第54話 臨時店長を任命しました
その後、クエストを受けるにあたっての細かい説明を聞いたうえで、契約を結ぶことになった。
本当は他のメンバーにも相談をしたかったけど、あまり時間はかけられないからね。
会長、副会長判断ということにさせてもらおう。
「急な話で申し訳ない」
マスターが立ち上がって謝罪をする。
「そんな謝らないでください」
マスターが悪いわけじゃないからね。
「それじゃあ、今日は商会に戻って説明をします」
「分かった、明日の午前中に冒険者ギルドの方に顔を出してくれ。よろしく頼む」
俺たちは店へと戻った。
ーーーーー
「え、商人クエストを受けるんすか?急っすね」
今日はいつもより少し早めに閉店して、メンバーみんなにそのことを説明した。
「すまない、その場所がサラのお姉さんの住んでいる場所らしいんだ」
「それならしょうがないっすね」
カインも納得してくれる。
「でも店の方はどうするんですか?会長、それに副会長もその村に行くんですよね」
ハンナが質問してきた。
俺は当然行くとして、事情が事情なのでサラにもついてきてもらう。
領主の妻の妹がいるなら話もしやすいからだ。
「そのことなんだけど、今回はハンナを臨時店長に任命したいと思っているんだ」
「あ、あたしをですか?」
ハンナが驚く。まあ、いきなり任命されたら驚くだろうな。
「はい、私とリュウさんで決定しました」
新店舗を開店してから約2ヶ月。みんなここの仕事にも慣れてきて、仕事の効率もだいぶ上がってきた。
その中で一番活躍してくれたのはハンナだ。
持ち前のスキルで他のみんなをしっかり見てくれている。
それにサラの手伝いもしてくれていたから、会計管理も任せられるとサラのお墨付きもある。
「もちろん、臨時とはいえ店長なわけだ。だから俺たち2人が抜ける分、そして負担軽減のためにも新しく人を雇ってほしい」
この2ヶ月は忙しくてなかなか雇う機会がなかったけど、これを機にさらに人を雇ってほしい。
シフトをずらすとかして対応してたけど、それだけだと大変だからね。
おかげ様で金銭的な余裕はできたから、人数は増やしていきたい。
「あたしに店長が務まるでしょうか……」
ハンナは自信なさげだ。
「絶対に大丈夫です。私が保証します」
サラが胸を張って答える。
「お前なら絶対に大丈夫。それに俺もついているから」
カインも横からフォローする。
これもハンナを選んだもう一つの理由だ。2人を中心に店を切り盛りして欲しい。
「あなた……」
2人が見つめ合う。
はーい、2人の空間に入るのは止めようね。
「他のみんなも大丈夫かな?」
みんな納得して頷いてくれた。
「それじゃあ、みんな。店を頼む」
「「はい!!!」」
うん、心強い仲間に出会えて本当に良かった。
ーーーーー
次の日、俺とサラは冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドは商人ギルドのように街の中心にはない。
俺がこの街に来た時にくぐった外壁の門の近くにあった。
冒険者は街の外に行くことが多いのと、外壁付近が一番治安的に悪くなりやすい場所だからということらしい。
だから、木造家屋の並ぶ風景の中で、冒険者ギルドだけ石造5階建てとかなり目立っていた。
俺とサラは建物の中に入った。
作りは商人ギルドとよく似ていて、銀行みたいにカウンターで冒険者がいるスペースと職員がいるスペースが区切られている。
とりあえずカウンターへと向かった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。クエストの受注ですか?それともクエストの依頼ですか?」
「サート商会会長のリュウです。商人クエストの件で商人ギルドのマスターからこちらに来るように言われました」
「かしこまりました。少々お待ちください」
受付の職員の人が手元の紙をめくって確認をした後、血相を変えてカウンターの奥へと消えていった。
そして、1人の老人と共に戻ってきた。
「君たちがサート商会のリュウとサラだな。ドイルの方から話は聞いている。わしはフストリア領冒険者ギルドのマスター、ヘッジだ。わしの部屋に案内しよう」
なんと現れたのはギルドマスターだった。
それだけ重要な案件ってことだね。
「よろしくお願いします」
俺たちはマスターに連れられて、職員スペースの奥へと向かった。
そして商人ギルドの時と同じように、転移魔法陣を使って5階へと行く。
「やっぱり気持ち悪いですね」
サラが口元を抑える。慣れないみたいだね。
「さあ、わしの部屋に着いたぞ。先客がいるからよろしくな」
部屋に入ってみると、商人ギルドのマスター室とは違い、豪華というよりは荘厳といった感じの雰囲気だ。
壁に掛けられている物も武器や地図だったりと冒険者色が強い。
そして、ソファには4人座っていた。
頑丈そうな装備をしている人もいるし、おそらく冒険者パーティーだろう。
4人は俺たちが入ってきたのを見て立ち上がった。
「リュウとサラに紹介しよう。今回君たちと同行してもらうSランクパーティ『魔女の杖』だ」
「俺がパーティのリーダー、ロンドだ。今回はよろしく……」
そういって手を伸ばしてきた男の人と目が合った。
「「あ」」
やっぱり一緒に行くのはロンドさんのようだ。




