第57話 ソルーンを出発
次の日の午前5時、俺はいつもより早く目を覚ました。
朝には出発だから早めに起きないといけないからね。
朝の準備をしたあと、最後に家の中を点検する。
しばらく家を空けることになるから、忘れ物とかをしっかり声に出しながらチェックしていく。
まあ、この世界に来てからあまり物は買ってないし、買ってあるものの大半は収納魔法に入れてる。
だから点検自体はすぐに終わった。
「いってきます」
誰もいない部屋に向かって呟いてから俺は冒険者ギルドに向かった。
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「ふぁーー、リュウさんおはようございます」
冒険者ギルドの前に着くと、サラが入り口のところで待っていてくれた。
「おはよう、今日からよろしくね」
「はい、2人で協力して村を救いましょう」
「ちょっとちょっと、僕たちも忘れてもらったら困るよ」
後ろからダミアンさんが声を掛けてきた。
「魔女の杖」の4人だ。並んでいるとやっぱり空気が違うね。
みんな昨日より落ち着いていて、少し緊張感が漂ってくる。
そりゃ今からドラゴンのところに行くんだよな。
俺とサラより覚悟が必要になるわけだ。
「皆さんよろしくお願いします」
「お願いします」
俺とサラは頭を下げる。
「リュウとサラを守るのも重要な任務の一つだ。大船に乗った気持ちでいてくれ」
ロンドさんのセリフめちゃくちゃカッコいいな。
「みんな揃ったようだな」
ギルドマスターが中から出てきた。
「マイマイ村行きの馬車は途中にある川の橋が落ちたことで運休している。だからその手前の町までになるが、馬車を手配した。それに乗って行ってくれ」
マスターからの指示が出る。
「では、成功を祈って君たちの帰りを待っている」
マスターの見送りの言葉と共に俺たちは出発した。
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外壁まで向かい、門の近くまでやってきた。
遠くから馬車があるのは見えるんだけど、その横に見慣れた人影が2人あった。
「師匠!お疲れ様っす!」
「お疲れ様です」
カインとハンナが見送りにやってきてくれた。
「朝早くなのにありがとうな」
「これぐらいお安い御用っすよ」
カインが笑顔で言う。
「何かあったら手紙で連絡ください。会長と副会長が戻ってくるまであたしたちで頑張ります!」
増殖魔法で増やした屋台の収納魔法はみんな共通でつながっている。
だから、ある屋台から入れた手紙は、離れた屋台からでも取り出せる。
これならいつでもやり取りが可能だ。
これ人の移動もできるんじゃないかと思ってサラに提案したことがあるんだけど、
「それ、誰が最初に入るんですか?」
と言われてから断念している。
時間経過無しのアイテムボックスに人が入ってどうなるか分からないからな。
危険なことは止めておこう。
おっとわき道にそれてしまった。
ハンナも店長として覚悟を決めてくれたみたいだし、ここからはクエストに集中していこう。
「それじゃあ、行ってくる」
2人に見送られながら馬車で出発した。
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門のところでは一度馬を止めて各々身分証を取り出す。
入る時とは違って、出るときはチェックが簡単だった。
ロンドさん達の身分証を確認した時は兵士の人二度見してたな。
それが終わるといよいよ外だ。
「おおー、懐かしい風景だ」
壁の外を出ると、畑や、ところどころ森があったりと自然豊かな風景になる。
異世界に来た日、この外壁を見たとき以来の景色だ。
あの頃は来たばっかで、目の前のことにいっぱいいっぱいだった。
けど、今は自分の商会を持って仲間と一緒にクエストの旅に出ることが出来ている。
この世界に来れてよかったなと改めて思うよ。
そんな感慨に浸りながら、森の中を抜けていると。
馬が大きな鳴き声をあげながら急停止した。何かあったのかな。
「おいお前らぁ!!!!」
馬車の後ろから男二人組が大きな声をあげて乗り込んできた。手には刃物を持っている。
俺はとっさにサラをかばう恰好で動きを止める。
「いいか、何も返事はするな。金になりそうなものだけ全部出せ。隠すんじゃねぇぞ!今すぐだ。さあ出せ!」
片方の男が怒鳴る。
どうしよう、俺はパニックになるのを抑えつつ、必死に頭を働かせる。
なんとか無事に乗り切る手立てはないのか。
そんなことを考えていたのに、俺と違って「魔女の杖」の人たちは眉一つ動かさない。
それどころかリラックスした表情までしている。
「おい、ダミアン。お前がやれ」
ロンドさんがめんどくさそうに腕を組んだままダミアンさんに言った。
「えー、自分でやればいいじゃん」
ダミアンさんもだるそうしている。
「俺はリュウの前で戦ったことがある。今度はお前が力を示す番だ」
「分かったよ、まあこんな人たちじゃ実力以前の問題だけどね」
ダミアンさんが頷いた。
「さっきからなにごちゃごちゃ喋ってるんだ!いいから早く金……」
セリフを言い終えないうちに盗賊2人は鈍い衝撃音と共に吹っ飛んでいった。
そして10メートルぐらい綺麗に空中で放物線を描いたあと、地面に激突して動かなくなった。
周囲が静寂に包まれる。
「安心して、気絶させただけだから」
盗賊たちが動かなくなったのを見てからダミアンさんが笑顔で言った。
ダミアンさんも恐ろしく強いんだな。




