第42話 セレド様が来ました
「風変わりな店内だね」
セレド様が興味深そうに見渡す。
やっぱりこの世界の人には馴染みのないものなんだな。ローサさんも同じ反応をしてたし。
ちなみにセレド様の後ろにはモードンさんがついている。護衛みたいな役割もしてるのかな?
「このような形になってしまい申し訳ございません」
セレド様が店内を見ている間に、モードンさんがそう言ってきた。
「いえいえ、とんでもないです」
セレド様が来たとなれば宣伝にもなるからね。ありがたいことしかないよ。
「そう言ってもらえて何よりです」
モードンさんが胸を撫で下ろす。
「2人とも何をしているんだい?早く注文をしようよ」
セレド様が近くにあった椅子に座りながらそう言う。
「あー、すみませんセレド様。このお店では店員が来る形ではなく、自分であちらのカウンターで注文をする形になるんですね」
そういって俺はカウンターの方を指差す。
「なので、私が代わりに注文を……」
「ストップストップ、それなら自分で注文してみるよ」
好奇心旺盛なセレド様は自分でやると言い出した。
そのままスッと立ち上がるとカウンターへ向かう。
「いらっしゃいませー!ソルーン・バーガーショップへよ……」
エマが途中まで言いかけて固まる。
お客さんがセレド様だって気付いたんだろうな。
「やあ、笑顔が素敵なお嬢さん、メニューを見せてもらっていいかな」
カウンターに腕を置きながらセレド様が話しかける。
動きがいちいちカッコいいな。
「せ、セレド様でございますか。かしこまりました」
エマが震える手でメニューを渡す。
そりゃめっちゃ怖いよな、俺でも初対面だったら同じ反応をしてると思う。
(会長助けてください!)
エマが目で訴えてくる。
(ごめんな、ちょっと上に行ってサラを呼んでくるからちょっとだけ頼む)
ジェスチャーを交えながら伝える。
(そんな!早く変わって欲しいです!)
(大丈夫!優しい人だから!)
グッドサインだけして、モードンさんに断りを入れたあと、ダッシュで2階のサラのところへ向かう。
今いるのは事務室かな?
階段を2段飛ばしで駆け上がる。
「サラ!サラいる!?」
勢いよく事務室の扉を開ける。
「どうしたんですか?」
帳簿に記入をしていたサラが顔を上げる。横にいたハンナも驚いているようだ。
「セレド様が来た。降りてきてもらってもいい?」
「......今なんて言いました?」
サラが恐る恐る聞き返す。
「セレド様が来た」
俺がもう一度繰り返すと、サラは大きく深呼吸をした。
そして2秒ほど目を瞑ってパッと開く。
「分かりました、すぐに行きましょう」
サラが立ち上がる。
「話が早くて助かる」
「この商会に入ったら慣れっこですよ」
ほんと苦労をかけてます。
「今セレド様って言いました?」
ハンナは慌てている、まだ把握し切れていないみたいだ。
「休憩室で休憩してる人に出てくるように言ってもらえるかな?」
「わ、分かりました」
とりあえず了承してくれたから任せることにしよう。
「よし、じゃあ下に戻るよ」
俺はサラを連れて1階に戻った。
ーーーーー
「うーん、牛バーガーもいいけど、いつものバーガーも捨てがたい。いや、ここは野菜バーガーなのかな?どう思う?」
「どれも美味しいと思いますよー」
1階に戻るとエマが懸命に営業スマイルで受け答えをしていた。
「セレド様ご機嫌よう。お出迎え出来なくて申し訳ございません」
サラが後ろからセレド様に声をかける。
「サラじゃないか?どうだい上手くいってるかい?」
「はい、おかげさまで商会はうまくいっています」
「それならよかった。ちなみにあっちの方は?」
「それはノーコメントでお願いします」
「OK、頑張ってね。上手く行ったら何かお祝いするよ」
セレド様が笑う。
「あ、ありがとうございます」
サラは苦笑いをしてた。
「それで、セレド様、注文は決まりましたか?」
「うん、牛バーガー牛乳セットで、追加でポテトをもらおうかな?」
「かしこまりました」
俺は注文を受けるとエマのところへ移動した。
(後は俺とサラに任せて)
(助かりました。ありがとうございます。緊張でどうにかなると思いましたよ)
(本当にお疲れ様)
エマにはとりあえず後ろの方で待機してもらうことにした。
「そういえば、代金の方はどうすればいいかな?」
セレド様が聞いてくる。
「いえいえ、お代は大丈夫ですよ」
「そういうわけにはいかないよ」
「セレド様にはたくさん助けていただきましたから」
バーガーセット1つのサービスでは返せないくらいの恩だからね。
「ありがとう、では今回はご馳走になることにするよ」
そして俺はセレド様に出す牛バーガーセットとフライドポテトを準備してカウンターに戻った。
「お待たせしました。ご注文の品です」
俺がカウンターのトレーを置くと、モードンさんがセレド様の代わりに受け取ろうとする。
「なんでも代わりにしてくれなくても大丈夫だから。自分でやるよ」
そういってセレド様自身が自分でトレーを取った。
「セレド様、大変申し訳ないのですが2階に移動していただくことは出来ますか?」
さすがに領主さまが他のお客さんに混じって食べるのは色々と問題がありそうだからね。
2階はフロアを閉めてたし丁度いい気がする。
「うん、分かった。それじゃあ移動しよう」
セレド様と共に2階へ向かった。




