第61話 村の復興
次の日は幸運なことに晴れだった。
ルナさんによると久しぶりの晴れだそうだ。
「それじゃあ、村の人たちに配ってきますね」
ジャスティン様から村の住人の住んでいる家の場所を教えてもらったので、俺、サラ、アミルさんの3人で手分けをしながら配布することになった。
「そういえば、どうやって配るの?」
アミルさんが聞いてきた。そういえば俺の説明は詳しくしてなかったな。
「今から教えますね」
俺は屋台召喚を使って屋台を取り出した。
「なんか、変わった台車だね」
アミルさんが興味深そうに屋台の周りをぐるぐるする。
まあ、最近だと日本ですらあまり見かけなくなってきたからな。
「そうかもしれませんね。これ、ここの部分が収納スペースになっています」
ここで、アミルさんにサラと相談して書いたメモを渡す。
「中に手を入れたら、ここに書いてある食材を思い浮かべてください。そしたら、手に物があたる感触があると思います」
俺の指示にしたがって、アミルさんが収納魔法の中に手を突っ込んだ。
「じゃあ、試しにジャガイモを出してみるね……わっ!!本当にジャガイモが出てきた!」
アミルさんが手を収納魔法から取り出すとジャガイモを持っていた。
うん、成功したみたいだね。
「今の感じで取り出してください」
「わかったよ。でもこの食パンって何?」
「これはうちの商会のオリジナルの商品なんです」
俺が取り出してアミルさんに渡した。
「食べてみてください」
せっかくなら試食してもらおう。
「ありがとう!いただきます!……うん、柔らかくて美味しいね!昔貴族の屋敷で食べたパンみたいだよ」
よかった、気に入ってくれたみたいだ。
「こんな高そうなパンも配るの?予算大丈夫?」
なかなか鋭い質問が飛んできた。
「その点については安心してください」
まあ、そこは秘密だな。
「ふーん。あと屋台は1台ってことはここで食材を取り出してから、みんなバラバラに配りに行くのかな?」
あ、そこについても説明しなきゃな。
俺は屋台増殖を使って屋台を3つにした。
「これで問題ないですよ」
「……リュウのスキルってさ、目立ちにくいけど知れば知るほどかなりすごいスキルじゃない?」
「ありがとうございます」
自分のスキルを褒められるとやっぱりうれしいな。
「それじゃあ、宜しくお願いしますね」
「うん!任せて!うち脚力には自信があるから!」
アミルさんは屋台をひく体勢を整えると、駆け出した。
そしてあっという間に遠くまで行ってしまった。
村の中でも遠いところを任せて正解だったな。
「私たちも行きましょうか」
「そうしよう」
俺たちも作業を開始した。
ーーーーー
「ごめんください」
俺の担当する家のドアの前で大きな声を出した。
少ししてから扉が開いた。
出てきたのは6歳ぐらいの女の子。
「おじちゃんだれ?」
女の子が怪訝そうな顔をしながらこっちを見てくる。
「おじちゃんじゃないよ。おにいさんだよ」
まだ20代でそのセリフを言われると心にくるものがある。
「え、でもおじちゃんはおじちゃんでしょ?」
うん、俺の心のHPがゼロだわ。
「ちなみにお父さんお母さんっているかな?」
「うん、いるよ。ちょっと待ってて。ママーー!知らないおじちゃんが来たーーー!」
おいおいおいおい!それじゃ俺が不審者みたいじゃないか!
やっぱり母親らしき人が慌ててやってきた。
「ちょっと!あなた誰?」
娘を後ろにかばいながら聞いてきた。
「サート商会会長のリュウというものです。今回マイマイ村に支援物資を届けに参りました」
俺は事情を説明した。説明を聞くうちに向こうが安心した表情になった。
誤解されなくてホント良かった。
そもそも日本の感覚だと防犯的に子供が呼び出しに出るってことはあまりないかもしれない。
でも、この村は基本顔見知りしかいないからこういうこともあるそうだ。
「これが今回の食材です」
ドーム状のパンや食パン、豚肉、キャベツ、トマト等を人数分渡した。
これで3日間ぐらいは大丈夫だろう。
「また来ますね。あと時々領主様の家で料理を作ったりするのでぜひ来てください」
連絡を伝えて俺は家を出た。
「おじちゃんまたねー!」
女の子が手を振る。
もう否定するのは諦めよう。
ーーーーー
こうしていろいろな家に配っていたところ、人が集まっている場所があったから覗いてみた。
「あれ?ロンドさん。何をしているんですか?」
その中心にはロンドさんとジャスティン様がいた。
「ああ、リュウか。今ジャスティン殿と相談して用水路の整備をしようとしているところだ」
この村では、来るときにやってきた川から水をひいてきているらしい。
ただ、これまで氾濫するようなことがほとんどなかったから水害対策があまりとられていなかった。
「だから、ここに新たなため池を作ろうと思ってな」
ロンドさんが計画を教えてくれた。
「なるほど、でも時間がかかりませんか?」
確かに、水をためる場所をつくると洪水対策になるけど、かなりの大仕事になるんじゃないかな。
「問題ない。今から作業に入る」
ロンドさんは屈んで両手を地面につけた。そして両手に力を込める。
すると、徐々に地面から振動が伝わってきた。
そして、ロンドさんの前方の地形が変化する。
最初は中心部分がくぼみ、土が脇へと移動していった。
そして、5分後には縦15メートル、横10メートル、深さ3メートルほどの穴が完成した。
横には小山が出来ている。穴の部分にあった土だろう。
周りに集まってた村人たちも驚いている。これ本当に人間に出来ることなのか?
「あの、ロンドさんのスキルって」
「ああ、周囲の土や岩を自在に操れる。それに自身の体も岩にすることができるぞ」
だからソルーンで剣で切りつけられた時も無傷だったんだな。
やっぱりロンドさんはすごいな。




