ目線になります。

 約3時間後、カインが応援の騎士を引き連れて戻って来た。

 待ってる間は何事も無く、警戒してた賊の仲間は居なかったようだ。


「カイン、ご苦労。賊共は纏めて馬車に乗せろ。準備出来次第、王都に向かう」


「リシャール様、こちらを。レイモンド様から預かりました」


 レイモンドは長年、リシャールの側近を務めている。信頼の置ける腹心の部下だ。

 そのレイモンドからのメモに目を通したリシャールは、


「やっぱりな・・・」


 獲物を捉えた鷹のような目をしてほくそ笑んだ。



◆◆◆



 空が茜色に染まる頃、西日に照らされた王都の外壁が見えて来た。

 王都をグルっと囲い外敵から守るように聳える外壁は、優に10mを越える高さを誇り、圧倒的な存在感を放っている。


 セントライト王国の王都エストリアは人口10万人を越える大都市である。

 都市部中央の小高い丘の上に聳える王宮を軸に、東西南北へと放射線状に街路が伸び、それに沿ってキレイに区画整理された街並みが広がっている。


 王都には東西南北に4つの通用門が設置されている。

 リシャール達一行は王都で一番利用者の多い東の通用門から入ることにした。

 一般向けの入門許可を求める長蛇の列を尻目に、貴人専用のゲートからすんなり中に入る。


「ふぅ、やっと着いたな」


 リシャールがホッと一息ついていると、その横でセイラが目をキラキラさせてハシャイでいる。


「私、中に入るの初めてです。うわぁ、こんな風になってるんですね~!  人が沢山居る~!」


「えっ? 初めて?」


「はい、護衛任務の時はいつも門の所でとんぼ返りしてましたから」


「1回くらい入ろうと思わなかったの?」


「あの列に並ぶ気にならなくて。あと入門許可に銅貨5枚払うのも勿体ないかなって」 


 セイラが苦笑しながら言った。

 この国の貨幣は高い方から順に、プラチナ、金、銀、銅、鉄、となっている。

 それぞれが10単位で上に繰り上げる。鉄10枚→銅1枚、銅10枚→銀1枚 といった具合だ。


 因みに銅貨5枚あれば一般人なら1日の食費を十分に賄える金額だ。


「そっか・・・まぁ取り敢えず、ようこそ王都へ!」


 リシャールは気を取り直すように声を張った。


「さて、まずはアラン、冒険者ギルドに行って護衛依頼の後申告と完了報告を頼む。セイラ、アランに冒険者カードを渡してあげて」


「了解です」


「はい、これです。よろしくお願いします」


 セイラからカードを受け取ったアランが冒険者ギルドに走って行った。


「では我々は王宮に行こうか」


 王宮は別名『白鳥宮』と呼ばれる。

 貴重な白大理石を分断に取り入れた華麗な意匠と、某ネズミの国を思わせるメルヘンチックな外観が合わさって、夕闇が迫る中に白く浮かび上がる様は幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「素敵・・・」


 セイラが感無量な面持ちで眺めながら、うっとりと呟いた。


「気に入って貰えたようでなによりだよ。さ、中に入ろうか」


 リシャールがまだボーっとしているセイラの手を引いた。


「リシャール様、お疲れ様でした。お待ちしておりましたよ」


「レイモンド、遅くなった。セイラ、彼はレイモンドといって僕の側近を務めている。レイモンド、彼女がセイラだ。よろしく頼む」


「セイラと申します。よろしくお願いします」


「レイモンドです。こちらこそよろしくお願いします」


 レイモンドは年の頃はリシャールと同じくらいだろうか。

 少しくすんだような銀髪に緑の瞳、スラリとした長身に人懐こそうな笑みを浮かべている。

 リシャールに負けず劣らずの美男で、2人並べばさぞや絵になることだろう。


「これはなんとも麗しい方だ。リシャール様が夢中になるのも無理ありませんね」


「レイモンド、余計なこと言うな」


「これは失礼を」


 セイラが照れて赤くなってしまったのでリシャールが窘めるが、レイモンドは涼しい顔である。


「レイモンドとは乳兄弟でね。優秀な奴ではあるんだがチャラいのが欠点なんだ。では僕の執務室に行こうか」


 後ろでレイモンドが、チャラくないですよ~と言ってるのを無視して進む。



◆◆◆




 リシャールの執務室は華美な装飾がほとんど無く、落ち着いた雰囲気の実務的な部屋だった。


 リシャールは早速レイモンドに確認する。


「レイモンド、神殿への根回しは済んでいるな?」


「はい、明日の早朝に聖女認定の儀を執り行うこと、神官様方に了承済みです」


 聖女認定の儀とは、神殿の祈りの間で聖女候補者が神に祈りを捧げ、神力の強さを示すというもので、初代聖女の故事に由来している。

 聖女候補者には聖水を作り出す事と、この儀式を司る事の両方が求められる。


「良し。ところで大神官様のご容態は相変わらずか?」


「はい・・・なにせお年を召していらしゃいますので治癒魔法もあまり効果が無く・・・」


「そうか・・・そうだっ!  セイラっ!」


「は、はぃっ!?」


 今までの話についていけず、ポケっとしていたセイラは、いきなり振られてビックリした。


「君の作った魔力水を大神官様に試してみたい。良いかな?」


「え、えぇ、構いませんけど・・・」


「レイモンド、早速手配してくれ」


「いやいや、まだ鑑定もしてない物を大神官様に試すなんて神殿側が了承しませんよ」


「なら鑑定してから試せば良いだろう?  どうせこのままじゃジリ貧なんだ。手遅れになる前に試せる物はなんでも試してみるべきだ」


「はぁ、わかりましたよ。神殿に掛け合ってみます」


「頼む。セイラ、今日は疲れたろう?  部屋を用意してあるから、夕食までゆっくり休んでくれ。夕食は一緒に食べよう」


「あ、ありがとうございます」



◆◆◆



 メイドに案内されて豪華な客室に案内されたセイラは、所在無げにベッドへ腰を下ろしていた。


 思い返してみれば、ここ2、3日の間に体験したことは、自分の短い人生の中でも一番濃かったと思う。

 リシャールとの出会いから全てが始まった訳だが、彼に対する良い印象は初対面から数日経った今でも変わることはない。


 王子様なのに偉ぶることも無く誰に対しても誠実に接し、身分を笠に着て差別したりもせず、自分に対しても常に気遣ってくれる。

 聖女候補を邪険には出来ないという打算的な面もあるだろうが、それでも彼の真摯な態度には好感が持てると感じている。


 (これからどうなっちゃうんだろ? 私なんかに聖女なんて大役務まるのかな? ううんそれよりも聖女じゃなかったら・・・リシャール様ガッカリするんだろうな・・・期待に応えられなかったら嫌われちゃうのかな・・・それはなんかイヤだな・・・)


 セイラがネガティブな思考に陥ってベッドに倒れこんだ時、


「失礼致します」


 と、メイドさん達が部屋に入って来た。


「はぃっ!?」


 ベッドから飛び起きたセイラに、メイドさんがニッコリと微笑んで、


「夕食の前にお風呂に入ってキレイにしましょうね」


 と言うなり、セイラを囲んで一斉に服を脱がし始める。


「あ、あのっ!  だ、大丈夫です!  一人で入りますからっ!  だ、だから脱がさないでぇ!」


 という心からの叫びも空しく、すっぽんぽんに剥かれたセイラは、風呂に放り込まれた。

 頭の天辺から足の爪先まで、メイドさん達に丁寧に磨かれ、マッサージまで念入りに施されたセイラは魂が抜けていた。


 (うぅ、もうお嫁にいけない・・・)


「次はお着替えしましょうね」


 セイラに逆らう気力は無く、メイドさん達の着せ替え人形と化していた。

 ああでもない、こうでもないと何度も着せ替えられ、疲れをとるはずが疲労困憊になってようやく決まったのは、セイラの艶やかな黒髪に良く映える白を基調としたシンプルなラインのドレスだった。


 最後に髪をアップに結い上げ、軽く化粧を施されたセイラを見てやりきった感のメイドさん達は、


「まぁまぁ、なんて素晴らしい!  お綺麗ですよ、お嬢様!」


 天使だ妖精だ美の化身だなどと口々に褒め称える。


 訝しんで鏡に映る自分を見たセイラは絶句した。


 (これが私!?)


 美の女神が降臨していた。











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