番外編 レインドラゴンの調査 その2
後書きにて重要なお知らせがございます
僕たちはアミルを先頭にしながら水の匂いがするという方向へ移動する。
物音を立てないようにしながら歩いていると
突然木々が生い茂っていた場所が、澄んだ水が一面に広がる空間に様変わりした。
「湖だ」
やっぱり認識を阻害するような魔法がかかっていたのかな。
湖をよく見てみると、水底には倒された木々が散乱しているし魚も泳いでいない。
現段階では湖と言うよりは巨大な水たまりと言った方が近いかもしれないな。
(あれを見るですの)
ユフィが小声で指を指す。
目を細めて湖の中心を見てみると
「いた」
湖の中心は小高い丘になっていたのか水没せずに島になっていた。
その島の上に1体の青い竜がうずくまるようにして眠っている。
思わず見惚れてしまいそうになるほど美しい碧い鱗が太陽の光を乱反射している。
体長は見たところ10メートルほどで、ドラゴンとしては小さいサイズだ。
ただ、その体から自然と溢れてくる魔力量は常識を超えていた。
冒険者としてトップレベルの魔力をもつロンドでさえ足元にも及ばないぐらいだ。
うかつに近づかないほうがいい。
(居場所は分かった引き返すぞ)
ロンドが小声で指示を出す。僕たちの目的は居場所の調査だ。
あとはここの座標を報告すればクエスト達成になる。
あわよくば戦えたらとか思ってたけどそんなことは言っていられないね。
踵を返して元来た道を帰ろうと思ったその時、レインドラゴンと目が合ってしまった。
僕はレインドラゴンを刺激しないように動きを止める。
そのことを察した他のみんなも動きを合わせた。
お互いが牽制すること数秒、いや牽制だと思っていたのは僕たちだけだったかもしれない。
レインドラゴンが口を開いた瞬間、ブレスを打ってきた。
!!!!!!
僕はありったけの魔力を込めて飛んでくるブレスを操作する。
かろうじて僕たちより上に軌道を逸らすことに成功した。
飛んできたものが水だったからなんとかなったけど、それ以外のものだったら一発アウトだった。
僕たちの背中側にあった木々がはるか先まで吹き飛んでいることからもその威力は絶大だ。
「なんとか逸らすことは出来たけどそう何回もできないよ」
今のでそこそこ魔力を消費した。連発されると厳しい。
「……あいつ今欠伸をするようにブレスを打ってたぞ」
ロンドが衝撃の事実を口にする。
欠伸?まだ全力じゃないってことか?
圧倒的な戦力差に僕たちは絶望する。
「こうなったら隙を作って逃げるしかない。俺とアミルが近づいて攻撃を加える。ダミアン、足場は作れそうか?」
「無理、ここの水は上手く操れそうにない」
レインドラゴンのせいなのか、ここの水は普通の水と違って僕の言うことを聞いてくれないみたいだ。
「私が足場を作りますの。緑の道!!」
ユフィが種を蒔きながら呪文を唱えると、いくつものツタが絡み合いながら水面と平行に成長していく。
この上なら歩けそうだ。
「助かる。僕も2人についてレインドラゴンに近づく。攻撃は僕が防ぐから2人は突っ込んでくれ」
ロンドとアミルが頷く。みんなでいくつもの死線は乗り越えてきたからな。
今回も成功させよう。
僕たちは一斉にレインドラゴンに向かって走り出した。
的を絞らせないように3人が散り散りになりながら走る。
「付加 風!!」
最も早くレインドラゴンに到達したアミルが風属性を付与した剣で斬撃を加える。
しかし、その攻撃は固い鱗に阻まれてしまった。
効かないと分かっていてもアミルは攻撃を続ける。ドラゴンの注意を逸らすことに繋がるからだ。
アミルに気を取られながらも、レインドラゴンは俺やロンドにはブレスで攻撃をしてくる。
「当てさせないよ!」
僕はすべて飛んできたすべての攻撃の軌道を逸らしてロンドの進む道を作る。
ロンドも俺の事を信頼してスピードを緩めずにドラゴンに突っ込んでいく。
「海神の槍!!!」
僕は背中にあった水筒の水を使って細い三叉の矛を作り出す。
そしてありったけの魔力を込めて投げ込んだ。
1回限りの攻撃だけどアミルの斬撃より攻撃力は上だ。
僕の渾身の一撃はレインドラゴンの胴体に刺さる。
「よしっ!」
喜んだのもつかの間、レインドラゴンが怒ったようにこっちを向く。
どうやらかすり傷程度のダメージしかなかったようだ。
まずいと思ったその時
「よくやったダミアン!! 地神の拳!!」
ロンドが自身の体を変質させ、巨大な岩の拳を作り上げる。
レインドラゴンの体より大きなその拳を、ロンドは力一杯叩き込んだ。
山同士が衝突したかのような音と共にレインドラゴンが吹っ飛んでいった。
「はぁ……はぁ……やったか?」
ロンドが息も絶え絶えに質問する。
陰に隠れていたユフィが俺たちのそばに来てポーションをくれた。
おかげで魔力が全回復する。
僕たちが継続的に戦うことが出来るのもユフィの支えのおかげだ。
「よし、今のうちに逃げるぞ」
あれでレインドラゴンを倒したとも思えないし、逃げるのが得策だろう。
すぐさま移動を開始しようと思ったその瞬間
急に辺りが暗くなった。
あわてて上空を見ると
「嘘だろ……」
レインドラゴンが上空で羽ばたきながら空中にとどまっている。
それだけならよかったけど、何百本もの水の剣が体の周りを囲うように円状に並んでいる。
残念なことにすべての剣の切っ先が僕たちの方に向いていた。
「ユフィ、アミル。2人は僕とロンドの後ろに下がってて」
こうなったら僕が出来る限り威力を殺してロンドの作る岩壁でガードを試みるしかない。
一か八かの賭けだ。
これでダメなら僕たちは全滅する。
決死の覚悟を固めた直後、レインドラゴンが予想外の行動に出た。
突然そっぽを向いたかと思うと、すべての剣を消失させてその方向に飛び去ってしまったのだ。
辺りが何事もなかったかのように静寂に包まれる。
「……助かったのか?」
ロンドが呆然としながらもほっとしたようにつぶやく。
「どうやらそうみたいだね」
アミルは腰が抜けたようにへたり込んだ。
僕も膝が笑っている。冒険者になってこんなこと初めてだ。
「でもいいことばかりではありませんの」
ユフィが顔色を悪くする。
「なに?まずいことでもあるの?」
いなくなってくれたなら万々歳じゃないのかな。
ユフィが小さく息を吸い込むとこう言った。
「レインドラゴンの飛んでいった方角に……マイマイ村がありますの」
本日で丁度連載開始から2ヶ月が経過しました!
ありがとうございます。
この節目に皆様にご報告したいことがございます!
なんと、書籍化が決定いたしました!!!
あまりのことに信じられない自分がいます。
皆様のおかげです。本当にありがとうございます!
レーベル、発売日等は現時点でお伝えすることが出来ませんが、発表できる段階になったらまたお知らせしたいと思います。
重ねてお礼申し上げます。
今後ともよろしくお願いいたします!




