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第49話 みんなの休日

 ある日、マリーさんとクトルとサラが休憩室で仲良くおしゃべりをしていた。


「な、いいのか!?このような聖者の歌声を聞く権利を我に!?」


 クトルが俺にも聞こえるくらい大きな声で言う。興奮してるみたいだ。


「あたしもいいんですか、もらっても」


 サラも嬉しそうに言う。


「いいのよ、いいのよ。いただいたものだから。あら、2枚余ったわね。そうだ、会長」


 マリーさんが通りかかった俺を呼ぶ。


「どうしたんですか?」


 途中からしか話が聞こえなかったからな。


「実は私の知り合いがミュージカルをやるの。で、チケットをもらったんですけど、主人と息子は行けないっていうからチケットが余っちゃって。もし良かったら私たちと一緒に行ってくださらない?」


 ミュージカルか、元の世界でもあまり見たことなかったけど興味あるな。


「いいんですか?是非行きたいです」


「よかったわー!ちょうど今度の定休日だからよろしくお願いしますね」


「分かりました」


 楽しみだな。


「あと一枚、どうしましょう」


「それなら他のメンバーの人に聞いてみたらいいんじゃないですか?」


 こうしてほかの人に聞いてみた。


 カインとハンナは2人でアリアドネの宿に行く用事があるらしい。


 アレンはレベッカさんとお出かけ。


 エマは前から決まった予定があるそうだ。


「ぼ、僕でよろしければ」


 ショーンは空いているとのことだったのでメンバーが決まった。



 ーーーーー


 当日、ミュージカルは夕方からということだったので、みんなで昼過ぎに集まってお茶をすることになった。


 自分で言うのもなんだけど、すごい高尚な人になった気分だ。


 大体休日と言えば、部屋でゲームしてるか、都内の実家に寄るか、それぐらいしかすることなかったからな。


 ゆっくり喋れる喫茶店みたいなところに5人で座ってフルーツを食べたりしながらまったり過ごす。


 こういう日もたまにはいいよね。


 マリーさんがこの中では一番年上だから、人生の先輩としていろいろなことを教えてくれた。


「人生若いうちは遊んだほうがいいのよ」


 マリーさんがそんな風にいう。


「そういえば、みんな彼氏や彼女はいないのかしら?」


 おっと、マリーさんが爆弾発言をぶち込んできた。


「我はまだ、そういうのはまだ早いというか、この世界で我は個として完全と言うか」


 クトルがしどろもどろになりながら言う。


「そうやって言い訳しているとあっという間に月日は過ぎていくわよ」


 マリーさんがド正論をクトルに言い放った。


「うぐっ」


 クトルもぐうの音を出せないようだ。


「ぼ、僕は頑張りたいんですけど、うまく行かないというか……」


 ショーンがモジモジし始める。


「あなたに必要なのは自信よ。最近接客だってしっかりできるようになってきてるんだからしっかりなさい」


 厳しくも励ましのあるマリーさんのお言葉だ。


「マリー姐さん……」


 ショーンも感動している。


「私は、まあ、なんというか」


 サラはすごく言いにくそうだ。顔赤いし。なにか思うところがあるのだろう。


「あなたもそうよ、もっと自分アピールしなさい。あなたが今のままでいいのなら何も言わないけど、いつまでこの状態が続くのかは分からないのよ」


 なんか深い言葉だな。いつまでも今のままじゃない。しっかり心に刻もう。


「姐さん、私頑張ります!」


 サラも元気が出たそうだ。


「俺もなかなか相手が見つからなくてですね……」


 今まで生涯彼女無しだ。どうすればいいのかさっぱりわからないんだよな。


 性格がダメって言われたらそれまでなんだけど。


「どこまで本気で言っているかは分からないけど……探せばちゃんといるわよ」


 マリーさんがやや困惑したように言った。なんでだ?


「え、本当ですか?どこに?」


 いるのなら教えて欲しい。


「それは自分で見つけなさい!」


 ピシャリとマリーさんが言う。


「……はい、頑張ります」


 なんかマリーさん俺には厳しかったな。



 ーーーーー


 夕方、俺たちはミュージカルを見に向かった。


 会場は100人程入る小規模な舞台だった。俺たちは後ろの方の席に一列で座った。


 話の流れとしては、敵対する貴族の家の娘と男が禁断の恋に落ちるという物語だ。


 まああれだ、シェイクスピアのロミオとジュリエットみたいな感じだな。もちろん名称は違うけど。


 クライマックスが近づくにつれて、みんな息をのみ、そして終わるころには全員が涙した。



「レオナルドーーーー!!」


 公演が終わった後、クトルが主人公の男の名前を叫んだ。俺も続けて叫びたくなるのをグッとこらえる。


 主人公があんな悲しい死を遂げるとは……これは涙なしには語れない。


 しばらく感傷に浸ったあと、俺たちは舞台を出た。



「じゃあ、お疲れ様」


 出口でみんなそれぞれの家へと向かった。


 方向が一緒だったので俺はサラと帰る。


「うう……」


 サラはまだ気分が落ち込んでいるようだ。


「大丈夫か?」


「ええ、でも泣くとなんだかストレス発散になりますね」


 確かに思いっきり泣くとすっきりしたりすることもある。


「そうだな、でも今度は喜劇が見たいな」


 俺としては笑えるものの方が好きだ。


「ですよね!そうだ、もし良かったら今度行きませんか?」


 サラが提案してくる。


「いいよ、また行こう」


 そう俺が返事をすると、サラはさっきまでの顔が嘘のように笑顔になった。


「約束ですよ!」


 サラが念押ししてくる。


「おう、約束だ」



 楽しみが一つ増えたな。

マリー「頑張ったわね」

サラ「が、頑張りました……」





次回から新展開に入ります!

ここまで読んでくださりありがとうございます!

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