第31話 サラが頑張りました
数日後の朝、ドルホフ商会の方から俺宛に手紙が届いた。
『サート商会会長 リュウ様』
と封筒の表に書いてある。
早速封を破って中身を見てみる。
……とりあえず内容をサラに報告しよう。
俺は急いで朝の準備を済ませると広場へ向かった。
ーーーーー
「おはようございます!」
いつも通り噴水の前でサラが待っていてくれていた。
「おはよう、今日の朝ドルホフ商会から封筒が届いたんだ」
一度見た封筒をサラに渡す。
「見積もりの中身ですね……」
サラが真剣に手紙の内容を読み込む。
「最低1800万クローネですか……」
サラが難しい顔をする。
内訳としては1階2階の内装込みで1200万クローネ、椅子や調理器具等の準備で600万クローネだ。
今回の場合オーブンやフライドポテト用の器具が特注となるため、もう少しかかるかもしれないとも書いている。
「2000万クローネはかかると思った方がいいかもしれないね」
サラの予想では1500万ぐらいだろうと言っていたからそれよりもやや上回る金額となった。
「……今日のシフトが終わったら計画書の修正をしますね」
「負担をかけて申し訳ない」
手伝いたいとは思うんだけど、話が専門的になってくるとついていけないんだよな。
ここは任せるしかない。
「いえいえ、こういうことがしたくて村から出てきたんです。頑張らせてください」
サラが生き生きした顔で言う。
「分かった。無理だけしないようにね」
そんな風に言われたら引き下がるしかないな。
「はい!」
サラは力強く頷いた。
それからは2人で屋台の準備をして営業を始める。
そして昼過ぎにはサラとシフトを交代するためにカインがやってきた。
「お疲れ様っす」
いつも通り軽い感じでカインが挨拶をする。
「お疲れ。カインちょっと話があるんだけどいいかな?」
「どうしたんすか?」
「シフトの事なんだけど」
そういって俺はカインにシフトの変更したいということを伝える。
今日はもともとシフトが入っていたからサラにも屋台をやってもらったけど、明日以降は俺とカインの2人で屋台をまわすことにしようと思う。
サラに計画書に専念してもらうためだ。
今回の開店計画で一番の山場だからな。ここでお金を借りられなかったら、計画が1からやり直しになるといってもいい。
カインにはハンバーグ開発が終わったから、今度は新メニュー開発をお願いしてるんだけど、それは後回しにしても大丈夫だろう。
「了解したっす!明日からっすね」
カインが快諾してくれる。
「わざわざありがとうございます」
サラが申し訳なさそうに言う。
「大丈夫っす。先輩の分もきっちり働くっす!」
カインが笑顔でVサインをする。
「2人の期待に応えられるように全力を尽くします」
こうしてサラは決意を固めた表情で帰宅していった。
ーーーーー
サラが帰ってから3日後、俺はサラと一緒に商人ギルドに向かうことになった。
サラの書いた計画書をもとに商人ギルドから融資をもらうためだ。
お昼前、商人ギルドに向かうと、入り口のところにサラがいた。
若干疲れたような表情だ。
「おはよう、目のくまがすごいけど大丈夫か?」
「あ、リュウさん。大丈夫です、昨日緊張して眠れなかっただけですから」
サラが欠伸をしながら答える。
「それならいいけど。いけそうか?」
「はい、出来る限りのことはしました」
自信のある表情をする。
「よし、それじゃ行こうか」
俺たちは商人ギルドの門をくぐった。
「お待ちしていました」
あらかじめ行く時間は伝えていたからナターシャさんが待っていてくれた。
そして2階の個室へと移動する。
「では、始めましょうか」
椅子に座ったナターシャさんが手に持っていたメガネをかける。
いつも真面目な印象だけど、メガネをかけるともっとそう見えるな。
「はい、ではこれをご覧ください」
サラが束になった計画書をナターシャさんに渡す。
「お預かりします」
ナターシャさんが机の反対側から手を伸ばして受け取った。
「……2500万クローネの融資ですか」
そうつぶやきながら計画書を読み進めていく。
「商会の資産額、想定する人件費、なるほどなるほど」
ナターシャさんが読んでいる間はこっちは待っているだけだから、時間が進むがゆっくりに感じる。
20分後
「内容は分かりました。これからいくつか質問をさせてください」
ナターシャさんが計画書を読み終え、冊子を閉じるとそう言った。
「なんでしょうか」
サラが姿勢を正す。
「計画書にスキルの果実による代物弁済とありますが」
「はい、万が一の時にはリュウさんのスキルから生じる食品で支払いが出来ればなと思いまして。保存はスキルの方で時間経過無しで可能ですから。うちの商会の場合、抵当権を設定できるような不動産もありませんので」
「なるほど。サート商会ならではですね」
ナターシャさんの質問にサラが答えていく。難しい用語が飛び交っていて俺に口をはさむ機会はなさそうだな。
話を聞いている感じ、もしお金が返せなくなったときにどうするのかと言うのを話し合っているみたいだ。
しばらく2人は舌戦を繰り広げる。
そして
「把握しました。これでギルドマスターに申請してみます。リュウさんはスタンプホルダーですし、この申請は通ると思ってもらって大丈夫ですよ」
ナターシャさんが笑顔でそう言った。
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ほっとした。これ以上の言葉は出てこない。この世界に来て一番緊張した時間だった。
「よかったぁぁぁ」
サラも大きなため息をつく。相当気を張り詰めていたんだろうな。
「これを機に商人ギルドの方でサート商会の銀行口座をお作りしますね」
「はい、よろしくお願いします」
確かに屋台でお金は管理できるけど、そのまま現金でドルホフ商会に何千万も払うわけにはいかないもんな。
「では、今日はこれで。このままギルドマスターのところに向かいます」
そう言い残すとナターシャさんは先に部屋を出ていった。
よし、俺たちも帰ろう。




