第87話 楽しい縁日
俺たちの準備した縁日はレイの合図で始まった。
事前に打ち合わせ通り、最初のシフトの人がそれぞれ持ち場につく。
俺もサラと一緒に最初チーズ焼きの担当に入った。
「お、リュウじゃないか!」
村の1人のおじさんが俺の屋台に来てくれた。
「ナットさん、こんにちは。食べていきますか?」
「よし、食べていこう!今日は無料と聞いているからな、食べさせてもらうよ」
ナットさんが元気よく答えてくれる。
「ありがとうございます!少し待っててくださいね」
早速この日最初のチーズ焼きづくりを始めた。
いつものように生地を混ぜて、丸い型に流し込んでいく。
「ほぉ、こりゃ見たことのない形の料理だな」
ナットさんが興味深そうにのぞき込んでくる。
注目されてると緊張するな。
生地を追加して、ひっくり返すことに成功したら後は完成を待つだけだ。
完成したチーズ焼きの上にサラがマヨネーズとソースをかけていく。
「お待たせしました!」
サラが笑顔でナットさんにチーズ焼きを手渡した。
「サラちゃんもありがとうな!それじゃあ頂くよ」
「熱いので気を付けてくださいね」
ナットさんが息でチーズ焼きを冷ましてからパクッと口の中にたこ焼きを放り込む。
「熱っ!……こりゃあうめぇな!」
ナットさんが口をハフハフさせる。やっぱり熱いよね。
「チーズと上にかかってるものの相性が最高だよ!こりゃあ酒が飲みたくなるね!」
「あっちにお酒も準備してますよ」
「なに!本当か!?」
ナットさんがめちゃくちゃ食いついてきた。
今回は祭りということでお酒も準備することになった。
サート商会としてはお酒を販売するのは今回が初めてだ。
瓶ビールとワインを氷水の中に入れて欲しい人に配る形をとることにする。
ちなみに氷はレイに用意してもらった。水の温度を調節すれば氷は作れるんだってさ。
流石最強のドラゴンだよ。
「何!?本当か!?こうしちゃおれん!取りに行ってくる!ごちそうさん!」
ナットさんがチーズ焼きを持ったまま酒の方に走っていった。
やっぱり酒の力はすごいね。
「この調子で続けていこう」
こうして俺たちはどんどんチーズ焼きを作って配っていった。
みんな喜んでくれるから、こっちとしても頑張ったかいがあるよ。
ーーーーー
祭りが始まって2時間ほど経過した。
「少し見回りに行ってくる」
「了解です!行ってらっしゃい」
サラに店を任せて俺は見回りに出かけた。
見ている感じ、他の屋台も繁盛してるみたいだ。
今回、俺たちの用意した屋台はチーズ焼き、お好み焼き、射的、スーパーボールすくい、酒だ。
ただ、それ以外にも村の人たちが自らやりたいと言っていたものもあったので食材を提供する形でやってもらっている。
出されているのはこの村の郷土料理だ。このような祭りの場ではよく食べられているらしい。
シフトが終わったら食べにいこう。
ちなみにだが、レイはカレーの屋台をやりたいと言い出していたので、今は1人でカレーの屋台を出している。
気になったのでレイの屋台に向かってみることにした。
「レイ、これはどういうことだ?」
「ん?どうしたのじゃ?」
見回りにいったら、レイのカレーを食べた村の人たち屋台の前で悶えていた。
「お前何か変なもの入れてないよな?」
俺が教えたレシピじゃこうはならないはずだ。
「そんなもの入れるわけなかろう。少しばかり辛くしただけじゃ」
なるほど、辛くしたのか。
「お主も味見してみるか?」
レイが少しだけルーをよそってくれた。
スプーンで一口食べてみる。
「かっっっら!!!!」
あまりの辛さにせき込みそうになった。辛いものはそこそこ得意だが、それを上回る味だ。
「こんなんじゃ食べられないだろ!」
俺がレイに怒ると。
「何言っておる。周りをよく見るのじゃ」
そう言われて見てみると
「辛い、辛い、辛い!!!!でもやめられない!!」
「ぐあぁ水!水!そして回復したらもう一口!ぐあぁぁ」
村の屈強な男たちが叫びながらも食べるのを止めない。
あー、辛さに取りつかれてるんだな。
一定数の需要はあるってことだろう。
「それならまあいいか。そのかわり、子供たちには絶対に食べさせるなよ」
「分かっておるわ」
これは子供たちにはあげちゃいけない辛さだからね。
次に魔女の杖の人たちがやっているお好み焼き屋へと向かった。
「すっごい人だな」
他の屋台よりも客の数が多い。
特に若い人が多いな。
「きゃー!料理してるダミアン様かわいい!!!」
「ロンド様もかっこいい!」
2人の作業している姿を見て黄色い声を上げている。
「ユフィ様が神々しすぎる。あんな方からお好み焼きを受け取れるなんて!!」
「アミルちゃんも明るくてかわいいな!」
女性陣2人も人気なようだ。
……いいなぁ。俺もあんな風にちやほやされたいよ。
俺だけじゃなくて、近くにある別の屋台担当の人たちも妬ましそうに見ている。
客を取られてご機嫌ななめなようだ。ちなみにバイト代は時給制にしてるから、売り上げは関係ない。
となると、単純に悔しいんだろうな。
(おい!リュウ!僕たちの屋台だけ忙しくないか?何とかしてくれ!)
ダミアンさんが俺を見つけてそんな風に目で訴えてくる。
俺は頑張れとジェスチャーをしたあと、何の対策もせずに立ち去った。
はいはい、どうせ俺は心の小さい男だよ。




