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第5話 パンを売ろう

 俺はパン屋を探しに一般商業地区までやってきた。


 日本の商店街に比べてかなり人は多いな。


 見たところ、建物はレンガ造りの2階建てがほとんどで、主に1階が店舗、2階が住宅となっている。


 店をのぞいてみたけど、野菜は日本においてあったものと変わらない。


 ただ、肉や魚は牛や豚の他にも置いてあった。魔物の肉か何かだろう。


 しばらくして俺はパン屋を見つけた。風に乗って焼きたてのパンの香りがする。


「いらっしゃい!」

 店に入るとおじさんが元気よく挨拶をしてくれた。


 棚には沢山のパンが並んでいる。今朝食べたドーム状のパンが売り場の中で一番面積を占めていた。


 おそらくこの街で一番食べられるパンなのだろう。値段は1つ80クローネだ。


 他には同じくドーム状で黒色の小麦(?)で作られた黒パン、棒状のフランスパンなどがあったが、惣菜パンの類はなかった。


 店のおじさんに聞いてみても話が伝わらなかったから、そのような文化がないのかもしれない。


 そして、何より食パンがない!!!

 相場を調べようにも食パンがないのなら調べようもない。困ったな。


 あとこの世界でのパンの売り方はパンをそのままお客さんに渡して、お客さんが自分のカゴや袋で持って帰るスタイルだった。


 これならビニール袋と言った経費も削減できるから助かるな。


 まあこの世界にビニール袋があるのかは知らないけどね。


 とりあえず他の何軒かパン屋をまわってみたけどどこも一緒だったので、今度は噴水広場にやってきた。




「……まるで縁日だな」


 噴水広場は噴水を中心に置く公園のようになっていて道のいたるところに縁日にあるような出店が置かれていた。


 と言っても焼きそばやたこ焼きが置かれているわけではなく、食品や服など日用品がメイン。まあフランスのマルシェみたいな感じか。


 見たところ屋台を出せそうなスペースはいくらでもあったから場所取りはいらないと判断して俺は宿に戻ることにした。


 ーーーーー


「ふう、なんとか作り終えたぞ」

 宿に帰った俺は早速食パンを20本、計40斤作った。


 MPを80消費したから疲労感はあるが、回復するし、なんとかなるだろう。


 噴水広場は午前中が一番人がやってくるらしいから、俺も朝方店を開くことにする。その頃までになら100斤は作ることができると思う。


 ちなみに値段は1斤150クローネにするつもりだ。ドーム状のパン2個分ぐらいの大きさだからそれぐらいにしておく。


 まあ後は初日売ってから考えてみよう。


 ーーーーー



 次の日の朝8時、俺は屋台を引いて噴水広場へとやってきた。


「肉が安いよー!1つ400クローネだ!!」


「こっちのキャベツも安いぞ!1つ60クローネだ!」


 それぞれの出店から客を呼び込もうと声を出している。おかげで朝とは思えない音量だ。


 俺は広場の隅の方に屋台を陣取る。パンを売るのに暖簾は邪魔だから外しておいた。


 テーブルにパンを10斤並べて準備完了だ。


「ふぅ」

 俺は深呼吸をしてから周りに負けないように声を張り上げる。


「いらっしゃいませ!!!!食パンはいりませんか!?今日はいつもより安く一つ150クローネ!今なら試食も出来ますよ!!」


 みんな珍しそうに見ていくけど、なかなか足を止めてもらえない。辛抱強く我慢だ。


 すると


「おーい!リュウ!あんたこんなところで何してるんだい?」

 ローサさんがやってきた。後ろに一人、坊主頭の男の人を連れている。


「こいつはカインっていってあたしの甥っ子で宿の料理人さ。食材の買い出しを手伝ってもらってるんだよ」


「カインっす。よろしくっす」

 軽い感じで挨拶してくれた。見たところ高校生くらいかな。俺よりは若い。


「で、これがお前さんの商品かい?」


「はい、もしよかったら試食でもしていきますか」


「いや、せっかくだし一つ買わせてもらうよ」

 ローサさんは笑顔で150クローネを俺に渡してくれた。


「ありがとうございます!!」

 そう言って俺はローサさんにパンを1斤手渡した。


「ありがとね、せっかくだしここで味見でもして行こうかね」

「はい、是非感想を聞かせてください」


 ローサさんは渡した食パンの内一つを手でちぎると一口頬張った。


「…………」

 無言で噛み続ける。


「あの?味の方は?」

 口に合わなかったかな?


「……美味すぎる!!!!」

 ローサさんが突然叫んだ。


「リュウ!これを買えるだけ頂戴!!!それにカイン!!!今日の夕飯に出すパンはこれだよ!!!」


「え、でも買う場所はいつも……」

「いいからあんたも食べてみな!!」


 ローサさんはパンをちぎってカイン君に渡した。


「そんなパンに違いなんて…………ってなんすかこれ!!!!!」

 カイン君まで叫び出した。


「そうだろ?こんなに美味しいパンあたしは食べたことないね」


「そんなにですか?」

 確かに美味しいが普通の食パンだぞ?


「もちろんさ。こんな柔らかいパンなんて、貴族様ぐらいしか食べられないよ」


 ローサさんによるとこの世界で柔らかいパンは生産量が限られていて、一般には流通量が少ないらしい。


 作れる人が少ないのが原因で、ほとんどが貴族お抱えのパン職人になるみたいだ。


「それをこんな安い値段で買えるって言うんだい。たくさん買うさ」


「わかりました、いくつぐらい欲しいですか?あと100個ぐらいはありますけど」


「100!?そんなにたくさんあるのかい!?」


「ええ、良い仕入先を見つけまして」

 間違ってはいないかな。


「こんな短期間で仕入れ先見つけるなんて、あんた商売上手なんだね。そしたらもう8個貰おうかね」


「かしこまりました。合計で1050クローネです。一つはサービスにしますね」


 ローサさんにパン8個を手渡し、1050クローネを受け取った。


「ありがとうねぇ、それじゃあ、あたしたちはいくよ」


「はい、ありがとうございました!」


 こうして2人は去っていった。


 ふう、なんとかパンを売ることができたぞ。

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