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第50話 エマファンクラブ

 店が出来てからたいぶ経ったので、お店にもお馴染みの人たちが現れた。


 例えば、毎朝2階の端の方に座るおじいちゃん、おばあちゃんグループだ。


 みんな、サラダバーガーセットや、牛乳などを買って、おしゃべりをしたり、ボードゲームで遊んだりしている。


 優しい人たちばかりだし、お昼が近づいて店が混み始めてくると解散して席を空けてくれるから、特に注意するようなこともない。


 朝の休憩時間に世間話や昔話を聞くのも俺の楽しみの1つだ。


 この世界の事を知るいい機会になるし、話も面白い。


 子供の頃よく川の上を歩いて遊んだ、とか想像するだけでワクワクするよね。



 この人たちとは別によく見かけるのは、夕方から夜にかけてみる冒険者たちだ。


 みんなの目的はエマ。あの笑顔の虜になったんだろうな。


 冒険者ギルドで人気の受付嬢みたいなかんじかな。エマの列には少し人が多くなったりするのはそのためだろう。


 ただ、エマファンクラブなるものを結成しているおかげで、治安が悪くなることはない。



「いいか、よく聞け、俺たちにはなファンクラブ会員としての誇りってもんがあるんだ」


 ファンクラブ会長でCランク冒険者のランダさんに話を聞いてみた。


 ちなみにCランクはSからFランクまである冒険者の中で、「地元の町で活動するベテラン冒険者」ってぐらいの人らしい。


 だから、俺は腕っぷしではさっぱりかなわない。


「誇りってなんですか?」


「エマ様に迷惑をかけることは絶対にあっちゃならねえってことだ」


 いかついおっさんがエマ様と敬語を使っているのには驚いたけど、とりあえずスルーしよう。


「だからな、俺たちは注文に命を懸けてるんだ」


 要するに「ハンバーガーをください」とかそういうセリフにいかに思いを込められるからしい。


 そして注文の際の雑談は最小限、後ろのお客さんには決して迷惑をかけない。


 たまに長く喋る人がいたら自主的に注意してるみたいだ。


 まるでアイドルの握手会みたいだな。



 このことをエマはどう思っているかというと、


「私はうれしいですよー、お店に貢献できてますしー、皆さん優しくしてくれてますから」


 と言っていた。


 それならこのままファンクラブを続けてもらってもいいかな。



 ーーーーー


 ただ、中には態度の悪い人もいるわけで


「姉ちゃん可愛いね、気に入っちゃった。俺はハイルっていうんだ。よかったら一緒に楽しいことしない?」


 注文もせずにエマの目の前を退かない男がいた。


「すいません、今仕事中なんでー」


「こんな仕事辞めちゃってさ、ねえ、どう?」


 エマがやんわりと断るもののなかなか前から退かない。


 しょうがないな。


「すいません、お次のお客様がいらっしゃるので横に移動してお待ちいただけませんか」


 俺がエマの横に移動して注意をしてみる。


「うっせぇな!俺はいまこのお姉ちゃんに話しかけてるんだ。お前は引っ込んでろ!」


 逆ギレされてしまった。どうしよう。


「リュウ、ここは俺に任せてくれ」


 店の中で騒ぎを聞きつけたランダさんが助けに来てくれた。


「おいおい、兄ちゃん、ここはそういう店じゃないぜ、さっさと帰りな」


 ランダさんがハイルに声を掛ける。


「ふん、その見てくれからして冒険者なんだろうが、どうせ俺よりも弱いザコだろ?」


 そういってハイルが嘲笑った。


「ああ?これでも俺はCランクの冒険者なんだよ」


 そういってランダさんランク証を見せる。


「ふん、Cランクじゃないか、俺はBランクだが?」


 男の人が見せたのはBランクのランク証だった。


「なっ!」


 ランダさんが固まった。


 CランクとBランクとの間には大きな差がある。


 なぜならBランクの冒険者となるにはいろいろな街を渡り歩けるような実力と経済力が必要だからだ。


 つまり、ランダさんよりハイルの方が強いということだ。


「なんだ、別にお前とケンカしてもいいんだぜ?」


 ハイルは挑発的な態度をとる。


「なんだと?」


 そうは言うもののランダさんは手を出せない。


「ふん、なら最初から黙ってな。ほら、姉ちゃんさっさといこうぜ」


 そういってハイルがエマに手を伸ばそうとしたその時


「待ちなさい」


 隣の列に並んでいた別の男が声を掛けた。


「あんだよ、まだ俺に文句をいうやつがいたのかよ」


 面倒そうにハイルが言う。


「見るからにそちらの女性は嫌がっているではないか」


 男は答える。


「なんだよ、文句があるならかかってこいよ」


 再びハイルが挑発する。


「いいだろう、ただし他の人に迷惑になるから外でだ」


 え、この人挑発を受けるの?ハイルって人Bランク冒険者って言ってたぞ。


「外?お前なんざここで十分なんだよ!!!」


 ハイルがいきなり男に向かって殴りかかっていった。


 危ない!


 俺はとっさに目をつぶってしまった。


 そしてそっと目を開いてみると、男はその拳を片手であっさりと受け止めた。


 そしてその握りこぶしを包み込むようにしたままハイルを掴んで離さない。


「言っているだろ、他の人に迷惑になるから外だ」


 それまでは平穏な雰囲気だった男が、その言葉を放つ一瞬だけ、とてつもない殺気を放った。


 少し離れた場所にいた俺でさえ鳥肌が立つ。


 それをまともに受けたハイルが真剣な顔になった。


「ふん、ちょっとは出来る奴みたいじゃないか。いいだろう、お前の言う通り外に行ってやるよ」


 そういってハイルは店の外に出た。


「騒ぎを起こしてすまなかった、それではあの人のところへ行くからこれで失礼する」


 軽くお辞儀をすると男は店の外へと出ていった。


 男が出て行ってからしばらくの間、店の中のざわめきは収まらなかったが、少しづつ元通りになっていった。


「はっ、あのハイルってやつもこれで終わりだな」


 ランダさんが少ししてからそうつぶやいた。


「あの男の人強いんですか?」


 普通の人ではなさそうだけど。


「あいつはただの男じゃねぇ、この国に3人しかいないSランク冒険者だ」

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