第80話 劇の配役
みんなから聞いた話をもとに、劇のプロットを考えてみた。
まずはおじいさんが桃を川から拾ってきて、家で割ったら勇者が生まれる。
ここまではおとぎ話の桃太郎と一緒だ。
そのあと、パーティーのメンバーのうち2人は村の友達。
もう1人は魔王の住む魔王城に行く途中に助けた王子様という設定だ。
「で、そのあと五大竜と戦うって流れでいいんだよね?」
五大竜全部と戦うと尺的な問題が発生するから、今回はレインドラゴン一体が仲間になるという話に作り変えることにした。
その後仲間になったレインドラゴンと共に魔王を倒すというお話になった。
「よし、この話の流れで配役を決めていこう」
いつも俺が一緒に遊ぶ子供たちは、数えてみると25人だった。
大体みんな5、6歳ぐらいってところかな。
それ以上の子は学校があったりして会う機会が少ないって言うのもあるな。
「あたしゆうしゃやりたい!」
クレアが立候補した。
「おれ!おれがゆうしゃやるぞ!」
カーセも立候補する。
「いやだ!あたしがやるんだから!」
「そんなのずるいぞ!おれがやるんだ!」
お互い譲らないな。
「なによ!カーセよりあたしのほうがつよいんだからね!」
「ふん、いつもてかげんしてるだけだよ!」
あーあ、ケンカになって来ちゃった。
「はいはい、2人ともやめて」
せっかく楽しく劇をやろうと思ったのにケンカになっては意味がない。
「そしたら、2人とも勇者をやるのはどうかな?」
主役の勇者はセリフも多くなるし、1人の子供がやり通すにはちょっと大変だ。
だから、レインドラゴンと仲良くなるところまでで話を分けて、2人で分担してもらうことにした。
「それでいい?」
納得してもらえないのなら他に案を考えないと。
「ゆうしゃができるならそれでいいよ!」
「おれも!」
2人ともそれで大丈夫みたいだ。
ほかの勇者メンバーも前後半制で交代することになった。
これで8人の配役は決まったな。
「あの……」
ここでとある男の子が手を上げた。
名前はエレンだったかな。いつも少し眠そうにしている穏やかな子だ。
「エレンくんどうしたの?何かやりたい役があるのかな?」
立候補は積極的に受け入れよう。
「木がやりたい」
エレンが小さな声で言った。
「……木?」
よく幼稚園の劇で木役ってあるけど、あれって立候補するような役だっけ?
よくじゃんけんで負けた子とかがやる役だし、かわいそうだから今回作る予定もなかった。
「なんでやりたいのかな?」
何かわけがあるはずだ。
「せかいをえんじたい」
……理由が深すぎるな。というかさっぱり分からん。
とても4歳児の発言とは思えない。
これは予感でしかないが将来世界的な役者になったりするんじゃないか?
「セリフあまりないかもしれないけどいいのかな?」
一応そこだけ確認する。
「だいじょうぶ。なくていい。かおでえんぎする」
……期待しよう。
ーーーーー
「次はレインドラゴンだ」
ここも重要な役だな。
「はいはい!」
クレアが手を上げた。
「クレア、1人で二役は出来ないよ」
それは不公平だからね。
「ちがうよ、レインドラゴンをね、レイちゃんにやってほしいの!レイちゃんドラゴンさんなんでしょ!」
クレアから提案があった。ここはご本人が適任かな。
「みんなもそれでいいかな?」
みんな首を縦に振る。
「レイもそれでいい?」
一応レイにも確認を取る。
「フフフ……容易いことよ」
レイがドヤ顔で返事した。やる気みたいだ。
「やったーー!レイちゃんのドラゴンさんみたい!」
クレアがそんな希望を言ってきた。
他のみんなも目をキラキラさせる。
「いいじゃろう。妾の真の姿をみせよう!」
ノリノリのレイが広場の中央の方へと走り始めた。
走りながら徐々に体が大きくなって背中に羽も生えていく。
そして竜の完全体になったところでくるっとこっちに向いた。
同時にレイの上付近に霧が立ち込める。
さらに後ろにあった太陽の光で虹が現れた。うまいことレイが映えるアングルになっている。
あいつ計算して向こうに走ったな。
「きゃー!かわいい!!」
「ちがうぞ!カッコいいだぞ!」
子供たちが歓声を上げる。
「そうじゃろ、そうじゃろ。フハハハハ!」
あかん、レイも完全に調子乗ってるわ。
その後はレイが何個も虹を出すもんだから子供たちが劇そっちのけで遊び始めた。
どうするんだよこれ。
ーーーーー
「……あとは魔王だな」
みんなの虹遊びが終わった後、再び役決めに戻った。
みんなが希望を言っていったら魔王が残ってしまった。
悪者は残りやすいのかな。
「しょうがない、ここは俺が魔王を……」
「おれ、サラおねえちゃんにやってほしいぞ!」
カーセから推薦が入った。
みんなも賛成してる。
「わかった。サラに聞いてみるよ」
俺がそう答えると子供たちは大喜びだった。
やっぱりサラの方が人気みたいだ。
まあしょうがないな。
ちなみに俺はクレアの推薦で魔王の部下その3という完全モブの立場になった。
……見てろ。主役を食うぐらいの名演技をしてやるからな。




