第32話 副会長が決まりました
「サラがうちの商会に来てくれて本当に良かったよ。ありがとう」
ナターシャさんと別れてすぐにサラにお礼を言う。
俺一人じゃこんなこと絶対に出来ない。
そもそも異世界の仕組みを知らないこともあるけどね。
それを俺よりももっと若い人が成し遂げるんだから、すごい以外の言葉が浮かばない。
「今まで勉強してきた努力が報われましたよ」
安堵の表情とドヤ顔が入り混じったような顔をしている。
自分としても嬉しいんだろうな。
「よし、すぐにカインにも報告しに行こう!」
「はい、いい知らせは早く伝えないとですね!」
俺たちは急いで噴水広場に向かった。
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「師匠、先輩、もう終わったんすか?」
今日の屋台はカイン一人で頑張ってもらっていた。
慣れてきたから自分1人でも営業できるといっていたからね。。
「ああ、終わったよ。サラが全部うまくやってくれた」
「本当っすか!?さすが先輩っす!」
カインが弾けた笑顔で喜ぶ。
「これでカイン君ももっと沢山料理が作れるんじゃないかな」
「うっす!腕が鳴るっす!」
うん、カインもやる気十分だ。
「本当ならここでお祝いでもしたいんだけど、まだスタートラインに立ったところだからな。このまま気を抜かずに進めていきたい」
ここからが勝負だな。
「で、これまでの事を踏まえて2人に新たなポジションについてもらいたいなと思っている」
「ポジションっすか?」
カインが聞き返す。
「うん、近いうちに新しい従業員を募集することになるし、それに伴って2人にもまとめ役をやってもらいたいからね」
俺だけでまとめるのは良くないと思うから、2人にも協力して欲しいなと考えている。
「まず、カインには『料理長』のポジションについてもらいたい」
料理スタッフも何人か雇うことになるけど、その時、ハンバーグの作り方とかを教えたり、指示を出したりするのを頼みたいなと思っている。
「責任あるっすね。頑張るっす!」
「そしてサラには『副会長』を任せたい」
「え、『副会長』ですか!?」
サラが驚いた声をあげる。
「てっきり経理の責任者だと思ったんですが」
俺としては、サラはこの世界に来てほぼ最初から一緒に頑張ってきたし、もっと全体のサポートをしてほしいなと思っている。
俺より賢いし。
まあ現状は経理の仕事がメインだと思うけどね。
「そこまで言ってもらえるのなら……やらせてもらいます!」
サラが右手を俺に出してくる。
「これからもよろしく!副会長!」
しっかりと握手をした。
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数日後、正式にギルドの方からお金を借りることが出来た。
計画書にあった通り、金額は2500万クローネ。
サラによれば利息込みで毎月200万ずつ返していく予定みたいだ。
家賃400万、返済200万それだけで600万クローネ月に稼がなければいけない。
屋台と同じ稼ぎじゃ全然足らない、色々工夫していかないとな。
「とりあえず、ドルホフ商会に正式に依頼しましょうか」
サラの提案にのることにする。
「了解、副会長」
「あの、毎回副会長って言うのやめてもらってもいいですか?なんか……こそばゆいです」
サラが照れたように言う。
「いいじゃん、副会長なんだし」
「いや、その、リュウさんにはサラと呼んでほしいなと思いまして……」
急にもじもじし始める。
「そこまで言うならそうするけど」
自分の名前にこだわりでもあるのかな?
まあ男爵の家の人だしそういうところでもあるんだろう。
「はい、それでお願いします」
そんなやり取りをしているうちにドルホフ商会にたどり着いた。
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「ほう!もうお金を借りられたのか!」
契約を結びに来たことをドルホフさんに伝えたらそんな風に言われた。
「おのれあの爺、わしに貸すときはあれだけ渋るくせに」
「あの、その方とは」
「ん?ああギルドマスターのドイルの事じゃ。何十年も前からの付き合いでな」
ギルドマスターのこと爺って呼べるような人そうそういないと思うんだけどね。
というか俺はまだ会ったことすらないし。
「さすが期待の若手は違うのう」
「いえいえ、うちの副会長のおかげなんですよ」
そう言って横のサラをアピールする。これは俺の手柄ではないからな。
「ふむ、期待の若手は嫁も優秀ということじゃな」
ドルホフさんが頷く。
「嫁って違いますから!」
こういう案件になりそうなことは即座に否定しておかないとな。
「なんじゃ、違うのか。見たところてっきりそうだと思ったのじゃがの」
「そ、そ、そうです。ち、違いますから!!」
サラも顔を真っ赤にして否定する。
「ほっほっほ。仕事の方は優秀でも、そっちの方面ではまだまだ未熟ということじゃな」
勝手に1人で納得し始めた。それに俺が契約を結びたいって言った時より嬉しそうな顔をしてるし。
「ただ気を付けることだのう。油断してると誰か他の人が現れるかもしれないぞ、こういう男には」
「だ、大丈夫です!それよりリュウさん早く契約を結びましょう」
「ん?分かった」
話はもういいようだ。
「そうじゃのう、仕事の話に戻そう」
こうして俺はドルホフ商会の方と契約を結んだ。
費用は先に半分払って、完成した後に残りを払うということになった。まだ正確な値段が確定してないこともあるからね。
「いつまでに完成できそうですか?」
「そうじゃのう。5日後の来月1日から工事ができるんじゃろ?そしたら2週間で仕上げられるかのう」
「分かりました。それでお願いします」
「うむ、早くて正確に、がドルホフ商会のモットーじゃ。楽しみに待っておれ」
「はい!」




