第86話 水龍祭
今回は少し短めのお話となります
正午になると、ジャスティン様が広場の中央に設置したステージの壇上に上がった。
「村のみんな、今日は集まってくれてありがとう」
手元にマイクのようなものをもっていて、しゃべった声が大きくなって聞こえる。
多分だけど、魔道具の一種かな。
ジャスティン様の声で村の人々に歓声が上がった。
「先月、この村は水害に襲われた。けれども、助けに来てくれた魔女の杖やサート商会の人々のおかげで村はもとに戻ってきた」
ここで、ジャスティン様が一呼吸置く。村の人たちは静かになって領主の言葉に耳を傾ける。
「しかし、この水害があったから巡り合えたお方もいる。そのお方が我らが村に素晴らしいものを与えてくださることになった。改めてご紹介したい。レインドラゴンのレイ様だ!」
ジャスティン様が左手を天に掲げた。
みんなが息をのんでその光景を見守る。
おかげで、物音一つ聞こえない。
数秒沈黙が続いたその時
森の方から大きなドラゴンの咆哮が聞こえてきた。
それと同時にレイがドラゴンの姿でステージの上空に現れた。
相変わらず綺麗な青色だ。
そして、いつものように空中で人の姿に変身して……
「あれ!?なんかいつもと違くないか?」
俺は違和感を感じて隣にいたサラに聞いてみる。
「確かに……大きいですよね?」
まだ上空にいて分かりにくいが、いつもよりレイが大きい気がする。
そして、レイがゆっくりとジャスティン様とその横に並んでいるルナさんの目の前に舞い降りた。
そこにいた人全員がレイに目を奪われる。
いつもの幼女フォルムと違い、今回は20代の女の人の姿になっていた。
立派すぎるほど可憐に成長したレイと言うのが正しいかな。
青い髪の毛も地面に届きそうなくらい真っすぐに伸びていた。
着ている服ももちろんサイズアップしているし、何より人間サイズに縮小されたドラゴンの翼が映えている。
そして、自分の頭の上には小さな水球を5つ、王冠のように浮遊させいる。しかも一つ一つが虹色に輝いているから見ていてとてもきれいだ。
「マイマイ村の者共よ、妾がレインドラゴンである」
集まっていた人々に向かってレイが挨拶をする。
今までのレイの声よりもずっと、威厳のあるキリッとした声だ。
レイの声を聞いてザワザワしていた村の人たち静かになった。
「妾がシュッツガルドの森に住み始めたことで、最初村の者どもに大きな迷惑をかけた。本当にすまぬ」
レイが頭を下げる。
「今後は気を付ける故、もう二度とこのようなことは起こさないから安心して欲しい。そして、今後住んでいく上でよき隣人となるために、今回は友好の証を村に授けたい」
そういうと、レイがマジックボックスから日本刀を取り出した。
そして、さやから取り出して天に掲げる。
「勇者の剣じゃ!」
みんなが歓声を上げる。
村の人たちにはこれがお披露目だからな。
「スゲー!かっこいい!」
村の子供たちもキラキラとした目で見ている。
憧れるよな。
みんながしっかりと見た後、レイは剣を鞘に戻した。
「領主ジャスティンよ、この剣を受け取ってくれるか?」
レイが右手で剣を持って刀を前に差し出す。
ジャスティン様はレイの目の前に立ち、跪いた。
「有難く頂戴いたします。今後このマイマイ村に永久のご加護を賜りたく存じます」
そういってジャスティン様は両手で勇者の剣を受け取った。
その瞬間人々からこの日一番の歓声が上がった。
みんなレイの事を受け入れてくれたみたいだ。
「受け取ってくれたことをありがたく思う。そして、今日は友好を祝って祭りの場を用意させてもらった」
ここでレイがいつもの幼女の姿に戻った。
「皆の者!共に楽しむのじゃ!!!!!」
その声でこの日一番の盛り上がりを見せた。
「サラ、ここからが俺たちの番だ」
この光景を見ていた俺は静かにやる気を出す。
「はい、サート商会の底力をマイマイ村の人たちに見せつけましょう!」
いよいよ縁日の始まりだ。
最近かなり暑くなってまいりました。
皆様も熱中症には十分にお気を付けください。




