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第88話 勇者物語

 昼3時過ぎ


 見回りを終えてその後もサラと一緒に頑張っていると


「交代に来ました」


 俺たちと入れ替わりの人たちがやってきた。


「ありがとうございます、後はよろしくお願いします」


 屋台を任せると、俺とサラがステージの方へ向かった。


「緊張してくるな」


「はい、心臓が飛び出しそうです」


 いよいよ子供たちとの劇が近づいてきた。


 劇をやるのは小学生以来だから、15年ぶりぐらいかな。


 ステージの脇に行くと子供たちはみんな揃っていた。


「みんな準備は出来てるぞ」


 レイが俺たちにそういった。


 レイは俺たちよりも先にここにきてみんなに衣装の魔法をかけてくれていた。


 おかげでみんな派手な格好をしている。


「ありがとう。俺たちにもかけてくれ」


「分かったぞ」


 レイが腕を振ると俺もサラも悪者の格好になる。


 サラの衣装なんか子供たちが初めて見たとき半泣きだったもんな。


 とにかくこれで後は舞台の上に立つだけだ。


 広場の中央に設置したステージは自由に開放していたので、村のパフォーマンス好きな人たちが音楽やダンスを披露していたので会場は盛り上がっていた。


 最初の決まりとして劇の時間帯だけは開けてもらうことになっていたので、時間くれば俺たちの番になる。


「緊張しているのか?」


 俺が横に目を向けるとクレアが少し震えていた。


「うまくいかなかったらどうしよう……」


 クレアが怯えている。


「安心しろ、あれだけ一生懸命頑張ってたじゃないか」


 誰よりもセリフも動きも覚えて繰り返し練習をしていた。


「自分を信じるんだ」


「うん、リュウおじちゃん。がんばる」


 クレアがグッと拳を握りしめた。覚悟を決めたみたいだね。



 ーーーーー



 そして、とうとう俺たちの番になった。


 時間になったので演奏していた人たちがはけて舞台が空く。


「えー、皆さん集まっていただいてありがとうございます」


 今まで舞台を見ていた観客や子供たちの親が見に来ている。


 流石に異世界だからかビデオカメラを持っているような人はいないけどね。


「子供たちと一緒に劇を作りました。みんな一生懸命に練習したので是非見ていってください」


 俺が頭を下げると拍手が起こる。


 俺は舞台の下手の方へとはけていった。


「よし、はじめよう」


 俺はナレーター係に声を掛ける。


 女の子は俺の合図で飛び出していった。


「これからゆうしゃのおはなしをはじめます。むかしむかしあるところおじいさんとおばあさんがすんでいました。おじいさんはやまへしばかりに、おばあさんはかわにせんたくにいきました」


 うん、出だしは順調だ。


 ナレーターが舞台から降りると、そのタイミングでレイが魔法をかけた。


 舞台の上に本物の川が出来上がる。


 お客さんから驚きの声が上がった。


「きょうもせんたくものをかわかすわよー」


 おばあちゃん役の子が実際に作り出された川の上で布をゴシゴシとする。


 その作業をしているところに魔法で作られた大きな桃が流れてくる。


 それを持ち帰ったところで場面が転換していった。



 その後は、立派に成長した勇者が無事に冒険に出るところまで話がすすむ。


「このあたりにレインドラゴンがいるはずだけど」


 勇者役のカーセが辺りを見渡すセリフを言う。


 レイの登場するシーンになった。


 レイがステージに乗るサイズのドラゴンに変身して上空から舞い降りる。


「貴様が勇者を名乗る男か」


 ミニチュアドラゴンがしゃべりだす。


「レインドラゴン、いっしょにまおうをたおさないか?」


「断る。どうせ魔王には勝てぬ」


「そんなことはない。いっしょにたたかえばたおせる」


「ふっ、ならばお前らの力を見せてみろ」


 ここから戦闘シーンへと移行する。


 レイがミニサイズのウォーターボールを勇者のパーティー4人に向かって放った。


 勇者は剣で、それ以外の人たちも各々の武器で攻撃を受け止める。


 これも、はたから見れば子供たちが防御しているわけだが厳密には少し違う。


 ウォーターボールが子供たちの武器に触れたと同時にレイが自分で消滅させているのだ。


 子供たちはまだスキルが使えないからね、防ぐことも自分ではできない。


 また、子供たちが自分で魔法攻撃をするときもレイが自分に向けて魔法を放っている。


 本当にレイが器用にやってくれてるよ。


 それに、子供たちも戦いの型を覚えているから本当に魔法を使ってるように見えているわけだし、練習の成果が出ているなと思う。



「くっ、参った」


 見ごたえのある戦闘シーンを終えてセリフのシーンに入った。


「本当にお前達なら魔王を倒せるかもしれぬな。よし、仲間になってやろう」


 こうして、レインドラゴンも勇者の仲間になった。


 そして、ついに魔王の元へとたどり着く。


 下手から登場したクレア勇者の前に、上手側から現れたサラ魔王とリュウ部下が立ちはだかる。


「ハーッハッハッハー!よーく、来たな!」


 サラが高笑いをする。衣装と相まって冷酷な感じがすごい出ている。


 練習の成果があったな。


「お前達!俺様の部下たちを随分と倒してくれたそうじゃないか。それにそこにいるのはレインドラゴンか?お前までそんな奴の味方をするとはな」


「おれたちは、おまえたちにたくさんくるしめられてきた」


「ふん、貴様らが弱いのが悪いのだ。強い俺様が正義。ただそれだけだ」


「そんなことはない、よわくてもちからをあわせるからつよいんだ」


「それならば証明してみるがいい。お前らの強さを!!」


 サラ魔王のセリフを皮切りに俺たちは戦いを始めた。


 勇者パーティーの3人は部下である俺と、勇者とレインドラゴンが魔王と戦う。


 これもレイの魔法のおかげで大分派手な戦闘になった。


 クライマックスシーンだからな。練習も一番頑張ったところだ。


「ま、魔王様!!!」


 部下の俺は先に負けて舞台からはける。


 後は、魔王に押されていたレインドラゴンと勇者の元に、残りのパーティーのメンバーが加勢する。


 そしてついに


「おのれ勇者め!!貴様の事は絶対に忘れぬぞ!!!」


「これでとどめだ!」


 最後は勇者の剣の一撃で魔王が倒れた。



「こうして、このせかいにへいわがおとずれました。めでたしめでたし」


 こうして、子供たちの勇者物語はスタンディングオベーションで幕を閉じた。

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