第82話 大根が見つかりました
食料の配達と同時に子供たちに台本を配って回った。
「わー!ありがとう!!」
クレアに台本を渡すとめちゃくちゃ喜んでくれた。
「今度集まって練習するから自分のセリフはしっかり覚えるんだぞ」
ちなみに、少なくともソルーン領の子供たちは文字の読み書きはクレアぐらいの年なら大体できる。
一週間に1、2回村の学校に行って勉強してるらしい。
他の国ではそういうことをやっていないところもあるみたいだから、そういう意味ではセレド様がしっかり考えてやってるってことだよな。
あと、この世界の言語はアルファベットを少し複雑にしたみたいな記号をつかって文字を書く。
だから子供でも覚えなきゃいけない文字数はそれほど多くはない。
そう考えると日本語って大変だったな。ひらがな、カタカナ、漢字って覚えることてんこ盛りだ。
よく覚えたと思うよ、子供の頃の俺。
ーーーーー
3日後、子供たち&サラ&レイは広場に集まった。
「みんな、台本読んできた?」
「「はーい!」」
子供たちから元気な返事が返ってくる。
「えー、これからセリフ合わせをしたいなと思います」
まず最初は一通り全員で台本を読みながら流れを確認する。
「今は確認だから演技はしなくて大丈夫だよ。よし、それじゃあナレーターの人からやっていこう」
「むかーし、むかし。とあるところにおじいちゃんとおばあちゃんがすんでいました」
一人の女の子がナレーションを始める。
「おじいちゃんがやまへしばきに、おばあちゃんがかわにせんたくにいきました」
惜しい。しばきに行くと急に物語が物騒になる。
あとで教えておこう。
その後も多少の間違いがあれど、順調に進んで行った。
みんな元気よく声を出してくれるから微笑ましい。
「よし、みんな上手だったぞ」
読み合わせが終わった段階でみんなを褒める。初めてにしてはみんなしっかりとセリフの順番とかも分かってたし、幸先がいい。
「じゃあ次は気持ちを込めて言ってみよう」
2週目から少しずつ演技を入れていく。
「むかーし、むかし……」
再びナレーションから読み始めた。
みんな、怒ったり嬉しいときは大きな声で、悲しいときは小さい声でとしっかり声に強弱を入れてきていた。
すごい、才能がある。親バカみたいな感覚かもしれないけどそんな風に感じる。
物語も終盤になり、魔王役のサラが登場するシーンになった。
「わーっはっははっはははー!!よーく、来ったな!!」
「一回やめてやめて」
俺は思わずサラのセリフを止める。
「リュウさんどうかしました?」
サラが不思議そうに俺の顔を見る。
「なんか発音おかしくないか?」
最初のときは普通に読み上げるだけだったから気付かなかったけど、イントネーションが変だ。
普通わーっはっははっはははー!!とはならないし、来ったなとか、ちっちゃい「っ」はそんなところには入らない。
それに声のトーンがラスボスじゃなくて友達が来るのを待ってた小学生なんだよな。
「そうですか?気のせいだと思いますよ」
「……そうか、俺の気のせいだったかな。続けてくれ」
確かに聞き間違いだったかもしれない。
「おまえーたち!わたーしの部下たちをずいぶーんと倒してくれたそうじゃないーか」
「はい!ストップ!」
「なんですか?いちいち止めるのやめてください!」
サラが怒り始める。
「いや、こっちだって止めたくはないんだけどさ」
衝撃の事実が分かった、サラは大根役者だ。
それもただ棒読みになるだけならまだしも、イントネーションが変につくからこっちが噴き出しそうになるのを堪えるのがやっとだ。
子供たちの演技に比べても100倍酷い。ある意味で主演を食いそうな勢いだ。
「自分で言ってて変だって思わない?」
ここまで変な喋り方だったら自分で気づくと思うんだけど。
「全然思いませんよ。それに昨日ダミアンさんに見てもらいましたけど、全然大丈夫だって口元抑えながら言ってました」
あー、自覚症状はないんだろうな。音痴の人も自分が音痴っていうこと気付かないって言うし近いのかも。
それに自慢げに言ってくるけど、絶対にダミアンさん笑うの我慢してるんだよな。
最近仕事が優秀だったから、なりを潜めてたけど、サラのポンコツぶりが久しぶりに発揮されてるように感じる。
「サラおねえちゃんまじめにやって!」
クレアがほっぺたを膨らませながら怒る。
「真面目にやってるよクレアちゃん?」
なんで怒られているのか分からないとサラが困惑する。
困ったな。改善できればいいんだけどこの調子だと代役に交代してもらわなきゃいけない可能性が出てくる。
でも代役ってなると子供たちの負担も増えるし、今変えたほうがいいのかな?
そう思ってたその時
「サラおねえちゃんみてて」
突然エレンがサラの前に立った。




