第51話 エマファンクラブ その2
「あいつはただの男じゃねぇ、この国に3人しかいないSランク冒険者だ」
ランダさんはそういった。
「Sランク冒険者ですか?」
その肩書だけでとんでもなく強いのが分かるな。
「ああ、ロンドと言う名前で、『魔女の杖』ってパーティーのリーダーだ。どいつもべらぼうに強いぞ」
パーティーのリーダーか。カッコいいな。
「でもなんで気づいたんですか?、ぱっと見てオーラとかあるようには見えなかったんですけど」
言い方は悪いがどこにでもいる寡黙そうな人って感じだったぞ。
「俺より上のランクの人たちはオーラを操ったりできるからな。それで気づかなかったんだろ。気づいたのは目の下にやけどの跡があったからだ。あれ、ドラゴンと戦った時の傷っていう噂だぜ」
だからランダさんもハイルの強さに気付かなかったのか。
それにドラゴンと戦う。凄すぎる。
「……なんかあのハイルとか言ってた人が心配になってきましたね」
いくらBランクといっても、ドラゴンと戦うような人とケンカして無事に済むとは思えない。
「自業自得だ、ケンカを吹っ掛ける方が悪い」
「それもそうですね」
「まあ、気になるなら見に行けばいい。どうせケンカをするなら近くで人だかりでもできてるだろうよ」
ランダさんがケンカをしそうな場所を教えてくれた。
「ありがとうございます」
せっかくだから見に行くことにした。
ーーーーー
ハイル視点
ちくしょう、どうしてこうなったんだ?
俺は受注したクエストに行く途中で寄った町の店で可愛い子をナンパしてただけなのに。
横から口出してきたおっさんをボコボコにしようと思ってただけなのに。
店を出たあと、俺はおっさんと一緒に近くの空き地に移動した。
「へっ、ボコボコにされる覚悟はできてるかよ」
俺はおっさんを挑発する。
店で殴ろうとしたときは受け止められてしまったが、まあ、あれぐらい受け止められるやつはいるだろ。
別にスキルも使ってないしな。
「お前に倒されるつもりはないが、別にいつでもいいぞ」
おっさんは余裕そうに構えている。
気に食わねえ。
「頭にきた!もうてめえのことは許さねえ」
俺はスキル「加速」を使って一気におっさんに突っ込む。
単純なスキルだが、敵の攻撃は避けられるし、威力も倍増だ。
まあ、懲らしめたいだけだから剣は使わずに素手で勘弁してやろう。
ところがおっさんの腹にめり込むはずだった俺の拳は逆に跳ね返されてしまった。
「痛っっっっってーーーーー!」
俺は腕に走った痛みに悶える。
なんだよあいつの腹、硬くて岩みてぇだ。
「なんだ、そんなもんか?まだスキルすら使ってないぞ。殺す気で来い」
「嘘だ!!スキルを使ってないだと?そんなことありえるわけがない」
俺様のスキルだぞ、素手だがそんな柔なものじゃない。
「そこまで言うなら本気を出してやるよ。死んでも知らねーぞ」
俺は剣を取り出す。あれだけ頑丈なやつでもこれでおしまいだ。
「ふむ、流石にスキルを使わないのは無理なようだ」
まだ俺の事を見下しているみたいだ。
「せいぜい避けるんだな」
俺は剣を構えて再びおっさんに突っ込んでいった。そして薙ぎ払うようにして剣を振りぬく。
おっさんの腹に剣が当たった瞬間、手に強い衝撃が走って、金属同士がぶつかり合う音がする。
そして急に剣の感触が軽くなった。
「そんな……俺の剣が」
王都の鍛冶屋で奮発して買った一級品の剣が真っ二つに折れてしまった。
「まだまだ踏み込みが甘いな。せっかく良い剣を持っても扱う人の技術が拙いと意味がないぞ」
まるで腹を虫に刺されたようにポリポリと掻きながらおっさんが言った。
俺の渾身の攻撃は何のダメージも与えられなかったみたいだ。
「お前いったい何者なんだ?」
そういっておっさんの顔を見つめた。
すると、今まで気付かなかった目の下の火傷を見つける。
剣をも砕く体、目の下の火傷。俺の中の情報が1つの線で結ばれた。
「Sランク冒険者、ロンド……さん」
あ、俺の人生終了した。
まさかSランク冒険者にケンカを売るなんて……命がいくつあっても足りない
「す、す、す、すみませんでしたーーーーーー!!!!!」
俺は全力で土下座をする、もはや命乞いだけど。
「別に腹を立てているわけではない。ただし先ほどのお嬢さんにはしっかりと謝れ、そして店にも謝罪をしろ。もう二度とこんなことはするな」
「わかりました、わかりました!!!」
「分かったならもういい、さっさといけ」
俺は命拾いをしたと思いながら逃げ出した。
もう2度とケンカを吹っ掛けるのは止めよう。
ーーーーー
リュウ視点
ロンドさん強えーーー!
あのハイルって人の攻撃も俺には目で追えないくらいの早業だったのに、まるで赤子の手をひねるかのように叩きのめされていた。
というか、剣を折る体ってなんだ?頑丈すぎるだろ。
そもそもドラゴンと戦ってやけどで済む人だもんな。根本的に体のつくりが違うんだろうな。
ハイルが説教を食らった後、逃げ出して行ったのを見てから俺はロンドさんの方に向かった。
「この度はありがとうございます」
おかげで店の騒ぎが収まった。感謝しかない。
「何、気にすることはない。冒険者として当然の事をしたまでだ」
流石Sランク冒険者、人格者の振舞いだ。
「お礼に何かさせていただけませんか?そうだ、注文しようとしてたメニューを無料で差し上げます」
まず、出来ることといったらそれだろう。
「いいのか?そんなことしてもらって」
「いえいえ、むしろお礼としてすくなくないですか?」
「そんなことはない。ありがたい限りだ」
「ではお店に行きましょう」
「うむ」
こうして俺たちは店に戻った。店に戻るとちょうどハイルが店から出てきたところだった。
俺たちを見ると、一瞬で逃げていった。すごいスピードだな。
店の中にいたエマによると、カウンターの前で土下座して、金貨5枚計5万クローネを置いて去っていったらしい。
よっぽどロンドさんが怖かったんだな。
ロンドさんはハンバーガーセットを4つ受け取って帰っていた。
パーティーの人たちと食べるつもりだそうだ。
そんな人たちに食べてもらえるなんて光栄だな。
こうして、異世界に来て一番激しい(?)日が過ぎていった。