王都へ
リシャールが目を開けた時、光の奔流は止まっていた。
「い、今のは一体・・・」
「あれだけの光が溢れるなんて聞いた事もない・・・」
リシャールとルクスが呆然としている側で、セイラだけがポカンとしていた。
「あの、どうしたんですか? 私、何か失敗しました?」
「い、いや、失敗とかじゃない・・・ですよね、神官様?」
「え、えぇ、と思いますが・・・セイラ、あなたは何ともないですか?」
「はい、特には」
「魔力がごっそり持って行かれたような感じとかは?」
「いえ、別に。あの、何があったんでしょうか?」
「目を開けていられない程の光が、あなたから放たれたんですよ。だから、一体どれだけの魔力が消費されたのか心配になったんです」
「へーそうだったんですか、目を閉じてたんで気付かなかったです」
事も無げにセイラが言うと、リシャールとルクスは思わず目を合わせて苦笑した。
「セイラ、取り敢えず作れるだけ魔力水を作って貰えませんか? 瓶はこちらに用意してあります」
ルクスはそう言って、何十本か瓶の入った箱を取り出した。
「ただし、魔力が枯渇してきたなって感じたら、すぐ止めること。良いですね、決して無理はしないこと」
「はい、分かりました」
「では殿下、我々はこちらに」
ルクスはリシャールを先程の待機所に誘った。席につくなりリシャールは、
「神官様、どう思われますか?」
「断言は出来ませんが・・・恐らく間違いないかと・・・」
「やっぱりそうですよね!?」
「落ち着いて下さい! まずはしっかり鑑定しないと」
勢い込むリシャールをルクスが慌てて宥める。
「そ、そうですよね、すいません」
「私には鑑定のスキルはありませんが、王都に行けば大神官様初め、鑑定スキル持ちが数人居ますから、彼らにちゃんと鑑定してもらいましょう」
「はい」
とはいえ、リシャールは喜びを隠し切れなかった。
セイラの放った神々しい光に身を包まれたあの瞬間、とても安らかな気持ちになって体が軽くなったように感じた。
あれが聖女の力じゃなくしてなんと言うのか! リシャールは一刻も早く王都に戻って鑑定しなくてはと思った。
「あの~」
リシャールが決意を顕にしていると、セイラがおずおずと顔を出した。
「どうしました、セイラ。魔力切れで気分が悪くなりましたか!?」
「あ、いいえ、ただお水が無くなっちゃいまして」
「まさか、あの量をもう終わらせてしまったんですか!?」
「はい」
2人が慌てて祭壇の間に戻ると、そこには数十本の瓶が並び、バケツの水は空になっていた。
「セイラ、気分が優れないとか、体がダルいとかの不調は本当に無いんですね?」
「はい、全く」
「そうですか・・・ご苦労様でした」
ルクスはフウっと一つため息をついて、
「殿下、こちらでも検証してみたいので、5、6本頂いてもよろしいでしょうか? 近くにアンデッドが出る洞窟があるので、効果の程を確かめられると思います」
「えぇ、もちろん。是非お願いします」
リシャールは所在無げにしているセイラに向かって、
「セイラ、申し訳無いけどこの後、王都まで一緒に行って貰えないだろうか?」
「王都へですか?」
「そうだ。君が魔力を込めてくれた水を王都で鑑定して貰うんだが、その時、是非君にも側に居て欲しい」
聖女と確定したら、そのまま囲い込む気満々である。
「ん~・・・」
セイラは少し考え込んだ後、妙案を思いついたようで、
「そうだ、それなら王都までの護衛をリシャール様が依頼して、それを私が受けたっていう形にしてくれません?」
「なるほど、構わないよ。ギルドに対しては後申告で良いかな?」
「はい」
聖女と確定したら・・・以下略
◆◆◆◆◆
旅の支度をするため一旦分かれた両者は、町の入口で合流した。
「準備は良いかい?」
「はい、大丈夫です」
レザーアーマーに皮のブーツ、弓矢を装備したセイラの冒険者スタイルを初めて見たリシャールは、
「そういう格好も似合うね」
「ありがとうございます」
ちょっとはにかんだセイラがリシャールと共に馬車へ乗り込もうとした時、ハッと振り向いて後ろの方に厳しい視線を向けた。
「どうした?」
「・・・いえ、別に」
「? じゃ行こうか」
「はい」
馬車に乗り込んでからセイラは、物珍しそうにキョロキョロ辺りを見回していた。
「王都に行くのは初めて?」
「いえ、護衛任務で何度か。馬車で行くのは初めてですが」
「あぁ、護衛だと馬に乗るもんね」
そう言ってリシャールは、自身の護衛2人が馬に乗っている姿を眺めた。
「・・・護衛が2人で大丈夫でしょうか?」
セイラが不安そうに口にする。
「ここに来る時も何もなかったよ、問題無いんじゃないかな。この辺りは盗賊も魔獣も出ないし、物騒な所じゃないと思うけど?」
「・・・だと良いんですが」
低い呟いたセイラの言葉は、リシャールの耳に届かなかった。
ロッサムの町を出て約3時間、馬が疲れて来たので、小休止を挟もうと街道脇に馬車を止めた時だった。
先に馬車を降りて、護衛の2人と辺りを警戒していたセイラが、素早く戻って来て告げた。
「リシャール様、囲まれています」
「なんだって!?」
リシャールが急いで周りに目を向けると、馬車の進行方向から5人、逆方向からも5人の賊が近付いて来るのが見えた。




