第56話 出発の支度
その後もランプとか元の世界でいうところのキャンプ用品を見ていく。
俺もサラもこういう店に来るのは初めてだったから目新しいものばかりだ。
「リュウさん見てください、ハンモックですよハンモック」
「へえ、こんなものもあるんだ」
安いものは元の世界にあったものと変わらない。だが高いものになると、近くの木や岩に魔法でくっつく性能を備えていた。
テントを張るには危険な場所とかで重宝されるらしい。
値段が15万クローネとか書いてあったから高くて買えないけどね。
「よし、ここでの買い物は済んだな。移動するぞ」
キャンプセットを購入した後、ロンドさんに連れられて再び店巡りを始める。
今度は武器屋に向かうことになった。
さっきの店と違って、一般商業地にあるこぢんまりとした店だ。
アミルさん曰く、武器屋については店の大きさじゃなくてその店に並んでいる剣の質とかを見て判断するんだってさ。
「点検に出してたうちの剣を回収するんだ」
アミルさんが手元に戻った剣を見せてくれた。
「うわぁ、すっごくきれいですね」
両刃式の剣で、一切ゆがみがない。太陽の光を反射して光り輝いている。
「あんまり近づかないでね。岩ぐらいなら簡単に切れちゃうような剣だから」
アミルさんの言葉を聞いてサラと俺は5メートルほど距離を取った。
「アハハ、大丈夫だよ。うちが持ってるんだからそんなへまはしないって」
アミルさんが笑いながら剣をさやに収める。
「次は私の店ですの」
今度はユフィさんに連れられて薬草屋へと向かった。
そこで、ユフィさんが様々な薬草をかごに入れていく。あと植物の種も購入するようだ。
「よく使う薬草はこういう風に店で補充しますの」
ユフィさんが店から薬草を抱えて出てきた。
緑、赤、青、カラフルなのもあれば、なんか動物みたいな形の植物まである。
というかそれホントに植物か?よく見たら若干動いているんだけど。
こんな風にして店巡りは終わった。
こういうことが冒険者たちの出発前のルーティーンらしい。
俺は商人としてこの異世界で頑張ってきた。
だからこんな時に言うのもなんだけど、冒険者の生活の一端を見れてちょっと楽しい。
「俺たちの方の準備は済んだが、あと何か見たいものはあるか?」
ロンドさんが俺たちに聞いてきた。
「そうですね、調理用具店に寄りたいです」
そこで木皿や木でできたフォーク、大きな鍋などを大量に購入していく。
直接食料を渡すだけじゃなくて炊き出しとかもやることになるだろうからね。あらかじめ準備しておかないと。
あとはパン屋に移動して自分では作れないドーム状のパンも大量購入する。
食パンがあるから買わなくてもいいけど、馴染みのあるパンも少しは村の人に渡したいからね。
2人では持てないぐらいの量だったので、「魔女の杖」の人たちにも手伝ってもらった。
「持つのは全く構わないのだが、こんなに買ったら持って行けないのではないか?」
ロンドさんが鍋を持ちながら不思議そうに言う。
「そうですの。それにリュウとサラは食料の運搬もするはずですの」
ユフィさんも不思議そうだ。
「大丈夫です、少し広めの場所に移動したらアイテムボックスに収納しますから」
店を出て、人通りの少ない脇道の入り口で俺は屋台を召喚した。
そして買ったものをせっせと収納魔法にしまっていく。
「り、リュウ、それどれぐらい入るの?」
ダミアンさんが口をあんぐり開けている。
「どれぐらい……あまり気にしたことないですね」
最初の頃はパン何斤分とか考えながら収納してたけど、今は相当な量収納できるんじゃないかな。
それに創造魔法で作ってるものも入っているからね。想像もつかない。
「無尽蔵の収納魔法。相当レアなスキルだ」
ロンドさんも興味深そうに見ている。
「王都でも滅多に見ないスキルですの。それにさっきテントを作るスキルも見ましたの」
ユフィさんも俺のスキルを分析してるみたいだね。
「リュウってとんでもないスキル持ちなんだな」
アミルさんも感心している。
Sランクパーティの人たちに褒めてもらえると嬉しいな。
「収納が終わりました。お待たせしてすみません」
「よし、これで準備は終わったな。明日からよろしく頼む」
ロンドさんが俺に握手を求めてきた。
「はい、出来る限りのことはさせていただきます」
俺は差し出された手を握り返す。
「うむ。そうだ、もし良かったらこの街でおすすめの宿を教えてくれないか?」
ロンドさんによるとこの街に来て泊まっていた宿が高いわりに微妙だったらしい。
だから安くていい宿を探しているそうだ。
Sランク冒険者だからお金をいっぱい持ってるんだろうけど、意外と庶民派なところもあるんだね。
「それでしたら、『アリアドネの宿』というところがおすすめですよ」
俺が異世界に来て初めて泊まった宿だ。
ここに泊まっていなかったら、ローラさんにもサラにも、カインにも、ハンナにも会えなかった。
泊まった期間は短いけど、俺にとっては大切な場所だ。
「そうか。ではその宿に行ってみよう」
そのあとはロンドさん達をアリアドネの宿まで送って、部屋が空いているかも聞いてみた。
Sランクパーティの人たちって聞いて受付の人飛び上がってたけど、まあ大丈夫だろう。
部屋が取れたので、そこで俺たちはロンドさん達と別れた。
明日には出発だ。




