第59話 マイマイ村への道のり その2
馬車での旅は順調に進んだ。
夜になったら町の宿場で休息をとって、日中は移動する。
ソルーンを出発して2日後の夜、マイマイ村から最も近い町に到着した。
まあ町と言ってもソルーンのように大きくはなくて宿場町のような場所だ。
マイマイ村に近づいたこともあって、天気もあまり良くない。
着いて早速俺たちは地元の人にマイマイ村の状況について話を聞いた。
「マイマイ村ね、レインドラゴンがシュッツガルドの森に出たってんでこの町でも騒ぎになったんだ」
居酒屋のマスターが教えてくれた。
「不幸中の幸いで、けが人とかは出てないみたいだよ。でも、この町からマイマイ村へ行くために渡る橋が崩れてね。村が孤立しているんだ」
その話を聞いて、サラは改めてほっとしたような顔をする。
うん、人命が第一だからね。
話を教えてくれたお礼として、居酒屋で夕飯を食べながらみんなで相談をする。
「出来ることなら夜でも歩いていきたいのですが」
サラがそんなことを言い始めた。
「ダメだ。俺たちだけなら問題ないが、今回はサラとリュウ、2人の命を預かっている。無茶なことは出来ない」
ロンドさんがその提案を否定する。
「そうですか……」
サラが残念そうな顔をする。
まあ、俺もその意見には賛成だ。
「魔女の杖」の人たちはこういう場所にも慣れているだろうけど、俺たちは素人だ。
こっちが災害に巻き込まれたら元も子もないからね。
「大丈夫だよ。君の姉さんも無事なんだから安全に行こう」
「そうですの、私たちが行くのですから安心ですの」
アミルさんとユフィさんがサラの事を励ます。
「そうですね分かりました。無理なことを言ってすみません」
「いやいや、大丈夫だよ。僕だって身内がいるってなったら心配になるよ」
ダミアンさんもフォローを入れる。
「その代わり明日は早く出ような」
俺に言えることはそれぐらいだ。
「さて、話は戻るが明日は徒歩で村へ向かう」
ロンドさんによれば、遅くとも夕方までに到着するだろうとのことだ。
「あの、橋についてはどうするんですか?」
確か橋が落ちて村に行けないって話だったけど。
「それは問題ないですの。私が解決しますの」
ユフィさんが自信たっぷりに答える。それなら大丈夫なのだろう。
「とにかく、今日は早く寝ることだ。明日の早朝出発する」
俺たちは夕食を済ませると、宿に戻って明日に備えた。
ーーーーー
「よし、出発だ」
翌朝、全員が集まったことを確認してからマイマイ村へ向かう。
外は雨みたいだな。
俺とサラがレインコートのようなものをつけようとすると。
「ちょっと待って、それ必要ないよ」
ダミアンさんがストップをかけた。
「僕のスキルを使うからね、ちょっと待ってて」
そう言うとダミアンさんは何も準備しないまま外へ出た。
でもダミアンさんは濡れていない。
「僕のスキルで雨を弾くんだ。地面のぬかるみも処理するから安心して」
パーティーの他の3人は普通に外に出る。いつもやることなんだろうな。
俺とサラも外に出る。はじめは身構えたけど、やっぱり雨には当たらない。
下の地面も乾燥しているから泥に足を取られることもないだろう。
「よし、それじゃあ出発だ」
町を出て俺たちはひたすら歩いた。でもダミアンさんのスキルのおかげでかなり歩きやすい。
ダミアンさんによると、俺たちを中心とした球みたいな結界をイメージすることで、空中はもちろん地中の水分についても処理しているようだ。
「水の流れる音がする!川が近いよ!」
昼過ぎ、アミルさんが声を出した。
アミルさんは獣人と言うこともあって身体能力が全体的に高いのと聴覚、嗅覚が優れていると言っていた。
だから誰よりも早く気付いたのだろう。
近くまで行くと、川幅が20メートルほどの大きな川が流れていた。
対岸には森が見える。
それに雨の影響でかなり水位が高いし濁っている。泳げるような水の流れではないことは明らかだ。
橋も木製の土台以外は流されてしまっているみたいだし。
「私の出番ですの」
そう言うとユフィさんは川の端っこに座って何かを地面にばらまいた。
そして目の前で両手を合わせて目をつぶって何かを唱えた。
すると、地面からものすごいスピードで植物が生えてきた。
ツタみたいなのが絡まり合いながら対岸へと進んで行く。
あっという間にアーチ状の橋が完成した。
「すげー」
俺は思わず声を漏らす。こんな巨大なものを一瞬で作るなんてまるで魔法のようだ。
いや、魔法なんだけどね。
「こんな感じですの、さあ、行きますの」
ユフィさんが先頭になって橋を渡り始めた。
初めは少し戸惑ったけど俺たちが乗ってもびくともしない。
それに手すりまで作られているから落ちる心配もないし。
こうして無事に対岸までたどり着いた。
ーーーーー
その後も俺たちは森の中を進む。そして歩くこと2時間、ついに目の前が開けてきた。
「ここがマイマイ村か」
目の前に広がっていた光景はいわゆる田舎、という感じだ。
一面畑で、のどかな場所だ。
晴れた日に見ればとてもきれいな景色のはずだが、今はそうも言ってられないようだ。
畑は水浸しになっているし、道にまで水があふれている部分もある。
こんな状態では作物もダメになっているのも頷けるな。
「早く姉のところに向かいましょう」
サラの言う通りに俺たちは村の中心へと向かった。




