第67話 竜の契約
遥か昔、世界は魔王によって支配されていた。
人々は苦しみ、畑は荒れ、生きる希望を見失っていた。
そんな中現れたのが勇者だ。
勇者はパーティーを組み、世界を救う旅に出た。
その途中で出会ったのは五大竜と呼ばれる強力なドラゴンたち。
勇者は激しい戦闘の末ドラゴンたちと和解し、共に魔王と戦う約束をした。
そして勇者パーティーは五大竜や味方と共に魔王やその部下たちを討ち果たした。
これがこの世界に伝わる勇者伝説だ。
この前子供たちとサラの授業で聞いた話だな。
「実はこの神話には他にこのような言い伝えがあります」
サラが説明を続ける。
サラによるとこの伝説は竜の契約の起源でもあるとのことだ。
勇者とドラゴンがともに魔王を倒すときに結んだ契約が竜の契約で、ドラゴンとの友好の証となっている。
ただ、それ以後五大竜が契約を結んだ人間は現れていないらしい。
かつて竜の契約を結ぶために自らの財産を全てなげうった王様もいたけど、見向きもされなかったという笑い話まで伝わっているそうだ。
「つまりそれだけすごい契約ってことであってるかな」
「はい」
うん、話はよく分かった。
たださ、聞けば聞くほどおかしいなって思うんだよね。
そんな大事な契約をカレーを食べたいがために結ぶってどうなのかな。
なんか神聖なものを穢しているような気分になるのは俺だけだろうか。
勇者が命懸けで掴んだ契約を俺はカレーって。
まあ断る理由もないから結ぶけどさ。
「分かった。この話は受けることにするよ」
今何かをしてほしいわけじゃないけど、絶対将来の助けにはなるはずだ。
俺とサラは部屋に戻った。
「了解しました。お受けしたいと思います」
レイ様に俺たちの答えを伝える。
「やったのじゃ!これで沢山食べられるのじゃ!」
レイ様がガッツポーズをして喜んだ。
なんか子供が好きなおもちゃを買ってもらって喜んでいるようにしか見えないな。
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ここからの話は俺とサラとレイ様での話し合いにした方が都合が良さそうだから、ジャスティン様とルナさんには退席してもらった。
「さっそく契約を結ぼうかの。リュウ、右手を前に出すのじゃ」
俺はレイ様の指示に従って右手をレイ様の前に出す。
それをレイ様が自身の右手で握り返した。
そして目をつぶると何やら呪文を唱え始める。
呪文を言い終えると、俺とレイ様が握手している手の間から青い光が漏れてきた。
何本もの光が入り混じり、俺とレイ様の腕に絡んでいく。
最後に一瞬2人の体全身が光ったあとで、レイ様が手を離した。
「これで契約は結ばれたぞ。右腕を見るのじゃ」
レイ様に言われて自身の右腕を見てみると、上腕部分に小さくて青いドラゴンの紋章があった。
これが契約の証かな。
「これでリュウと妾は友達じゃ。もし妾が必要になったら心の中で妾の名前を呼ぶがいい。すぐに駆けつけるぞ」
最強の竜の1体が助けてくれるのは心強いな。
「逆に妾がカレーが欲しくなったらお前の心に呼び掛けるからそのつもりでな」
うん、一気に神聖さがなくなるよね。
あと、俺の寝ているときは止めて欲しいかな。びっくりするし。
「そうだ、レイ様に屋台を1台渡しますね」
「もう友達なのじゃ、レイと呼ぶがいい。それに敬語もいらぬぞ」
「わ、分かりました」
慣れないけど頑張ろう。
レイは俺のいるところに取りに来るって言ってたけど、もしソルーンの街中にレイがドラゴンの姿で現れたら騒ぎになる予感しかしない。
だからあらかじめ屋台を渡しておけば、そのようなトラブルは回避できるはずだ。
俺はレイに屋台の収納魔法の使い方を説明した。
「他人と共有可のアイテムボックス。変わったスキルを持っておるのじゃな」
レイが感心する。
「そうか!これで森にいながらカレーが食べられるのじゃな!」
そのことに気付いたレイがご機嫌になった。どこまでも食い意地を張る人だな。
こうして竜の契約を結ぶことになった。
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その後レイは一度寝床に戻って村の人に渡すものを考えるということだったので、今日は帰ると言い出した。
「それじゃあまた明日も来るぞ!」
レイは広場で元の姿に戻ると森の方へと飛び去って行った。
「はぁ、人生で一番緊張した……」
ジャスティン様がレイ様の姿が見えなくなったところでぼやき始めた。
まあ、王様に会うよりもはるかに大変だろうな。
「でも、これで村も元通りになって、何よりレイ様と繋がりを持つことが出来た。これは歴史にも名を残せるぞ」
ジャスティン様が満足そうに言う。
領主としては村の事が一番気がかりだったと思うし、うまく行って本当に良かったと思うよ。
ジャスティン様は今日レイとした話を村人たちに伝えに行くということだったので広場で別れた。
村人たちもびっくりしていたはずだからね。早く真実を知りたいだろう。
それにしてもレイはどんなものを村に渡すのかな。気になるな。




