襲撃
★残酷、流血の描写があります。苦手な方はご注意下さい。
リシャールの護衛2人は、それぞれ前後に分かれ賊共と対峙する構えだ。
(どうする? 前も後も人数比は1:5で圧倒的に不利だ、どっちに加勢する? セイラも守らなきゃいけないし、どうすれば!?)
リシャールが逡巡している僅かな間に、セイラは既に動き出していた。
「後ろの5人頼みます」
それだけ言うと、セイラはリシャール達が止める間もなく、前方の賊共に向かって走り出していた。
「セイラ、待てっ!!」
慌ててリシャールが叫ぶも、既にセイラは弓を構え矢を番え賊共に放っていた。
一度で5本の矢を。
『マジックアロー』
セイラの魔力が付与された矢は、赤、青、黄など様々な色彩を帯びながら飛んで行き、正確に賊共の足を貫いた。
5人全員が足を射ぬかれた賊共は、その場に崩れ落ち動きを止めた。
いち
(なんだ、今のは!? 矢に攻撃魔法を乗せて放った!? そんなこと可能なのか!?)
リシャール達が呆気に取られていると、味方をやられて焦ったのか、後方に居た賊共が剣を抜いて慌てて斬りかかってきた。
ハッと我に返ったリシャール達が応戦するも、相手は多勢に無勢、リシャールとて王族の端くれである以上、当然剣の心得はあり、相手が相当な手練れでもない限り、一対一なら負けない自信もあった。
だが賊共は二手に分かれ、3人が護衛達に、2人がリシャールに向かって来た。
リシャールが賊の1人と相対し初撃を受け止めるも、その横からもう1人が襲いかかって来た。
(マズい、やられる!!)
リシャールの頭の中に走馬灯が流れそうになった刹那、
「ぐぇっ!」
「うぎゃ!」
2本の矢が飛んで来て、リシャールに襲いかかっていた賊に突き刺さり、2人共に血を撒き散らしながらぶっ飛んで行った。
矢の飛んで来た方を見ると、弓を放った姿勢のセイラが佇んで居た。
「リシャール様、お怪我はありませんか!?」
「あ、あぁ、大丈夫だ。助けてくれてありがとう」
リシャールがそう言うと、セイラはニッコリと微笑んだ。
護衛2人の方もケリがついたようだ。賊が3人切り捨てられている。
さすがに無傷でとはいかなかったようで、軽傷ではあるが2人共怪我を負っている。
リシャールは護衛2人に後を任せ、セイラの方に向かった。
セイラの目の前には、足から血を流し、苦しげに呻いている5人の賊共が転がっていた。
良く見ると、5人共に淡く光るロープのようなもので縛られている。
「セイラ、これは?」
「『バインド』と言う拘束魔法です。魔力で作ったロープで縛ってあるので、縄脱けも無理です」
「な、なるほどね。ち、ちなみにさっきの矢は?」
「火、氷、風、土の攻撃魔法を付与して放ってます。あ、それと命中補正も掛けてます」
「そ、そうなんだあ・・・」
因みにリシャールは、魔力はあるが魔法を扱えない。
この娘はどれだけの魔法を扱えるのだろう?
攻撃魔法を矢に付与して放つ攻撃なんて聞いた事も無い。
リシャールは段々怖くなってきた。するとセイラが顔をしかめながら、
「申し訳ありません・・・リシャール様を危険に晒してしまいました。護衛失格ですね・・・」
「謝らないでくれ。そもそも、セイラは最初から護衛の数が少ないことを危惧していたのに、それを強行したのは僕だ。謝るなら僕の方で・・・いや、違うな。セイラが居なかったら僕らは全滅していた。だから、助けてくれてありがとう、セイラ」
「そう言って頂けると・・・」
セイラはホッと肩の力を抜いた。そこへ賊共への処置を終えた護衛達が合流した。
5人共絶命したらしい。身元を示すような持ち物は何も持っていなかったという。
「ただの破落戸じゃありませんね」
護衛の1人が淡々と語る。
「というと?」
「洗練された動きでした。その道のプロというか、人を殺す訓練を受けていると思います」
「ふーむ、だとすればお前達が苦戦したのも当然か」
この2人は、王族の護衛を担当する近衛の中でも特に腕利きで、リシャールも信頼している。
だからこそ護衛を任せている。その2人が言うのだから間違いないだろう。
セイラは怪我を負った2人に回復魔法を掛けてあげた。一瞬で全快する。
「ありがとうございます。セイラ殿が居てくれて本当に助かりました。我々だけでは殿下の御身を守ること叶わなかったでしょう。心より感謝申し上げます」
「いえいえ、そんな」
護衛の2人(名をカイン、アランという双子の兄弟らしい)にまでお礼を言われて、セイラは恐縮しきりである。
◆◆◆
「さて、一応聞くが誰に頼まれた?」
喋る訳無いだろうと思いながらも、リシャールは賊共に尋問した。
尋問中に死なれても困るので、セイラに頼み回復魔法で止血のみの治療を行った。
全快はさせていないので、痛みは継続していることだろう。
「・・・」
案の定、黙りである。しかも無表情である。そこでセイラが、
「あなた達、ロッサムの町から後をつけて来ましたよね?」
そう言った瞬間、賊共の表情が僅かに変化した。
リシャールはロッサムの町で馬車に乗り込む際、セイラが後ろを気にしていた事を思い出した。
「しかも町を出る前、冒険者ギルドに寄ったら、私の事を嗅ぎ回っている人達がいるから注意しろと言われました。あなた達の事ですよね?」
今度は露骨に賊共の表情が変わった。
「もしかして、狙いはリシャール様じゃなく私ですか?」
賊共は相変わらず黙りだが、その表情が全てを物語っていた。




