第74話 アミルさんの暴走
屋敷の中へ戻ると一眠りし終わった魔女の杖の人たちとばったり会った。
「レインドラゴンはどこに行った?魔力の反応もなくなったみたいだが」
ロンドさんが聞いてきた。
「レイなら帰りましたよ」
魔女の杖の人たちが眠っていた間のことを説明する。
「勇者の剣をくれただって!?!?」
剣の話になったところでアミルさんが大きな声を出した。
「勇者はね、成長していく過程で剣を変えていったから何本かあるんだよ」
言い伝えによると9本の剣を使ったらしい。
そのうちの1本をこの村にくれたということだ。
「ちなみに現在確認されている別の1本はエルランド王家の宝物庫にあるんだよ」
もちろん国宝中の国宝で一般の人はおろか、王家の人すら見ることが滅多に出来ない。
なぜ王家が持っているのかというと、勇者のパーティーが魔王を倒した後、そのメンバーの一人が建てた国がこのエルランド王国だからだ。
餞別として勇者からもらった剣を大事に受け継いでいるんだってさ。
他の剣のうち、2本は別のところにあって、残る5本は所在が分からないみたいだ。
「アミルさんって詳しいんですね」
「当たり前だよ、剣士をやってる人なら誰だって夢見るよ!」
アミルさんが熱弁する。
熱心に説明してくれるのはありがたいんだけど、ちょっと顔が近いかな。
「おっほん!」
サラが大きめの咳をついた。
「あ、ごめん」
正気に戻ったのかアミルさんが離れてくれた。サラのおかげで助かったよ。
「せっかく近くにあるのですから見てきたらどうですか」
「うん、見てくるよ!」
サラの提案を聞いてアミルさんがジャスティン様のところへ駆け出していった。
「まったく、あいつはすぐに勝手に行動するからなぁ」
ダミアンさんがぼやいていた。
何か気になることを見つけるとお構いなく突っ走るらしい。
確かにちょっと困るかもね。
「話を戻しますと、ジャスティン様はその剣をもらう儀式をやるみたいです」
それに伴って縁日を計画することも伝えた。
「いいね!それは面白そうだ」
ダミアンさんも興味を示してくれた。
「ちなみに、ロンドさん達はいつまでここにいられるんですか?」
今回のクエストの目的は達成できてるはずだからね。
「レインドラゴンの方の調査は終わったが、俺たちには村の復興を手伝うという依頼も残されているからな」
だから祭りが終わるくらいまではこの場に残ることが出来るみたいだ。
「ただ、一度ギルドに報告しに行く必要がありますの」
確かにソルーンの町に何も伝えないってわけには行かないからね。
「問題は誰が行くかだけど……」
「アミルだな」
「アミルでいいですの」
ロンドさんとユフィさんが速攻でアミルさんを指名する。
「うん。僕もアミルでいいと思うな、あいつ足速いし。それにあいつ何か仕事与えないと勇者の剣の前離れないぞ」
ダミアンさんもその意見に賛成したから、本人がいない場で決定してしまった。
ーーーーー
魔女の杖の人たちがクエストについてジャスティン様に報告しに行くということだったので、俺たちもついていくことにした。
ロンドさん達の後に続いて部屋に入ると
「うわー!!これが勇者の剣!ねえ!触っていい?触っていい?」
「ダメです」
「そこを……そこを何とか!!!!!」
ジャスティン様とアミルさんが部屋の中で言い合っていた。
まあ、話している内容から大体想像がつくけどな。
「お願い!ちょっと、ちょっとでいいから!」
アミルさんが懇願する。
「アミル。みっともないですの」
ユフィさんがたしなめる。
「そうだ、俺たちはSランク冒険者だ。その誇りを忘れるな」
ロンドさんからも説教を食らう。
「はぁい」
アミルさんが渋々謝った。
「まったく、この前の森でアナコブラを倒そうと……」
「ダミアンは黙ってて」
ダミアンさんの愚痴は遮られてしまった。
「はいはい。そうだ。ジャスティン様にご報告があって来ました」
ダミアンさんが儀式まではこの村に残ること、1人はギルドに報告しに行くことをジャスティン様に伝えた。
「了解しました。色々とありがとうございます」
ジャスティン様が頭を下げる。
「よし!ギルドに行く人じゃんけん!最初は……」
アミルさんがグーの手を他の3人の前に出そうとしたその瞬間、ダミアンさんがアミルさんの手首をガッチリと掴んだ。
「まさか誰が行くか、これから決めようって言うんじゃないだろうね」
半ギレのダミアンさんがアミルさんを睨む。
「いや、その……」
アミルさんがロンドさんとユフィさんに目で助けてと訴える。
「アミルが行け」
「アミルが行くですの」
うん、2人にも突き放されたね。
「そんな……うちはこのままここで勇者の剣をずっと見てるんだから!!!」
アミルさんが駄々をこね始めた。ダミアンさんの予想通りの展開だ。
そんな子供じゃないんだからワガママが通じるはずもない。
結局3人の圧に負けてアミルさんが行くことに決定した。
好きなこともほどほどにしないとね。




