第46話 呼び出されました
後日カインとアレンの報告によると、交渉は上手くいったみたいだけど、開発の方はまだかかるらしいからそのままお願いすることにした。
それから約1ヶ月、特に何事もなく過ぎていった。
そんなある日
「モードンさん、こんにちは」
夕方、カウンターで応対していると、モードンさんが現れた。
「いつものでいいですか?」
「いや、そのことなんですが……」
「どうかしたんですか?」
いつもなら軽い世間話をしてポテトやハンバーガーを買って帰るはずなのに、今日は買う気がないみたいだ。
「実は……セレド様がリュウ様の事をお呼びでして、出来るだけ早く来てほしいみたいです」
セレド様が俺を呼んでる?何かあったのだろうか。
「分かりました。そしたらサラに声を掛けて2人で行きますね」
「それが、どうもセレド様はリュウ様お一人で来てほしいようです。」
「一人ですか?」
俺一人で来てほしいってことは、俺にしか話せない秘密の相談があるってことだろう。
「了解です、すぐに行きます」
たまたま夕方以降はシフトが休みだったので、そのままセレド様の屋敷に向かった。
ーーーーー
「相変わらず大きな屋敷だな」
モードンさんの馬車に揺られて再びセレド様のお屋敷にやってきた。
この前来たときは昼間だったから全体が良く見えたけど、今日は夕方だから遠くは見えない。
けど、それがまた荘厳さを感じる気がするな。
今回は長い廊下の一番奥にある部屋に通された。
木製の扉をノックする。
「いらっしゃい、入って」
中からセレド様の合図が聞こえたので、重い扉を開けて中に入った。
部屋の中には左右に天井近くまで本が棚に収納されている。
そして部屋の真ん中には大きな机があり、上にはたくさんの紙が積まれていた。
セレド様の書斎みたいだ。
そして机の真ん中にセレド様が座っていた。
……あれ?本当にセレド様かな?
やけに丸い気がするんだよな。
初めて会った時には、背が高くて、シュッとしたスタイル。金髪が似合ったイケメンだったはずだ。
それなのに、今はその時の面影はあるものの、顔と首の境目はなく、二重顎を通り越して三重顎。
着ている服もボタンがはちきれそうだ。
「やあ、よく来てくれたね」
セレド様が丸々と太った腕をあげた。
「今日はどうしたんですか?」
何を言いたいのかは分かった気がするけど。
「実は、最近少し太ってしまったような気がするんだ」
「確かに多少はふくよかになった気がしますね」
少しじゃないけどねとツッコミたかったけどグッと我慢する。
「君もそう思うかい?ただ、原因がさっぱり分からないんだ。いつも通り過ごしてただけなのに」
セレド様が頭を抱える。
「ちなみに普段どんな風に過ごしてるんですか?」
「朝昼晩の食事の他に、君のところで買うポテトとたまにお腹が空いたときにはハンバーガーセットを食べるよ。あとは寝る前にデザートとか……」
「絶対に原因はそれですよ」
毎日おやつにポテトとハンバーガーとデザートを食べていればそりゃ太る。
「やっぱりか……」
思い当たる節はあったようだ。
「実はね、私のスキルが1ヶ月ぐらい前からこれ以上ポテトを食べるなと言い始めたんだよ」
セレド様のスキルは「直感」というものらしく、なんとなくする、してはいけないと思ったことはほぼ的中するという能力らしい。
「それならなんで止めなかったんですか?」
「それはこのポテトを愛しているからに決まってるじゃないか!」
それから5分ぐらいセレド様がポテトの魅力について語り始めた。
ダメだと分かっているのにやめられない、まさに禁断の恋!とか言い始めた時点でこの人終わってんなと思った。
「とにかく、そういうことでしたら、しばらくうちのポテト食べるの禁止ですね。あとハンバーガーも」
これ以上はセレド様の体調にかかわりそうだ。
お得意さんだし、やりたくないけど仕方がない。
「そこを何とか……」
「ダメです。セレド様のためですから。従業員の方にも言っておきますよ」
これで前みたいに直接セレド様が来ても買うことはできない。
そもそもその体型じゃ気付かれないかもしれないけど。
「そんな……僕はこの先どうやって生きていけば……」
セレド様はまるでこの世の終わりが来たかのように地面に倒れてしまった。
「また痩せてから食べればいいんです。そうだ、もしよかったら私がアドバイスしましょうか?」
実は俺は大学受験をした影響で一時期90キロオーバーまで体重が増えてしまった。
そこから25キロ以上落とした経験があるから多少は役には立てると思う。
「本当か!?ぜひ教えてくれ」
「まずですね、朝ごはんは汁物だけにしてください」
「汁物だけ?パンとかはダメなのか?」
「食べてはいけません」
俺がやっていたのは炭水化物を摂取する量を減らすダイエットだ。
もちろん全くとらないのは健康に悪いから調節はするけどね。
「そしてお昼ご飯にはこれを食べてください」
俺は収納魔法からあるものを取り出した。
「なんだい?この白くて四角のものは」
セレド様が怪訝そうな顔でのぞき込む。
「これは豆腐です」